記憶
私は一歩前に出て、おばあちゃんに近づいた。ジリっとにじり寄り、眉を寄せた。
「私の記憶を改ざんされて……挙げ句の果てに、私を利用しようって?」
私の気持ちを踏みにじられて、その上に利用しようだなんて。そんな都合よく頷くわけがない。おばあちゃんの楽しそうにしている顔が、私の心の中とは相反して輝いている。
胸を締め付けられているかのようで、苦しくてしかたがない。
私が言い返してくることも想定内だったようで、おばあちゃんの表情はピクリとも動かない。むしろ、笑みが増えて私の心臓には冷気が入り込んでくる。
私とおばあちゃんしかいないこの空間で、おばあちゃんの時折漏れる笑い声以外何も聞こえない。それがまた、ひんやりとした冷気を感じさせる。
「香澄は、これ以上知ったところで。なにもできないんだ」
子供を宥めるかのような言い方。幼い頃に、泣いて仕方がない私に手を差し伸べてくれたおばあちゃんがフラッシュバックする。嘘の記憶。それなのに、こんなことを言っているものの本当にあった出来事なんじゃないか。そう思ってしまう。
ぎゅっと目を瞑って、自分の渦巻く気持ちに整理をつけようとする。
結局のところ、目を瞑ったところでひとりにはなれず永遠に感情が渦巻くだけ。何とか苦しさだけでも解放したくて、深く呼吸をとった。
「おばあちゃんは、ティタニアを使ってどうして世界を壊したいの?」
これがなによりも肝心なところだろう。そのために、妖精になる器をわざわざ、こちらの世界に運んできたのだから。大きな意図があるに違いない。そうでなければ、どんな思いつきなのか。という問題になる。
固く閉じた瞳を開けて、おばあちゃんを真っ直ぐに見る。向こうは、視線を逸らすことなくずっと私の事を見つめていた。その視線は矢の如く、鋭さがある。フロストや妖精、ラミーでも知り得ない私の幼少期を知っている。造られたおばあちゃんとの思い出についても、きっと創り出した本人なのだから知っているのだろう。
だからこそ、今の私のぐるぐると回る気持ちにも鋭い視線で見通している。ならば尚更、私が視線を逸らすわけにはいかない。
「ヒヒッ。私が、魔王として相応しい器の持ち主だからだよ。フロスト……今の魔王がこちらにくるように仕向けたのだって、私だよ。妖精を集めて力をだなんてさ! 誰が思いついて、魔界につくった本を置いてきたのか」
名案だろう。そういう笑いが、ふたりきりのこの空間の中に響く。
耳が痛くて、おばあちゃんの笑い声を遮断したくなる。
(ということは、フロストがなによりも危険なのでは!?)
おばあちゃんの狙いは、フロストということになる。そのために、ティタニアを使ってこの世界を破壊しようとしている。そのための第一歩として、私を乗っ取り利用したいのだろう。
ここまで話を聞いて推測ができないほど、頭はかたくない。




