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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第四章 灰色のティア
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17 灰色のティア

さて、無事に・・・・・・とは言いがたい血と涙の溢れた犬猿合戦が終戦を迎えたので話を元に戻そうとしたのだが・・・・・・


「おい、ラムじぃ、話の続きをお願いするぞ・・・・・・ん?」


 チキに声をかけられた何でも知ってる素振りのじいさんは、この後に及んでも表情一つ変えずに突っ立っていた。

 その石化したじいさんの所に首を横に倒して近づいたチキは「え、何? んん?」と耳に手を当てる。どうやら何かを言っているらしい。よく見ると髭に隠れた口がもぞもぞと毛虫のように動いていた。

 僕とカレンもチキに倣ってラムじいに近づき耳を懲らす。


「儂の・・・・・・が、信じて、もら・・・・・・ごむにょ」


「ん? 信じて・・・・・・ごむにょ? 何だ?」


「儂の話を・・・・・・ごむにょん」


 かすかに聞こえる擦れた声。しかし内容はイマイチ聞き取れ無い。

ここに来て初めて背中の丸まったご老人らしい、おろおろとした態度を取っている。何か不思議な感覚だ。


 同じやり取りを何度か繰り返した後、遂にカレンが痺れを切らして


「もうハッキリと言わないかラムじいさんよ!」


 お灸を射した。その結果・・・・・・、


「わ、わ、儂の・・・・・・!」


「「「儂の!?」」」


「儂の話は信じて貰えないのかぁーーあーーあぁ~~あーー!」


「「「・・・・・・・・・・・・は?」」」


「チキが、儂の話を嘘だと・・・・・・」


「あ、まさかウチのせいでしょげてるの?」


「うん・・・・・・」


「えぇ・・・・・・、なんかごめん」


「・・・・・・嘘じゃっ」


「へ?」


「うーそぴょおーーーん、ぴょんぴょーん」 


「・・・・・・コロス」


 何が起きたのかは説明するまでも無い。なんせこの時間は無駄だったのだから・・・・・・。


 無駄な時間を提供した代償として無駄に長い顎髭をミセリルコリデで斬り落とされたラムじいは正座姿で話の続き―――というより本題に戻った。


「おほん、まぁ、つまるところだな、聞いたままの話、見たまんまの姿、目の前にあるもの。どれも何が真実で何が虚偽か、嘘か誠か、正義か悪かは分からんと言うことじゃ。お主達も今後は気をつけるのだぞ」


 真剣に語っているのだろうが、彼の言葉を鵜呑みにするのならば内心では馬鹿にされているのかもしれないとも思った。


「今更説得力も何も無いよ、じいさん」


チキも同様に呆れた顔で白い息を吐いた。


「まぁ、本題といこうじゃないか。ソラ君の呪いを解く鍵だが、それはズバリ君たちのやるべきことと重なっている」


「それはつまり、他のティアの所持者(マスター)を探せば良いということか?」


「君は本当に察しの良い男じゃ、加えて愛嬌が無い。女にはモテないの」


「どうかーーん」


「入らんお世話だ。チキも語尾を伸ばして同感するな」


「ふっ」


「鼻で笑うのが一番タチ悪いからな」


「失礼した。これでも金髪少女には定評があるのだったな優理は」


「おい・・・・・」


「えっ、それってウチのこと?」


「失礼間違えた。金髪美少女には、だった」


「おいコラ姉さん、もう片方の腕も出血させちゃろうか? ああん?」


「まぁ構わんじゃろ、緑のティアの所持者(マスター)は回復魔法のスペシャリテだからの。出血くらいの傷ならいとも簡単に治すだろう」


「なるほど、ならば髭では無く直接顎を切り落とした方が早かったな、どうせ治して貰えるのだから・・・・・・」


「今からでも間に合うよ姉貴」


「待て、儂が悪かった。せめてものその者を連れてきてから切り落としてくれ」


「ほう? よもや検討が付いているような口ぶりだな」


「儂の水晶では、グオーレ王国から北の方角に向かった所に深い緑があるように見えた。きっと森じゃろう。このセピア世界で森が自然発生することは無いだろうからきっとそこに緑のティアの所持者(マスター)が居るはずだ」


「そうか。優理ちゃんと聞いてたか? ソラを救うには緑のティアの所持者(マスター)を見つけなければならないらしいぞ」


 何故だろう、一度脱線して交通事故を起こしかけた会話が交通整備されて終着に辿り着いている。そして僕だけその列車に、いや新幹線に乗れず置いて行かれた・・・・・・。

 これが所謂コミュニケーションってやつなのか!?

 友達の少なかった僕には到底縁の無い代物。間近で見るのと遠くで見るのとでは速さが桁違いだ。まさに新幹線・・・・・・。


「優理? 聞いているのか?」


「ああ、うん。一応聞こえてはいたよ」


 一人、循環電車に乗って心頭滅却していたせいで会話に乗り遅れ、まごついた返事をする。


「そうか、口数が少なかったから寝ているのかと思った」


 心配・・・・・・だよな、これは? 遠回しに「君居たの?」と存在否定されている訳ではないよね? うん、流石にそこまでは言われてないか。


「大丈夫かー優理? 途中から幽霊みたいだったぞ」


 ちび助の方は疑いようもなく悪口だな、おい。


「ちょっと考え事してただけだよ」


 反抗の意も込めてふてくされたように言い返してみた。


「何を考えていたのだ?」


「えっ、それはだな・・・・・・」


 しまった、まさか考えていた内容を聞いてくるとは思ってなかった。ここで僕の恥ずかしい過去―――ボッチ歴が長くて会話に付いていけなかった―――のことで悩んでいたなんて言いたくない。

 何か別の話題を考えないと・・・・・。

 僕が例の如く唇に手を当てながら言訳を考えているとチキが、


「どうせティアのことでラムじいに聞きたいことでもあるんでしょ」


面倒くさい人、と言わんばかりの呆れ顔を僕に向けた。


「まぁ、間違ってないけど・・・・・・。そうだよ、ティアの事について考えてた」


 僕は二つの意味で「間違ってないけど」と言い返してそのまま話を続けた。


「ラムじいは灰色のティアって知っているのか?」


「灰色のティアじゃと?」


 僕の問いにラムじいの顔の皺がグッと増える。

 チキにティアについてと言われるまですっかり忘れていた灰色のティアの存在。クリプトが所有しており、おそらく奴の【寄生虫】の能力に一役買っていた僕等と同じ雫型の結晶についてラムじいは何かしっているのだろうか。


「あの黒の何ちゃらっていう軍団の一人・・・・・・というか一匹が持ってたんだよ。蜂に変身する能力と人を操る能力があるんだ」


「黒の三英傑な」


「そこは何でもいいじゃん」


「黒の三英傑に灰色のティアか・・・・・・。すまんがどっちも儂は聞いたことが無い」


 チキがざっくりとした補足を加えるもラムじいは首を捻っていた。

 ラムじいが元ティアの所持者(マスター)であるならば、きっと灰色のティアについても何か知っていると期待していたのだが・・・・・・。ラムじいでも知らないことはあるようだ。そもそも死者で記憶も曖昧だって言っていたもんな。仕方ない。


 そう諦めかけていたところに突然ラムじいが思い出したように・・・・・・いや、思い出しただけでは無く、深刻な表情を浮かべて、


「いや、待てよ・・・・・・。灰色のティアと直接関係あるがわからんが一つ思い出したことがある」


「何を思いだしたんだ?」


「先ほど儂の話の中には二つの世界の名前が出てきたじゃろ?」


神の頭部(ハイラル)神の身体(アースラル)だったか」


「そうだ。だが、実はもう一つの世界がある、という噂を儂は聞いたことがあったのを今思い出した。その世界は歴史に記されてはおらず、ちゃんとした名前も存在も不明だったが、俗に言う下界というものに分類される世界だということじゃ」


「下界か。なんだか物騒ではあるな」


「噂でしか無いってことは実際にその世界を見つけられはしてないってことだよね?」


 チキの問いラムじいはこくりと頷く。


「じゃが考えて見れば、頭と身体があるなら脚もあるというのは不思議ではない、寧ろ筋が通っているとさえ考えられるだろう。思い返せば不思議な出来事は多々あった」


 宙を見上げて何やら思惑しているラムじい。しかし大事なのはそこでは無く、


「その下界とやらに灰色のティアと黒の三英傑が関係していると?」


「その可能性が高いと考える。下界の話が本当かは分からんが、お主等の見た物は現実にあるわけだしの」


 なるほど、ラムじいの過去の話なんて正直なところ殆ど想い出話で意味は無いと思っていたがここで繋がってくるのか。ラムじいが蘇ったことも単なる偶然ではなく、それはそれは重大な使命を負ってのリビングデットだったってわけになるな。

 ラムじい自身もまさか時間と時空を越えて、過去の解明をすることになるなんて思ってもみなかっただろう。解明と言って良いものかは僕には判断が付かないし、もしかしたら精算の方が似合っているかもしれないが。


 どのみち僕等もこれから直面する問題であることに違いはない。切っても切れない運命の糸に僕等が繋がれているのであれば、互いに協力する必要があるってことになる。

 となれば、不本意ではあるが・・・・・・。


「ん? なんじゃこの手は?」


 僕の差し出した手と顔を交互に見るラムじい。


「何って、握手だよ、あ、く、しゅ。正直ラムじいのことはまだ信用仕切ってないというかどこまでが本当で嘘かさえ分からない素性の知らない死人だが、敵意も悪意も、いや悪意はちょくちょくあるか。まぁでもソラを必死で助けようとしてくれたり、協力してくれる味方らしいから、改めて友好の証として手を取り合おうってことだよ」


 我ながらなんてくどい遠回りな言い方をしたんだろうと、笑ってしまいそうだったが、これが僕なりの精一杯の誠意だ。人との距離の詰め方、会話、空気、全てにおいてまだまだ未熟な僕が、初めて自ら差し出したであろう右手。汗腺がバグったかのように汗まみれでぬるっとするその手を、ラムじいは離さないようにと力をこめてぎっしりと握った。

 何故だろうか、手はべたついて気持ち悪いはずなのに心はとても穏やかで気持ちが良かった。初めての感覚に僕が感傷していると今度は小さな手と細い指をした華奢な手が僕等の拳に覆い被さってきた。


「二人だけでずるいぞ」


「ウチ等も入れて貰わなきゃ困るってもんよ」


「みんなには普通のことでも僕にとっては一世一代の大イベントだったんだけど」


「おじいちゃんとの握手が?」


「全く、ウブだな優理は。私でよければ毎日でも手を貸してやるぞ」


「あーーもうわかったからからかうなっ!」


「ほっほっほ、若いっていいのぉ」


 そんな他愛も無い普通の会話をした後、僕等は互いに目線を交わし合い、心を一つにして、


「無知は罪だが、未知は冒険。まだ見ぬ明日を、未来を共に乗り越えて行こう。みんなよろしくな! せーのっ、えいっえいっおー!」


「「「おー!」」」


 それぞれの拳を振り上げた。

 これから待ち受ける試練をみんなで一緒に乗り越えて行こうと、みんなでやれば必ず成し遂げられると、そう願い誓うかのように・・・・・・。

 しかし僕達に待ち受けていた試練は酷く残酷で、この想いを赤子の手を捻るかのように簡単に裏切る。


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