ファンタジー世界
まっすぐ下へ伸びる階段を降りている。軽快な音を立てて、私は降りていく。軽やかな足取りで、少しばかりワクワクなんかもしている。
月の妖精は、月の住人として昔から語られるほど。1番身近なファンタジー世界のことだ、知りたいと思うもの。
怖さ知らずではなく、何よりもここまで色々な経験をしたおかげで少しばかり気持ちは強くなっている気がしていた。
――まぁ、それならそれで……決断力高めよう? って話なんだけども。
「この先に、月の妖精が待っているのかな?」
「どうだろうか」
そう言うとフロストは、スッと視線をずらす。その視線の先には、月なんて見えない。月の見えた方角とは反対方向なのだから、当たり前のことだ。しかしながら、月の妖精なはずだった。少しばかり、心配になってくる。
かなりの暗さで、進むべき道を疑いたくなってくる。フロストのため息混じりの回答も、正直納得してしまう。
ジィランの指し示す赤の矢印は、今まで間違っていなかった。妖精は他の妖精の位置がわかるのか、私の胸元にいるフィルもジィランの指す階段を言っていた。
それならば、彼女たちの言葉を信じない手はない。
そう思って、私はこのジィランの指し示す先を信じて進んでみる。最後の階段を降り切った。
フロストの手の中にあるジィランは、まっすぐと前を赤で矢印を指している。ジィラン以外の目印のないまま、私たちは進んでいく。
パキッ
何やら枝でも踏んで折ったような音が、私の足元から聞こえてきた。前回の罠に引っかかった手前、この音にはヒヤリとしたものが身体の中に流れ込む。
焦りを感じる必要はなかったようで、背中から大きな丸い満月が顔を覗かせた。背中から青白い光が差し込み、私たちを照らす。
――まさか?
「月の妖精か」
太陽の光とは違って、寂しさを孕んだ月の光。月光下に映る景色が愁を帯びているように見える。
なのに不思議と隣に並ぶフロストは、ピリついた表情を浮かべ月光を跳ね返していた。月の妖精との戦いに備えているのだろうが、彼のいる場所だけが異空間になっている。
私も出来ることはやるんだ。そう意気込んで、気合いを入れ直した。
身を翻し、月の方を見据える。
「グレイシス」
「……私も女神さまを呼んだ方がいいかな?」
コソコソと彼に耳打ちをする。身長差がありすぎて、性格には耳ではなくて肩に話かけるようになってしまった。
少し居た堪れなくなり、視線を逸らした。
「まだ、いい。本当に必要な時に呼ぶべきだ」
「うん。わかった!」
あれほど楽しみにしていたのにも関わらず、いざ目の前にすれば緊張で心臓が跳ね上がる。いろんな戦いを切り抜けてきたからこそ、月の妖精との戦闘に緊張感が走る。
彼にピッタリとくっつくようにして、大きな月の方へ歩き出した。
ボスにくっつく下っ端のような構図で進んでいくが、私的にこれが最善なのだ。なぜなら、またいつ罠に引っ掛かるかわからない。それならば、フロストにくっついておいた方が身の安全を守れる。
海辺で罠にかかったのも私。枝を踏んだのも私。……ここまできたら、次に何か起きてもおかしくない。




