文字の正体
私は、部屋を一瞥した。他に気になることと言ったら、特に無いように感じる。
やはり、この壁を壊す以外に方法はなさそうだ。
あまり力に訴えて、無理に謎をねじ伏せるというのは好きではない。だからと言って、ここにずっととどまるわけにもいかないだろう。
頭をひねらせ、視線をぐるぐると天井から床へとくまなく見て行く。この景色に穴でも開く勢いで、私はヒントを探し始めた。それでもないなら、壁を壊しても致し方がない。
そうでないなら、正直なところ諦められないでいる。頭を抱えてうずくまってしまいたい、そんな気分だ。
しかしそんなことも言ってられないので、穴の空いた壁にもう一度視線を向けようとした。身体は完全に別を向いてしまっていたので、足を下げて方向転換をした。
カランと音を立てて、フロストが無造作に置いていた掛け軸に足がぶつかった。文字の書かれた周りを彩る深い緑色と目が合う。下に置かれた掛け軸を手にして、広げてみる。
――そういえば、掛け軸の文字って?
「これって、文字じゃない!」
ミミズが這う文字は、文字ではなかった。上から下へ向かってぐるぐると線は描かれており、下側で右に小さな矢印が書かれていた。
矢印の大きさはかなり小さく、凝視しなければ気がつけないほどの小ささで書かれている。
見落とすのも無理はなさそうだ。
先ほどかかっていた方に掛け軸を持っていく。矢印の先を手で探っていくことにした。
見た目では判断がつかないほど、壁にはおかしなところは見受けられない。
ざらざらとした塗り壁を手のひらで触って、横にスライドさせた。手のひらは、床の間を区切る柱にぶつかった。
掛け軸からここまで、何も手のひらに伝える変化はなかった。
少し上下が違ったのかと、急いで上側と下側も確認した。しかし、何も無い。壁からそっと手のひらを離して、ぺたりと座り込む。手のひらがジンジンとして、熱を帯びた。
――何もない? じゃああの矢印は?
「この柱の先は、どうなんだ?」
今度は、フロストが確認をしてくれる。柱の右側にも壁が続いており、その先を探してくれるようだ。
突如として金属音がした。やはり何かがあったのか、フロストは私の方に顔を向ける。
私は瞬きを数回して、壁に顔を近づけてなんの音だったのか見る。そこには上手く壁と一体化した、扉の取手らしきものが顔を覗かせた。
その部分を押し込むと、ドアハンドルが出て来た。
壁の下の方に付いているが、引っ張れば扉が開きそうだ。その先に何かあるかもしれない。そんな思いで、喉を鳴らした。
出て来たドアハンドルにフロストの長い指がかかり、ゆっくりと扉が開かれる。




