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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第四章 灰色のティア
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16 ぶつかる二つの想い

「感想を述べよ」


 呼吸すら忘れてラムじいの話に聞き入っていた僕等が話しが終わった後も口を開かずに硬直していたことに歯がゆさを感じたのだろう。ラムじいはわざとらしく作った喧騒な面をこちらに向けていた。


「えっ、感想? 感想もなにも、なぁカレン?」


 急に振られて動揺したわけでは無かったが、自分が言葉にするには「凄いな」という稚拙なワードしか出てこない気がしたためカレンにパスする。


「私に振られても困るぞ優理・・・・・・チキはどうだった?」


 蔑むような細い目つきを僕に向けたカレンも同様に会話をパスした。


「結局ウチまで回ってくるのね。そうだなー、ラムじいには悪いけどどこか嘘っぽいなって思ったかな」


 チキの思いがけない発言に僕とカレンは首を回してチキの顔を覗く。


「チキ、それはどういうことなのだ?」


「いや、そもそもウチってこういう現実では考えられないようなことって信じないタイプの人間でさ、現実主義?っていうのかな、セピア世界についてもまだ夢の中の出来事なんじゃないかって疑っているくらいなんだよ。なのにまた違う世界の話が出てきて、神族がどうとか子供ができたとか人類が滅亡したとか、何の根拠も無いけどさ、そんなの嘘でしょって思った。そう、それだけ」


 チキは視線を斜め下に落とし、自分の人差し指をもう片方の指で挟んで摩っている。

 きっとチキはこのセピア世界自体を否定し、セピア世界に生きている自分さえも幻だと思いたいのだろう。これは夢であって現実ではない。目が覚めた時にはふかふかのベッドの上に寝転んでいて、食卓にならんだ朝ご飯を食べて、お日様の日差しを浴びながら庭の花に水をあげて・・・・・・。そんな普通の、何でも無い日常が待っているんだと信じたいのだろう。


 もし、ラムじいの話が嘘では無く、幻でも無く本当なのだとしたら、そしてその世界を認めてしまえば、今自分が生きているセピア世界が現実の世界になってしまう。

 根拠は無いけれど嘘だと思った。嘘だと思いたかったチキの本心は・・・・・・。


「そうか・・・・・・」


 チキの想いを聞いたカレンは何を思ったのか左手にカレンの武器である魔刀ヤヌスを呼び出していた。

そして深く息を吸った後、構えた刀の身から鋭いカレンの眼光が覗いた。

それが殺気だと気付くのには一秒もかからず、


「チキ避けろ!」


チキの身を案じた僕は咄嗟に声を上げてカレンに対峙する形でチキの前に躍り出る。

チキは下を向いていたので何が起きたか分からなかったが優理の声に反応してその場に身を屈めた。

一瞬だった。

紅の飛沫が僕の顔に温かく塗られて行くのは。


「カレン・・・・・・一体何をしているんだ?」


 死という恐怖に支配されて、上手く閉じることが出来ない唇で僕はカレンに問う。

 目の前の光景に目を疑った。

 何故、カレンは自らの腕に刀を刻み、僕の顔にまで届くほどの血を出しているのか。

 僕には理解出来なかった。

 なのに視界の端に映るラムじいは表情一つ変えずにこの場を観ている。僕等がスタジアムの選手ならば彼はお金を払ってその試合を見に来た観客であるかのように、その場を眺めていた。

 また澄ました顔で分かりきっている顔でこの場を観ているラムじいに憤りを感じたのは言うまでも無い。しかしそんなことよりも目の前のより濃く赤に染まった戦士の方をなんとかしなければ・・・・・・。


「な、何を・・・・・・」


「何をしているかだって?」


 綺麗な顔が台無しだ、とまでは行かないが腕の痛みに耐えながらこちらを睨むカレンにはいつもの可憐さは無かった。その形相のままカレンは僕の所まで来ると、僕の肩を薙ぐようにして縮こまっている黄色い少女の前に立ち、顎を掴み、顔を無理矢理上げさせた。


「いつまで甘えたことを言っているんだこの猿が! この世界が夢の中で現実じゃ無いだって? お前は今まで何を見てきたんだ、何をしてきたんだ」


 憤怒したカレンの荒い息づかいが肩の振動から伝わってくる。

 カレンの剛毅な進撃にチキが震えながらも意を見せる。


「何って、アンタ達とティアの所持者(マスター)として世界を・・・・・・」


「世界を何だ?」


「世界を、救う」


「そうだ、世界を救うんだ! そのためにティアの力を修練の塔で習得し、よく分からない敵と闘い、命を張ってソラを救出した、違うか!?」


「・・・・・・違わない」


「でも貴様にとってこの世界は夢なんだろ?」


「・・・・・・・・・・・・」


「夢なのにわざわざ命を投げ打ってまで世界を救うというのか? とんだマゾっけのある獣だな貴様は。 いや、違うか本当は死んで良いって思っているんだよな。修練の塔でもそうだったが極めつけはグオーレンとの闘いの時だ。何故あの時貴様は目を閉じた? 何故死をあんなにもあっさり受け入れたのだ? 優理の爆発があったから貴様は助かったものの、もっと自分でやれることはあっただろう!」


「カレン言い過ぎだ」


 チキに詰め寄るカレンはほぼ馬乗りのような形でチキの上にのしかかっていた。僕はカレンを留めさせようと肩を掴む。


「言い過ぎ? 言い過ぎってなんだよ優理。私達はこれから命を賭けてこの世界を、この悲しくて残酷な世界を救わなければならないのだぞ? それなのに夢だとか、死んでも夢だから覚めれば元通りとか、そんな甘ったるい考えを持ったままの奴が居てたまるものか!」


 僕の手を振り払って立ったカレンは全身で怒りに震えていたが、その面は切ない表情を浮かべているようにも見えた。


「でも」


「でも? まさか優理も夢の中の世界だって言うんじゃ無いだろうな?」


 考えたさ。勿論考えたよ。全部夢かもしれないってことくらい。双子の兄弟が崖に落ちた時も、貧しいテントの親子に出会った時も、先の闘いの時も全部夢だったら良いなって。でもこの世界は夢で納まるような世界じゃ無いし、僕達は夢で終わらせちゃいけない存在なんだってことはもう分かった。

 でも、チキの気持ちも僕には分かる。だから、


「可能性としてはゼロじゃない! かなり薄いと思うけど」


 僕の発した勢いにカレンは我に返ったように怯みを見せ、寄った皺を和らげてうつむき、そして呟く。


「・・・・・・・・・・・・痛い」


「痛い?」


「私は痛いよ。この腕から流れる私の血は私の熱と痛みを伴っている。これが夢だというのか?」


 再びカレンの眼に熱が帯びた。


「夢ならこの痛みは感じないはずだ。この血と痛みが何よりの証拠だよチキ」


 その紅蓮の瞳に反射して映るチキはずっと下を向いたままだった。

 しかし沈黙は何も答えていないようで実は何を言うよりも真摯にその人の意思を表していたりするものだったりする。

 チキは俯いたまま、顔についたカレンの血を指で拭うとそれを口元に持って行き舌で舐め取り、


「鉄臭い・・・・・・、いや犬臭いわ」


 彼女なりの決意を見せつけた。

 カレンの苦肉の策とも言える行動は確実にチキの心を動かしたのだった。


「ふん、貴方が猿臭すぎるのよ」


 カレンは両腕を組みながら素っ気なく言い放った。


「犬のくせに全然鼻が利かないのね」


「臭すぎて閉じているだけだ」


「あー、何て言ったのか聞こえなかったなー。ワンワンかな?」


「まだ匂うな、私に怯えて泣き叫ぶに足らず、漏らしでもしたのか?」


「だ~れが、泣き叫んでたって?」


「漏らしたのは認めるのだなっ」


 売り言葉に買い言葉、犬猿の仲とはまさしく彼女達のことだろう。いつものことながら呆れる僕は二人の間に入って、


「あーーーストップストップ! まだ喧嘩したり無いとかどんだけ仲良いんだよ二人とも」


「「仲良くない!」」


 黄色と赤色の瞳が僕の顔を同時に睨みつけた。


「うっ、分かったから足踏みつけないで二人とも・・・・・・。それとカレンは止血しないと、出血多量で死んじゃうぞ」


「気遣い感謝する。だがこれくらいこうすれば・・・・・・うぅ」


 カレンは傷ついた腕と反対の指先に小さい炎を生み出すと、それを腕の傷口に当てた。火に炙られた皮膚は熱い鉄石に当てた肉片のようにジュッと音を立て収縮し、火傷後となって傷口を塞いだ。

 見ているこっちも痛いと錯覚してしまう苦しい音だ。カレンも強がってるように見せているが目は潤んでいた。


この痛みを最後にこうした傷が増えないことを祈るばかりだな・・・・・・と心の中で、僕は揺れる瞳に語りかけるのだった。


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