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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第四章 灰色のティア
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14 救出失敗? ソラにかけられた呪い

一ヶ月以上ぶりの更新です、毎日忙しいのは言い訳になりませんが新作も公募用に進めているので頻度は落ちます。頑張るんで応援してください。

 蝋燭の火によって映し出された落ち着きの無い三つの影が、歪んだ木製のベッドに寝る小さな少年を囲む。


「後少し遅かったらこの子の命の灯火は消えていただろうな」


 仰向けで寝ているソラの身体に触れたラムじいは深く息を吐いた。

 ずっと張り詰めていた緊張の糸がようやくほぐれ、安堵の息が混ざり合う。放心状態に近かった心臓にも大量の酸素が送り込まれ、全身へと流れていく。自ずと影の揺らぎも小さくなった。

そして互いに視線を交わし口元に笑みを浮かべる。


 僕達は無事にソラをグオーレ王国から、クリプト大臣の手から救出することに成功したのだ。

 城に潜入してから十二時間、自然の監獄(フォレストロジャー)で過ごした時間の差違を埋め合わせたとしたら約十八時間が経過していた。

 起床時間を考えるとほぼ丸一日を寝ずに過ごしていたことになる。

 別に一日なんて寝なくても人間は生きていけるし、誰しも一度や二度なんて回数じゃ無い程経験していることでもある。

 しかしそれはあくまでも日常を送っている場合での話だ。

 牢に入り、塔を攻略し、人間離れした力と力のぶつかり合いを繰り広げ、喜怒哀楽を越えた感情の波を何度も打ち出す一日を過ごした僕等は、既に呼吸をするので精一杯な状態でいた。


 加えて魔力もすっからかんで、手に力なんて微塵も入らない。

 ここまでソラを運んで来れたことが不思議なくらいに。


「ふぅー。やっと心置きなく腰を下ろせそうだね」


 チキは肩から腕を突き出して伸びをしながらその場にお尻をつく。

 カレンもチキに倣うようにして、膝丈の高さほどある石に座り一息ついた。

 僕はそんな休息モードの二人を余所にラムじいに真剣な目を向ける。

 ラムじいは僕の視線とその意図に気付いたようで、躊躇いからか同時に鼻を鳴らして長い顎髭を撫でる。


「約束じゃな・・・・・・」


 ―――約束。ソラを救出に行く前にラムじいと交わした『ラムじいの秘密』について教えてくれるという約束。


 僕は無言で頷き、彼の言葉を待つ。

 しかし次に僕の耳に聞こえてきたのは擦れたお爺さんの声では無く・・・・・・


「もう今日はいいじゃんよー。身体もクタクタだし明日にしよ・・・・・・ね?」


無邪気な少女の声だった。


「いや、でも・・・・・・」


「私も今日はいいかな。優理が気になっているのも分かるが焦っても仕方ないのではないか? お爺さんも急に姿を消すなんてことも無いだろう」


「カレン・・・・・・」


 僕はカレンの方に身体を向けた後、視線を下に落として口を紡ぐ。

 その間に入ってくるようにラムじいが、


「まあまあ優理よ、嬢ちゃん達の言う通りじゃないかな? 儂は君らの味方、決して逃げたりはせん。それに君ももう限界だろう?」


 ラムじいは優しく僕の手を取り握る。僕もその骨と皮だけの弱々しい手を握り返そうとしたが自分の意思に反して身体は言うことを聞かなかった。

 ただ握られるだけの不自由な飾りを見つめる。

 自分の物の筈なのに自分の物じゃないような感覚はまるで夢の中で生きているようだった。


「分かったよ」


 仕方ないといった具合に放った僕の言葉に柔らかく頷く老人。

 聞きたいことは山ほど有るが今は休息を取るのが先決だと全身が訴えている。

 僕は机に伏すように身体を預けて瞼を閉じた。こんな姿勢、授業中に昼寝する時ぐらいで本気で寝るのには適してないはずなのだが、頭は回っても身体はもう動かない。いや、考える間もなく一瞬で深い眠りに誘われていったと言うべきか。人間本気で睡眠を欲する時はどんな姿勢だろうと、どんな場所だろうと関係無く眠れるものなのだ。

 明日は誰よりも早く起きないといけないな。でないと制御不能な口から溢れた寝液のついたアホ面をみんなに馬鹿にされちゃうから・・・・・・。

 

 次に僕が目を覚した時、既に辺りは騒然としていた。

 しまった、早く起きるなんて意気込んでおきながら結局起きれなかったか・・・・・・。まぁ一度も目を覚すこと無く快眠できたのは良かった。

 服の袖で口元を拭いつつ顔を上げた僕は声の集まる方に目をやる。するとそこには必死な表情で腕を張るラムじいと血相を変えて見守るカレンとチキの姿があった。

 何かあったのだろうか? 寝ぼけた半開きの目を擦った僕は三人のいる位置を確認し、事の重大さにようやく気付く。


「ソラの何かあったのか!?」


「優理起きたのか」


 僕の声に反応してカレンが首を回す。


「私にも何があったかは分からない。起きたときにはソラが苦しんでいて慌ててラムじいに助けを呼んだのだ」


「それはいつから」


「かれこれ三十分くらい」


「なんで起こしてくれなかったんだ?」


「それは優理が気持ちよさそうに寝てたから起こさないようにってカレンが」


 やや興奮気味に聞き返した僕に対してチキが遠慮して口を挟んだ。


「そう・・・・・・だったのか。カレンごめん強く当たって」


「別にいいさ、優理の気持ちも分かるから」


 カレンは気にするなといった案配で首を振った後、視線をソラとラムじいに落とす。

 ラムじいは上の服を大きくめくられた状態で仰向けになるソラの乳白色の肌に両手を押しつけるように被せていた。その手の甲は浮き沈みを繰り返しており、何かを押さえ込んでいるかのように見える。


「ラムじい、ソラに何があったんですか?」


 僕の問いにラムじいは一瞬目線を合わせようと首を動かすが、すぐにまたソラを抑える手に戻した。

 普段はしれっとしているラムじいなのに額には尋常じゃ無い程の汗が滴っている。

 沈黙と緊張から唾を飲む回数も増え、それだけで喉の渇きも潤せるのでは無いかと思うくらいの時間が過ぎてようやくラムじいの腕筋が緩みを見せた。


「はい、これ」


「おぉ、ありがとな」


 ラムじいはチキから受け取った乾いた布で全身からあふれ出た水分を拭い取る。


「ソラに一体何が?」


 僕が再び問いかけるとラムじいは黙って人差し指を突き出す。その指先が捉えているのはさっきまでラムじい自身が触れていたソラの腹部だ。


 そこに何があるというのだろうか? 僕等は恐る恐る近づき顔を覗かせる。


「なんだコレは・・・・・・」


 カレンは眉を寄せて驚きの声を上げた。

 僕もカレンに続いて思わず顔を苦くしてしまう。

なんとソラの肌には濃色をした見たこともない形象文字の紋様が刻まれており、それがうねうねとソラの呼吸に合わせるように動いていたのだ。


腐蝕印(アシッドコア)、その印を刻まれた者は身体の内部から腐って行きやがて死に至る。まさかソラ君がこの術に侵されているとは・・・・・・」


 僕等の背後から様子を伺っていたラムじいが険しい表情で口にした。


「死ぬって・・・・・・昨日は大丈夫だって言ってたのに急にどうして!?」


 チキは動揺からか声が大きくなる。


腐蝕印(アシッドコア)は段階的に症状が出てくる呪い、第一段階では外的な症状が全く現れない。第二段階に突入して初めて視認できるようになる」


「つまり昨日までは第一段階だった腐蝕印(アシッドコア)が今日、第二段階に突入したということだな」


「カレン殿の言う通り。そして第三段階になるとその紋様が全身にまで広がり手が付けられなくなる」


「じいさんが先にやっていたのは?」


「儂の魔力で腐蝕印(アシッドコア)を閉じ込めようとしたのだが・・・・・・」


 そこまで言ってラムじいは分かりやすく肩を落とした。

 上手くいかなかったということだろう。


 もしこのままソラが腐蝕印(アシッドコア)で命を落とすことになれば、それこそ昨日話したように次のティアの所持者が現れるまでの間、この色の無い世界からの脱出は不可能になる。

 現状残りのティアの所持者については居場所すら分からない状態で、今すぐに世界を救うことは出来ないのだが、せっかく出会えた仲間を失うわけにはいかない。


 何か別の方法は無いのだろうか・・・・・・。

 昨日の喜びも束の間のごとく、重い空気が重圧にのしかかるのを感じ、自然と俯き視線が落ちる。すると小さな耳をぴょこっと立ててポッケから頭を覗かせていたニュートンが目に入ってきた。


 そういえば僕がクリプトに盛られた毒ってニュートンが解毒してくれたんだったよな。ということは腐蝕印(アシッドコア)もニュートンなら治せるんじゃないか?

 そう思った僕は両手でニュートンを掬い上げ、つぶらな瞳に問いかけてみる。


「君ならソラの呪いを解けるかい?」


 急にわき腹を持ち上げられたニュートンは開いた口が塞がらない様子で目をパチパチとさせていたが、ソラを見て僕の質問の意図を理解したようで、「僕に任せろ!」と小さな手を胸の辺りに掲げて答えてくれた。

 その合図を見て僕はニュートンを抱えたままソラの元へと歩を進める。急にニュートンを取り出してソラに近づく僕をみんなは不思議そうな目で追った。

 僕がニュートンをソラの赤ちゃんのような餅肌の上に降ろすと、ニュートンは腐蝕印(アシッドコア)のある腹の脇部分に自慢の針を差し込む。すると虹色をしていたハリネズミの針はその色を新緑に変えて輝きだし、濃色の紋様が苦しんでいるかのように肌の上で暴れ始めた。

 同時にソラも無意識のなか「うぅ」と呻き声を上げ全身で抵抗を始める。


「ソラ、頑張って耐えてくれ。ニュートンももう少しだ頑張れ!」


 暴れるソラの腕を上から抑えつけて掴み、必死な表情で踏ん張るニュートンを励ます。

 途中でチキとカレンも加わり全員でソラとニュートンを応援した。

 しかし・・・・・・。


「ピキャッ!!」


 ソプラノ調の高い悲鳴を上げてニュートンは乱れ狂う腐蝕印(アシッドコア)にはじき飛ばされしまった。コロコロと地面を転がるニュートンの背中は元の色に戻り、腐蝕印(アシッドコア)も定位置に戻り落ち着く。


「ニュートン大丈夫か?」


 僕は両手で優しく包むようにニュートンを拾い上げ、頭を撫であげる。


「あーーおしい! もう少しで腐蝕印(アシッドコア)が消えそうだったのに」


「もう一回やればいけるのではないか?」


「いや、辞めといた方が良い」


 希望の光が見えたと思った矢先に、ラムじいが渋い声で苦言を添えた。

 二人は「何故?」と首を傾げて顔を曇らせる。

 僕はというと、


「ラムじいの言う通りかもしれない」


 じいさんと同じ意見であった。


「優理までそんな・・・・・・、せっかくソラを助けられる手段があるのにどうしてなの?」


 納得が行かずに詰め寄ってくるチキ。そんなチキに対して僕は冷静に手を差し出す。

 僕の手の中にはもちろんさっきまで懸命に呪いの術と闘ってくれた小さな命が入っていたのだが、その命は小刻みに震えていた。


「ニュートン・・・・・・。私、ごめんなさい! ちゃんと分かってなくて・・・・・・」


 チキは己の失態に気づき、頭を下げて謝った。


「大丈夫だよチキ、君は間違ったことはしていないから。でもニュートンにはもう頼れない」


「ありがとう優理、ごめんねニュートンゆっくり休んで」


 チキに頭を撫でられたニュートンの脈は落ち着きを取り戻し、背中の輝きも元通りになった。

 七色に輝くトゲには解毒や解呪の能力もさることながら、持ち主の体調も反映される特殊な代物のようだ。まだ明かされていない能力もきっとあるに違い無い。

 僕は大切な物をしまい込むようにそっとニュートンをポッケに戻した。


主な登場人物


優理 虹のティアの所持者

カレン 赤のティアの所持者

チキ 黄のティアの所持者

ソラ 水のティアの所持者

ラムじい 謎のじいさん

ニュートン ハリネズミ

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