11 合義:焔地獄への導き
グオーレンに潰された。
ドゴーーーン!!
空間を歪ませる程の轟音が王の間を支配する。
その爆音はどこから出たのか?
グオーレンが床を、チキを叩きつぶした音なのか?
――――――否。
グオーレンの腕は振り上げられたまま止まっている。
つまりチキはまだ潰されていなかった。
チキが潰されたと思い込んでしまっただけだったのだ。
ならこの耳を劈くような音は一体どこから・・・・・・?
地上の三人は上を見上げていた。
そこには一羽の蝶と一匹の蜂の姿がある。
《舞い踊る鳳蝶の鱗粉》
そう、つまりこの音は上空で舞い踊る虹色の蝶々の仕業だったのだ。
そして突然起こった爆発のおかげで死を免れたチキはこの好機を逃さなかった。
死への恐怖を一瞬にして断ち切り軽い身のこなしでグオーレンとの距離を取ると、左腕で右腕を掴みながら反対側に居るカレンに向けて右手を押し込むように向けた。
「カレン行くよ! 《光の導き》」
チキの手の平から放たれた光の線がグオーレンとカレンを一直線に捉える。
蝶に気を取られていたグオーレンもチキがその場に居ない事に気付いたが、既にその時には《光の導き》が身体を貫通していた。
本来ならば光というのは物体に阻まれると吸収や反射が起きてしまい貫通することは無いのだが《光の導き》はそれを可能とする。
しかし貫通しているからといって間に挟まれた物体は動けなくなるとか痛みを感じるなんてことは無く、全くの無害である。
よって《光の導き》はただの術者と対象を結ぶ光線に過ぎないのだが、対象者にはある効果を付与する。
それは『光の速度』である。
光は宇宙空間を含めてもこの世界で一番に速いものであり、その速度は一秒間に地球七周半すると言われている。
ちなみに音は一秒間に約三百四十メートル進むが、光はこれの百万倍ものスピードで進む。
雷が落ちたときに雷光が先に見えて音が遅れてやってくるのも、この速度に差があるからである。
つまり光速度を付与されるというのは、この世の中で一番速いものになるということ。
そんな攻撃があったとしたら?
きっと誰も視認することは出来ないだろう。
見えないのであれば躱すことなど出来るはずも無い。
加えてそこに炎で威力を最大に引き上げた剣技が付いてこようものなら、それはもう一撃必殺技といって申し分ないだろう。
今《光の導き》で光速度を付与されたカレンは魔刀ヤヌスに全魔力を注ぎ切り、黒鉛色の刀は紅蓮へと化していた。
カレンはその剣先をまるで一本の矢のように翻してグオーレンに向ける。
「任せろチキ。これで終わりだ《紅蓮の一矢》」
刹那、カレンはその場から姿を消し、刹那、チキの目の前に姿を現した。
空間には細い光の線だけが一直線に描かれている。
グオーレンは何事も無かったかのようにチキとカレンの方に一歩踏み出そうとしたがその瞬間、光の速度に遅れた音速が空間を切り裂く音を奏で、音速に遅れた紅蓮の炎がカレンの通った道筋を創り出しグオーレンを貫いていた。
「「地獄に落ちろ《合義:焔地獄への光導~死は遅れて訪れる~》」」
振り抜いた刀と貫いた腹部には血痕さえ残らず、瞬く間に地獄の焔に包まれていくグオーレンは悲痛な叫びを上げ続けるのだった。




