表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第四章 灰色のティア
49/60

13 救出

「でもチキはいいのか? 自然の監獄(フォレストロジャー)には親分が居るのにこんな化け物染みた生き物を同じ場所に送ってしまって」

 チキの耳が反射的にぴくりと動く。

 もちろんチキもそのことについては分かっているつもりだった。でも自ら言及しない事で気にしない振りを決めようとしていたのだ。

 小さな唇をキュッと噛みしめるチキ。

「すまない、水を差してしまったようだな」

 言葉を発さないチキに対し、カレンは謝りの言を伝える。

「いや、大丈夫。ありがとねカレン、心配してくれて。そりゃウチもすぐには受け入れられないと思う。けど約束したもんね、優理が一緒に親分を救ってくれる。だからウチは大丈夫だよ」

 無理をしている訳では無い、素の顔で微笑むチキはいつもとは違った大人びた雰囲気を映し出していた。


「優理はまだ時間がかかりそうだからウチ達でこの二人を自然の監獄(フォレストロジャー)に送ろうか」

「そうだな。でも私はやり方が・・・・・・」

「そうだったね。じゃあ今回はウチがやるからカレンは見ていて」

 チキは黄のティアを取り出すと、先のニュートンと同じくグオーレン等にかざす。


「【強制送還】:自然の監獄(フォレストロジャー) Force to Send to Forest 」


 チキが術を唱え終えるとティアから光が溢れ、二人を柔らかく包み込む。

そして目映い閃光を放った後にガラスのような破片を飛ばし散らせた。

「これが自然の監獄(フォレストロジャー)への強制送還・・・・・・」

 キラキラと舞う結晶を眼で追いながら感嘆の息を漏らすカレン。

 やがてその輝き達は天の川のように流れてティアに吸収されていった。


「これで二人の肉体と精神は自然の監獄(フォレストロジャー)に送られ・・・・・・ん?」

 二人の姿が消えて無くなった所に落ちていた何かをチキは見つけて拾い上げる。

「これは・・・・・・鍵とティア?」

 チキが手にしたのは環状のキーホルダーに繋がれた複数の鍵と灰色の雫型の宝石。

 カレンもチキに近づき横から覗き見る。


「それは大臣が持っていた物だろう。その鍵を使ってソラを救出しに行こうか」

「そうだった。今の今まで必死過ぎてソラのこと忘れちゃってたわ」

「私も同じだ。でも無事終わった。気になることはまだ残っているが今は救出を優先して少しでも速くこの場から退散しよう」

「だね。城の人がこの状況を見たら今度はウチ等が捕まっちゃいそうだもん」

 二人は荒れた戦場を見渡す。

 クリプトに操られた兵士達が転がっていて、爆発や炎で焼け焦げて破壊された床や壁、飛び散った血痕。

 普通では無い状況に中に佇む人を見つければ、それはもう疑いようも無いくらいに疑われてしまうのは火を見るより明らかだった。


「優理動けるか? ソラの所に行くぞ」

 弟を心配する姉のような優しいカレンの声が聞こえてきた。

 僕は涙で腫れた顔を手の平を押しつけるように拭って顔を上げ、カレンが差し出した手を取って立ち上がる。


「ありがとうカレン。チキもありがとう。絶対に、親分を取り戻そうな」

 僕の言葉にチキは一瞬目元を細めて潤ませたが、グッと力を入れて堪えてから、

「うん。よろしくっ優理!」

 今度はひまわりのようにパッと明るい笑顔をしてみせた。


「よし、話は聞こえていたようだから、これからやることは把握しているよな?」

 優理が落ち着いたところでカレンがスッと口元を引き締めて言った。

「あぁ、もちろんだ。ソラを助けに行こう」

「じゃあこの鍵とティアは優理に渡しとくね」

 僕はチキから鍵束と灰色のティアを受け取る。

 しかしその瞬間、雫型の曇った宝石に亀裂が入って割れ、跡形も無く消えていった。


「消えた・・・・・・」

 チキは口をあんぐりと開けて僕の手の平を眺める。

所有者マスターの居なくなったティアは消えて無くなり、次の適合者が現れるまで彷徨い歩くと言われております」

「ひっ・・・・・・、アンタはいつも突然現れるわね」

唐突に姿を現したイリィにチキは肩をピクッと震わせた。

「いつも見守っておりますよ」

「それだと精霊というより背後霊ね」

「まぁ精霊守護なので間違ってないですね」

「そうだったわね・・・・・・」


 全く動じないイリィにつまらなそうな顔をするチキ。これが大人の余裕という奴なのだろうか? それはさておき。

「その所有者マスターが居なくなるというのは今回のクリプトみたいに別世界に飛ばされることを意味するのか?」

「いえ、今回は特別な例です。本来、居なくなることを意味するのは死でして、あなた方ティアの所持者(マスター)に適応されるもの。別世界への転移はティアの魔力を使った時だけに起こる現象と捉えられております」

「今回は特別か・・・・・・。そもそもだけど灰色のティアなんて存在してたのか?」

「そのような存在を私は存じ上げておりません」


 僕の問いに苦い顔をして答えたイリィ。

 ティアの精霊でも知らないティアが存在している。

 この事実とどう向き合うべきか、僕達は真剣に考えないといけないな。


「次の適合者を探すってことは、もしウチが死んだら他の誰かが黄のティアの所持者(マスター)になるってこと?」

「その通りです。故にその間、黄のティアの所持者(マスター)は存在していないことになります」

「もしティアの所持者(マスター)が全滅したら?」

「カレン様の考えている通りでございます」

 イリィの太い声が心臓をつついた。


 もし僕達が全滅したら・・・・・・。

次の所持者マスターが現れるまでこのセピア世界からの脱出は不可。

それも八人が揃うまでだ。

僕達一人一人の命の重さを痛感させる一言だった。


「そのためにも私達精霊が存在しているわけですし、全力であなた方を護るので安心してください」

 イリィは黒い歯をみせてニカッと笑った。

「まあウチの場合はモノと一緒にすぐ逃げるけどね」

「ウキッ」

 肩にモノを乗せたチキが平べったい胸を張ってみせた。

「逃げることを自慢げに言うんじゃ無いよ」

「なにを言うかね優理君。逃げるは恥じだがなんとやらというではないかっ!」

「大事な部分をなんとやらで済ますんじゃない、それだとただの恥さらしだぞ」

「テヘッ」

「舌を出して可愛い子ぶってもだめだ」

 チキは唇を尖らせてぶーぶーと鳴いた。


「ティアの精霊か・・・・・・」

 思わずでた言葉に僕は寂しい気持ちになった。


 僕達ティアの所持者(マスター)を護り導く存在である精霊。

 チキにはモノという猿の精霊がいてカレンには精霊と言うより魔人のイリィがいる。

 なのに僕には精霊が居ない。

 その代わりにといってはなんだが居るのは小さなハリネズミだ。

 もちろんニュートンが僕の精霊である可能性も考えたことはある。ただ本当に精霊だとしたらなんで何も教えてないのだろうか?


僕にはその答えが見当たらない。

故にニュートンが精霊である線は薄いと思っている。

「なんで僕には精霊が居ないんだろうね、ニュートン」

 僕はニュートンの頭を撫でて寂しさを紛らわせた。


「まぁ何にせよソラの救出が先だ。ティアについてもラムじいさんが何か知ってるかもしれんからな。後で聞くことにしよう」

 カレンの言う通りだ。ソラはかなり衰弱していたし、本当に死んでしまうかもしれない。そうなればイリィから聞いた通り、水色のティアの所持者(マスター)が空席状態になる。

それだけはなんとしてでも防がなければならない。

僕達は王の間を後にした。


城内はまだ人の気配がせず閑散としていた。

見張り役の兵士達が居なかったのは大臣であるクリプトに支配されていたからなのかもしれない。

「こっちだ」

 ソラの居場所を知っているカレンの先導で無事に部屋の前まで辿り着いた。

 まさか二階に閉じ込められているなんて思わないよな普通。

 懇親会の時に上か下かで迷って地下に潜った僕に伝えてやりたかったな。

 まぁそのおかげでチキに出会えた訳なんだけど。


「な、何よ」

 僕がチキとの出会い―――牢屋に閉じ込められたこと―――を思い出しながらチキの横顔を眺めているとそれに気づいたチキが不審げに目を細めた。

「いや、なんでも無い」

 僕は頭の中を覗かれないように手の平でおでこを隠しながら顔を背けた。

 チキは僕のその反応に対して、首を亀のように伸ばして近づけて怪しむ。


「入るぞ」

 そんな二人の様子は気にも止めず、カレンは合図を入れて扉を押し開けた。

 鎖で繋がれた状態でぐったりと倒れている二人の姿が目に映る。

 カレンから話は聞いていたので想像は出来ていたが、二人はまるで死刑宣告を受け、ただ死を待つだけの生きながらにして死んでいる人間、屍人間と捉えるに等しく、本当に酷い状態だった。

「大臣は端から殺すつもりだったんだろうな」

 カレンは南京錠に差し込んだ鍵を力強く捻る。


 そこから手分けして手首と足首に架せられた鎖を外し、僕はソラの上半身に腕を回しながら身体を揺すって声をかける。

「約束通り助けにきたよソラ」

 するとソラはゆっくりと瞼を開き、弱く潰れた声で、

「ありがとう・・・・・・。ソニアを、精霊界に・・・・・・戻して・・・・・・」

 ソラは最後の力を振り絞るようにゆっくりと腕を持ち上げ、ソニアを指さして言った。


「ソニアは君の精霊だね?」

 ソラは小さく頷いた後、抜け殻のようにぐったりと僕の腕の中に沈み込んだ。

「ソラ大丈夫か!? カレン、チキ、一刻も早くラムじいの所に戻ろう。あのじいさんなら何か知ってるはずだ!」


 僕はソラの腕をクロスさせて掴み、背中でバランスを取りながら持ち上げた。

 背負ってみて分かったがソラはかなり軽かった。

元々身長が低いので体重は軽いのだろうが、衰弱していることもあって余計に減ってしまっているのだろう。


「分かった。でもソニアはどうする?」

「私にお任せください」

 僕が答えるよりも早くイリィが名乗りを上げた。

「私がソニアを精霊界に一緒に連れて行きます。今のソニアでは自力で戻るだけの魔力を持ち合わせて居ないでしょうから」

 そう言うとイリィはカレンからソニアをもらい受けて両腕で抱えた。

「精霊のことは精霊に任せるのが一番ってことだな」

「その通りです。では私はここで」

 黒い歯をちらっと見せてからイリィはソニアと共にその場から消えた。 

 僕達も急いで宝物庫に向かい、ラムじいの待つ地下洞まで戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ