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この先は?

 間近にいるフロストに、ドキドキとしながら本が見えるように開く。

 手が緊張で微かに震えるが、そう思わせないように力んだ。



「私の知っている部分は、ここに載っているんだけど……」

「ティタニアが書かれては、いない。か」

「うん。しかも、私自身も知らないの」




 やはり何度開いても、続きになる部分は見当たらない。ため息をつきつつも、探してしまう。

 後ろから手が伸びてきて、フロストの白い指が文字を辿る。




 スウっと紙を撫でて、フロストも文字を取りこぼさないように見ているようだ。さらに距離が近づいて、呼吸を止めてしまう。

 

 


 ――本当に、近すぎる! 息が、できない!



「……書かれていない、か」




 彼の息が、私の髪を揺らしてしまいそうなほど距離が近い。呼吸を止めているからなのか、果たして近い距離にいるから緊張をしているのか分からない。

 それでも、ドキドキと心臓が早鐘を打っている。




 書かれていないことを確認したフロストは、身を引いた。離れていき、ようやく酸素を吸い込んだ。

 短い呼吸を何度かして、離れた彼の方に振り返る。




「か、書かれていないの」

「そうだな」




 ――やっぱり、あの夢の中は違ったんだ。




 私はそう言い聞かせて、新しく追加された炎の妖精のページを開いてフロストの目の前に出した。

 今度は、腕を目一杯に伸ばしているので覗き込まれることはない。





 至近距離というのは、嬉しさを通り越して心臓に悪い。

 本をそのままフロストに渡して、胸に手を置いて呼吸をとった。




 視線も外して、平然を装う。普通に考えて、第三者から見たらおかしすぎるのだろうけど。

 何とか少しでも隠しておきたい。




「早く行かないといけないのでしょう?」

「そろそろ出ようと思う」




 本を閉じて、立ち上がった。このテントは、かなり高い身長のフロストが立ち上がっても天井に余裕がある。私も彼に続いて立ち上がり、寝袋と毛布の片付けをした。



 準備を何から何までしてもらったので、片付けぐらいは参加する。




 フロストの手の中にあるコンパス型になったジィランが、次行くべき方角を指し示している。無言だが、確実に行くべき場所を教えてくれていた。

 ここまで進んでこられたのも、彼女のおかげでもある。



 これで、残り3人の妖精を探し出すのみだ。そうすれば、気になって仕方がないティタニアに近づけるだろう。

 上空を鳥が飛び、どこまでも澄み渡り美しい空気の中に私たちはいた。それなのに私の心の中は、ざわざわと何か嫌な予感がしていた。




 この嫌な感じが当たらないことを、心中で手を合わせて祈った。この嫌な予感が何か全く分からない。




「どこにいるのかなぁ」




 前回の太陽の妖精ユンネの時は、ひまわりが彼女の光によって咲いた。その風景が、モノクロームでイラストになっていた。今回のイラストは、炎らしき丸いイラストが描かれている。

 今度は、炎がある場所なのやら妖精によってその場所を生み出されるのか。




 考えたところで、それに対して答えは出ない。なので私たちは、導かれるままに進むしかない。




『こっちにいる』




 真っ直ぐに答えにジィランに答えられ、赤い針をぐるりと回して進むべいき方角でぴたりと止める。水の妖精シュイは、可愛らしいブレスレットの形だからなのかフロストのポケットに仕舞われているようだ。

 くぐもった声が微かに聞こえてくるが、何と言っているのかは定かではない。みんなそんなシュイをスルーしていて、BGMになってしまっている。

 

 

 

 そのまま真っ直ぐに示されるまま進んでいく。

 どこに向かっているのかは、私を含めてコンパスのジィラン以外分からないだろう。



(もしかしたら? これだけ確実な歩みなら、フロストは知っているのかもしれない)



 過去のことを思い起こすと、その路線も捨てられない。

 聞いてもしょうがないことなので、私は言葉を紡いでおく。これだけ妖精も集まっているのに、私が話さないとここまで静かになってしまう。シュイは、うるさく何か言っているがそれはそれとして……。



 鼻に届く潮の香りに、私は飛んで喜んだ。




「海だ!」




 木々の合間から、少し海が見える。海に近づくにつれて、当たり前のことながら大きくなっていく。目の前の木々が消えて、海だけが目の前に広がった。上空の雲のない空と海が一体化していて、より大きく広がっているように感じる。

 


 息を呑むほどの美しい景色に、目を輝かせてしまう。




『海の中に入っちゃダメ』



 花の妖精フィルに止められて、私はハッとなる。無意識のうちに、落ち着いた海に足を進めていた。

 

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