キャンプ
ゆらめく炎が、フロストの横顔を照らしていた。キャンプ飯を作ってくれているのだ。
楽しそうにしているので、私まで楽しくなってくる。距離の関係で帰宅ができないからという理由でキャンプをしているのに、しっかり楽しんでいる。
「これにパンをつけて」
コーンスープにパン、じゃがバターが出来上がっている。ホワホワと立ち上がる湯気に、空腹を煽る。
パンもフライパンで焼いてくれたようで、熱いぐらいなのだ。
プラスチックに入った器を渡されて、良い香りが鼻を駆け抜ける。パンをコーンスープに、どっぷりと潜らせて頂く。
「いただきますっ!」
パクリと口に含むと、コーンの甘さと共にパンの小麦の香ばしさが広がっていく。舌がとろける美味しさに、舌鼓を打つ。
じゃがバターは、家で作るよりもしっかり火が通っていて焦げめがついている。その焦げめまでもが、美味しい。
バターの芳醇な香りとじゃがいものほくほく感が、マッチしているのだ。
「うまぁ〜」
第三者目線で見るときっと私の周りには、お花が飛んでいるだろう。それほどに絶品なのだ。
完全に、気を抜いたリラックスとした空間になっている。
「明日も朝早いから、ゆっくり休んだほうがいい」
フロストは、立派に建てられたテントの中を指さしている。次の炎の妖精に会うには、朝がどうやら早いようだ。
前回休んだときから、気がついたらここまで来ていた。疲れもかなり積もっているので、身体を横に休めたい気持ちは山々だった。
しかしながら、こういう時に座ったら最後。体の重さは増していて、動くに動けない。
――あぁ〜。こんな時に……魔法があったら、なぁ。あ! 私でも使えるのがある!
「ラルーシ」
そう。私の作戦では、ラルーシで飛んでテントの中へ移動すること。思いついた時は、我ながらナイスアイデアだ。なんて思った。
少し得意げに呪文を唱えたのにも関わらず、身体はぴくりともしない。
何度か試して全て成功した魔法なのに、急にできなくなるなんてことはおかしいと思った。
頭を捻らせる私をみたフロストは、耐えられなかったとばかりに笑い出した。
「すぐそこだから、歩いて行くほうが早い。それに、魔法を使うには体力が必要なんだ」
「魔法って便利なんだか、どうなんだかぁ」
少し頬を膨らませて、重たくなった身体に力を入れて立ち上がる。眠気が一気に襲いかかってきて、フラフラとさせながらテントの中に足を進めた。
「フロストも早く寝るんだよ〜。おやすみ!」
「あぁ」
三角形型になっている入り口をまくって、中に入り込んだ。ふたつの寝袋が並んで置かれている。暖かそうな毛布までしっかり準備されていて、夜中の気温が落ちる時間も快適に過ごせそうだ。
寝袋に体を滑り込ませると、やはりぬくぬくとしている。落ちかけた瞼は、重力に従ってゆっくりと閉じた。
疲れも相まって、微睡むこともなく深い眠りに誘われた。
* * * *
何やら声が聞こえてくる。
私はそちらに顔を向けて、声の持ち主を探した。
着物をきっちりと着ている女性が、畳の上で正座をしている。口元は見えるのに、顔がよく見えない。
木箱の中からお手玉を取り出して、にこやかに私に差し出してきた。
おずおずとそのお手玉を取り、女性を見る。
歌を歌いながら、彼女はお手玉遊びをし始めた。私も知っている曲で、気がついたら歌ってしまう歌でもあった。
「蝶の羽を広げ……」
私も彼女の曲に合わせて、渡されたお手玉を回しはじめた。ジャリっと中に詰められた小豆が擦れるいい音が、曲の間でリズムを取る。
私の知っているところで、お手玉を両手に収めた。それなのに彼女は2番を歌い出す。
この続きを私は知らない。
「……我らに祝福を。ティタニアの力」
そこで私は、無理やり引っ張り上げられた。




