優雅
私は、コソコソと隠れるようにしてフロストの少し後ろを歩く。なるべくくっついたまま進んでいく。
月光によって、フロストの氷の剣が冷たさを増した光を放つ。
「こんばんは、ここまで良くいらっしゃいましたね」
その声と共に銀の長い髪を揺らして妖精が、頭上の高い位置に現れた。にこやかな表情に、柔らかな声。月の光の冷たさとは相反した妖精のように感じる。
人間の半分ほどのサイズ感で、ふわりと見えない階段を一歩ずつ降りてくる。それもかなり優雅な動きで、長い銀の髪は落ち着いた海の波のようなウェーブを描いている。
言葉尻からしてもお上品さが溢れていた。見た目と話し方、纏う空間までもが気品に満ちている。
「ごきげんよう。私にご用ですの?」
ふわりと微笑む笑みまでもが、優雅極まりない。月光と上品さの妖精。この雰囲気に呑み込まれてしまいそうだ。
私はいまだに、顔をひょこっと覗かせているだけで固まっていた。
「戦わずとも、こちらに力をくれたら用は済む」
「……なるほど。そもそも、私の力が何かご存じなのかしら?」
正直に答えてしまえば、この妖精の名前すら載ってない。そんな状況の私たちは、彼女がどんな力を宿しているのかは知るわけがない。
今まで、どんな力があるのかは戦って知ってきた。
――こういう時って、正直に言わない方がいいんじゃ……? いや、私は黙っておこう。
「お前がどう、というよりも。"秘密の図書館"について、知っていることはあるか?」
「秘密の図書館?」
そう、秘密の図書館はフロストと出会った当初から出ていたワード。今まで影を隠してきたその存在が、ここへきてもう一度姿を現した。
ということは、彼女が何かを握っている。そう考えるのが自然な流れだ。
ここへ来るまでに通過した"秘密の図書館"であろう畳の部屋。そこと結ぶ月の妖精。因果関係がないわけがない。
私は、真相に迫れるドキドキ感から喉を鳴らした。
畳の部屋には、図書館というにはふさわしくない場所だった。本の姿は感じられず、場所だけが秘密と言った具合に感じていた。
「ふぅん。じゃあ……なにも知らないということね」
顎に指を置いて、考えるそぶりを見せたかと思えば、少し間を置いてから最初の笑顔を貼り付けた。もはや、その笑顔は作られた笑顔のようで少々怖い。
笑顔のまま、こちらにジリジリと寄ってくる。距離を縮められるが、何かをしてくる様子は感じられない。
しかしフロストの臨戦体制は変わらないので、私は彼の後ろに隠れておくことにした。なにが起こるか分からない。その思いで様子を伺う。
「秘密の図書館へ繋がる道は、この私。ユエが鏡になるから、月を写すことで繋がるのよ」
鼻高々にして、鏡の姿の自分を自慢するかのようにユエは答えた。私たちからしたら、自分たちの得たい答えと共に彼女の姿を知ることができた。ありがたい自白この上ない。




