妖精の力
私は、シュイは文句を言いつつもやるべきことはやってくれると思っている。フロストは、私の考えとは逆なようで半ば諦めているようにも見えた。
――それなら私が、うまく言って……。
「シュイにしかできないことなの。お願い!」
『しょうがないなぁ〜。ボクに任せて! ヴェルナ!』
大きな音ともに波が押し寄せる。そして足元の砂が波にさらわれて、足枷が外れた。
以前のような全てを飲み込む波ではなく、ちゃんと加減をされているようだ。足にまとわりついていた砂が流れたら、波はおさまった。
ようやく動けるようになり、砂を払うように足を上に上げた。
「香澄!!」
フロストの声が早いか、視界が変わるのが早いか。そんな勢いで、上から檻が降ってきたのだ。
私だけを取り囲むようにして、鳥籠の中に閉じ込められてしまった。
檻に手を伸ばして、金属出てきた檻を握る。一本一本がかなり細く間に隙間もあるが、到底通ることはできない。身体をその間にねじ込むことを考えすらできない隙間に、恨めしさを感じる。
――もうこうなったら!
「セレティア」
その言葉を言えば女神であるラミーの光がさして、大きな美しい姿を見せてくれていた。それなのに、うんとんもすんとも言わない。
ラミーの姿を表してくれていた今までとの違いを考えてみる。特に大きな違いはないはずだった。もう一度、呼び出してみようと試みる。
「香澄、その檻の中では何もできない」
フロストは、すこしも動かずそのままの位置にいた。上半身だけこちらに振り返っている。彼を見て思い起こした。
――もしかして?
「動くなってそう言うこと?」
『明らかに罠にしか見えないでしょ……』
「うっ」
胸元についている花の妖精フィルが、呆れ声を出す。どうやらまたも、分からなかったのは私だけなようだ。
しかも『明らかに』と言われるほど、分かりやすかったらしい。私からしたら、全く感じもしなかった。
返す言葉もなく、ただ立ちすくむしかない。できることも無くただやるせなさでいっぱいになる。その気持ちからか、無意識のうちに檻を握る手に力が入る。
檻の外にいるフロストは、指を顎に当てて考えているのが後ろから見てもわかる。足元の動きはまだ封じられているかの如く、ぴくりとも動かさない。
何もできない私は、完全にお荷物だ。申し訳なさでいっぱいで、口を閉じるに越したことはないだろう。
「フォン グレイシス」
氷のような凍てつく冷たい風が吹く。頬を劈くような温度にヒリヒリとした感覚が走る。
それに対抗する相手なんて、目の前には存在しない。それに、扉が閉まったり私が鳥籠に閉じ込められたこと以外には景色の変化はなにも無かった。
ただこれは、今までの観点から私だけが気がついてないパターンな気もする。フロストには、敵の場所までしっかり見えているのかもしれない。
――フロスト……足手纏いでごめんね。
「そんなに私と対峙したいの?」
そう声が聞こえ、目の前が一転した。先ほどでの冷たいフロストの風が嘘のように、煮立つほど熱い。
周りが地鳴りのような音を立てて、壁が現れて建物の中に飲み込まれる。大きな建物で、学校の体育館ほどの大きさだ。
「それで?」
ふわりと飛んで姿を現したのは、イラスト通りのショートヘアの女の子だ。ブロンドヘアに赤のショートワンピースを身につけて、にこやかにしている。
なにやら棒を片手に、背中には妖精らしい羽を生やしている。にこやかにしているが、内心は誰にも分からない。
手のひらサイズの小ささで、大きな存在感を感じる。ふわふわと舞い飛び、私が閉じ込められた鳥籠の周りも一周する。
「罠にかかるなんて……おばかさんなのかな?」
「んな!? ……ちょ、ひどくない?」
と言ったところで、誰も賛同なんてしてくれない。みんなして、おそらくこの炎の妖精に同意見だろう。
寂しさを感じつつも、炎の妖精に話しかける。
「炎の妖精でしょう? 名前は?」
「私は、フラム。ここまでよく来れたね、こんな罠に引っかかるレベルなのに」
「た、たまたまぁ、罠に気が付かなくて〜……ってそんなことは良くて! 古代魔法を貰うんだから!」
指を合わせていじけたのも一瞬。合わせていた人差し指をびしりと、フラムに向ける。ため息が胸元のフィルから聞こえてくる気がするが、聞こえないふりをする。
もはやフィルにとっては、見てられない状況なのだろう。
妖精たちはそれぞれ、なんの妖精かが分かりやすい名前をしている。フラムもどことなく、炎ぽい雰囲気がある。
私はまずこの檻から出なくてはいけない。フラムとフロストの戦いが始まるまでに、なんとかしようと意気込む。
ただ、今の私は丸腰状態。というか、女神を呼び出せないし外に出る手段はまるで浮かばない。




