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過去

 前回よりも、身体は軽くて雲の上にでも乗っている様な気分になる。重力のない世界で、空中に飛び上がりグルグルと身体が回転したり。


 そんなことができそうな身の軽さ。




 それなのに、頭の中は混沌としていて晴れやかな気分にはなれない。重さのない身体と抱えたくなる様な心うちと脳内。という反比例している心理に混乱してしまう。




「うぅ……どうしてこんなことに」




 声に出ているのか出ていないのか、それすらも分からない状況だ。




(夢だったならば、また……呼び起こして欲しい)



 そう願ってしまう。起こしてくれる相手は、いつも通りで行くならばおばあちゃんだろう。しかし今はおばあちゃんではなくて、フロストに起こしてもらいたい。


 

 彼の低音ボイスが心地よく響く。ハラハラドキドキでいっぱいで恋心すらも置いてきてしまう状況だったのだから、一旦あのハラハラ感は忘れてしまいたい。

 単純な頭だからこそ、上書きして欲しい。お願いだから。




 どこにいるかも分からぬ神に祈るしかない。



 ――あぁ、そういえば。女神様がいるんだったなぁ。




 

「香澄ちゃん、こっちおいでっ」





 やはり呼び止める相手は、おばあちゃんだ。私の目に映るのは、小学生ぐらいの時だろうか。縁側でくつろぐおばあちゃんが、私のことを手招きして呼ぶ。




 何故だかおばあちゃんは、おやつをくれる時にだけ『香澄ちゃん』と呼ぶのだ。それ以外の時は、ちゃん付けなんてしないのに。




 にこやかな笑顔は、先ほどのティタニアと接している笑顔の無い人物と同一とは思えない。脳裏に焼きつく先ほどの姿は、儀式とはいえど冷たさを感じさせた。




 手招きされる、おばあちゃんの方へ吸い寄せられる。ドテドテと歩いているのか、目の前の視界はかなり揺れる。頭の先にまで伝わる振動が、とてもリアルだ。


 本当に小学生頃の私に戻ってしまったかのように感じる。



 近づき、おばあちゃんの膝の上に手を置く。すると、上機嫌なおばあちゃんの腕に包まれた。シワも刻まれたざらりとする肌で頬擦りされる。




「きっとこの先、何かが起こる」



 それは預言者のようで、頬から伝わる温かさとは反してどきりとする。




「でもね。思い出して欲しいのよ」




 頬を離し、私の頭に触れてきた。節がたった皮の厚い指先が、私の髪をすいていく。




「香澄にはいつだって味方がいるってことをね。色んなことを香澄に授けてきたのだから」



 私は返事をしたくて唇を開く。それなのに声は出てくれない。瞬きを数度したところで、何も変わらなかった。



「大丈夫よ……ほら、みんなが待ってるわ」




 ふわりと微笑むおばあちゃんは、私の記憶の中にいる人物と一致している。温かすぎるほどに、おばあちゃんの腕の中に包まれた。




「ほら……」




 頭を撫でていた手が目隠しをするようにして、覆い被さる。視界は閉ざされ、聞こえてくる声も途切れ途切れとなった。




「……目を閉じて。またね」


 



 



 

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