悔しい
私は、ギリギリと歯軋りをした。率直に、悔しい。
騙されていた私が。
それを信じていた私が。
過去の楽しい記憶が。
なによりも、私がフロストに手を貸した事でいちばんの危険に陥れていたということが。
私がした事全て、裏目に出ていた。
おばあちゃんが私を導き、戻れないところまで引っ張り、罠にかかってしまって。
なぜ、おばあちゃんにもらったこの本だったのか。
なぜ、ページが増えていたのか。
もっと気がつこうと思えば、早い段階で変わっていたかもしれないのに。
でもここまできてしまって、後には引き返せない。それなら、前を見て進むしかない。
そうやって自分に言い聞かせても、キリキリと胃が痛む。苦しさは、深呼吸なんかをしたってなにも変わらなかった。
「ティタニアを使って、私を使って……フロストを傷つけようとしているなら! 尚更、おばあちゃんに負けられない!」
おばあちゃんが、絶やさない笑顔のままこちらに近づいておでこがくっつきそうな距離になる。いくつか瞬きをして、唇が開かれた。
「どうやって? 香澄なんて、ただの人間で。な〜んにもできっこ無いんだ」
それは、間違いないことだ。ここまでくるにも、ラミーの力を借りて……。
――これだ。
「セスティア!」
私は、大きな声でラミーを呼ぶ。まさか私がラミーのことを呼ぶだなんて思わなかったのか、おばあちゃんの表情は一瞬驚いた。しかし、こんな場所にラミーが来るわけないと思ったのかすぐに笑い出す。
とくに何かを言うわけではないが、バカにするかのように笑う。
でも、あの閉鎖的空間である秘密の図書館に呼び出せたのだから今回だって。そう願いを込めた。それに、どれだけおばあちゃんが強くたって。相手は、女神ラミーだ。ティタニアではダメだと言いつつも、おばあちゃんにダメとは聞いていない。
ラミーだって、かなりの感情をおばあちゃんに抱いているようだったわけで。手を貸してくれるはずだ。
――お願い。
「こんなところには、来ることは叶わない」
私の中での最終手段だったラミーがきてくれないとすれば、私はどうしたらいいのだろうか。負けたくはない。この感情だけが一人歩きをする。止められないおばあちゃんの作戦の波を指を咥えているしか無いのかもしれない。
「まだ、わからないじゃない!」
私は、胸に手を置いて祈る。指先に何か硬く冷たいものが触れる。それを手のひらで包み込む。
まだ、私には手を貸してくれる人物がいた。ずっと私のそばで、助けてくれていた存在。
「メルシオン」
主人では無い私だけど、それでも彼女なら助けてくれるだろう。なにより、話を全て聞いているのだから。




