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aラストティア ~荒野の楽園編~  作者: 蒼骨 渉
第四章 灰色のティア
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04 迫り来る狂気

「んっ、よいしょっとー。ふぅ、以外と軽かったなこれ」

 はしごを登った先の天井の一角をチキが上に押し上げて身を乗り出す。

 チキの剥がした天井の板は見事に武器庫の床と同化していて見た目では決して気付かない創りだったが、下から片手で持ち上げられるほど軽かった。

 武器庫には思ったよりも剣や鎧などが置いておらず、武器庫と言うよりはただの倉庫といった感じだ。

 ただちょっと鉄臭いが部屋全体に染みついているようで、鼻にツンとした刺激が走る。

 最後に部屋によじ登った僕が床を元に戻すと光が完全に失われて、辺りは暗闇に包まれた。


「予想通り全く見えないな・・・・・・」

 カレンの声だけが耳に届く。

「ちょっと待ってニャー」

 チキが猫の鳴き声を真似して眼に光を宿した。

 暗闇の中に二つの黄色い宝石が見える。

「どうニャ? 分かるかニャ?」

 二つの宝石はブンブンと動いて光の線を描く。

「猫目だからってわざわざ語尾を『ニャ』にしなくていいぞー」

「ニャ、ニャンだって!?」

 黄色い宝石は大きくなったり小さくなったり消えたりとチキの動きによって激しく変化していてなんかちょっと面白かった。


 人間の眼は暗闇でも多少の光は感知すること可能であり段々と眼が慣れてくると暗くても見えてくるようになるのだが、完全に真っ暗で光がない状態だとマジで何時間経っても見えない。

 故に今はチキとこの眼に頼るしかないのだが・・・・・・そろそろ静かになって貰おうか。

 僕は動く双眼に合わせて手刀をひょいと下ろした。

「痛っ! なにするニャ!」

 ジャストヒット。

やばい、これ面白いかも。

そうか、だからみんなは外出日にゲームセンターに行ってワニワニパニックをやっていたのか・・・・・・。

「遊んでる暇はないぞチキ。もっと緊張感を持ってくれ」

「イタイニャ! ハズレニャン! イタイにゃン! イタイにゃン!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。優理も遊んでるではないか!!」


「イタイニャン!」

「イッテェ!」

 堪忍袋の緒が切れたカレンの手刀が二人を成敗した。


「まったく、よくこの状況で遊んでられるものだ・・・・・・」

「つい調子に乗ってしまったニ・・・・・・のです」

「つい乗せられてしまいました・・・・・・ごめんなさい」

 呆れてため息が漏れるカレン。

 顔色を窺えない優理とチキはカレンの口調で怒り度を察していた。

「無事救出が終わったら反省文百枚提出しなさい」

「―――!? 本気ですか先生」

「もちろんだ」

 これは本気のやつだ・・・・・・。反省文百枚とかいつの時代の罰だよ!なんて今は突っ込める状況じゃないし・・・・・・。

「チキ、こうなったらソラの救出でカレンを見返すしかこの罰を逃れる術はないようだ」

「わ、わかったよ優理。二人でこの難関を突破しよう」

 二人はカレンに聞かれないようにコソコソと打ち合わせをするのであった。


「よし、じゃあ気を取り直して行こうか。まずはこの部屋から出ないとだな」

 まさか扉を開けた瞬間に敵が目の前に現れて襲いかかるなんてことは無いと思うが、外の様子が把握できない個室から出るのがもしかしたら一番難易度が高いのかもしれない。

 自分が相手の立場だったら間違い無く油断して出てきたところを一撃で仕留める。


「それもウチに任せてくれ」

「何か策があるのか?」

「もうお忘れなのか優理? ウチの親分は凄腕の盗賊だったんだぜ!」

「凄腕の盗賊・・・・・・? そうか索敵スキルか!」

「ご名答!」

 チキは指を弾いて鳴らした。


 そうだ、チキがティアの所持者(マスター)だったことですっかり抜け落ちていたが、チキはれっきとした盗賊だった。

 そして盗賊の三大スキルを挙げるとしたらもちろん、盗み・潜伏・索敵、この三つだろう。

 ティアの所持者(マスター)が悪人である盗賊だと知った時は正直心配だったし何の役に立つか疑問だったけど、まさかこんな形で必要とするなんて思っても無かった。


「ウチがチビだからって甘く見てたら大怪我するんだからね! ちょっと待っててくれ」

 チキは自信たっぷりにお得意の決め台詞を口にした後、扉に近寄って耳を澄まして周囲の様子を探る。

「うん、とても静かだね。誰も居ないみたいだ。これなら余裕で王の間に行けそうだよ」

「よし、それならすぐに向かった方が良いだろうな」

 カレンとチキはそう言うがほんとにそうなのだろうか?

 いくら深夜とはいえチャオスの懇親会の時に僕とチキが捕まる騒動を起こし、捕まった後に脱走までしている。

 カレンもチャオスや見張りを気絶させてきたらしいから少なくとも今日くらいは厳重な警戒態勢が取られてもおかしくないはずなのに、城内は閑散としている。

 これは本当にラッキーなのか? それとも何かの罠なのか?

 色々思考はしたが、結果僕はこの時の疑問を口には出さなかった。

 どのみち覚悟はできている。例え罠だったとしても乗り切るしか選択肢は無いのだから。


 武器庫の扉をゆっくりと開いてもう一度周囲を確認した後、目の利くチキを先頭にしてカレン・優理の順に互いの身体を触りながらゆっくりと暗闇の中を進んでいく。

「この体勢だと防災訓練みたいだな」

 中腰になった状態で互いの安否を確認しながら歩く様は火事場の避難訓練を連想させた。

「なら火を用意しようか?」

「やるなら城ごと丸焼けにしちゃおうよ!」

「いや、そしたら僕達も丸焦げになっちゃうだろ!」

「えー、城の丸焼き観てみたかったのに」

「縁起でも無いから辞めてくれ」

「はーい」

 冗談が冗談で終わりそうも無いのがこの二人の怖いところだな。


「あ、階段あったよ。足下気をつけてね」

「承知した」

「了解」

 この階段を上がれば王の間に着く。

 覚悟しているとはいえ、流石にここまで来ると緊張するな。

 階段を登るのに手すりを頼りにするが、触る手が微量に震えて上手く掴めない。

 手に意識を向けると今度は足元でつまずきそうになる。

 自分も、仲間も、階段も、先も真っ暗で見えない不安からか、呼吸が段々と荒くなっているのが分かる。

 すると急に誰かに手を強く捕まれた。

「優理大丈夫か? 呼吸が荒いぞ。私の手に捕まると良い」

 どうやらカレンが心配して手を差し伸べてくれたみたいだ。

「ありがとうカレン、助かるよ」

 僕はその温かい手をしっかりと握り、残りの段を上りきる。

 いつの間にかさっきの恐怖は消え去っていた。


 王の間に着くと一つの燭台が灯っているのが眼に入ってきた。

 燭台の近くには大きな巨体が横たわっている。

「あれは・・・・・・グオーレン王かなー?」

「酔いつぶれた後その場で寝てしまったのか。誰も寝室まで運んでやらないとは少々可哀想だな」

 チキとカレンがグオーレン現国王にゆっくりと近づいていく。

 燭台のおかげで若干ではあるが周囲の様子が見えるようになった。

 僕は二人の後ろで周りを警戒する。


「ングオガゴォ!!」

 背後から王の間に響くほどの大きないびきが聞こえた。

「びっくりしたぁ」

「こんないびきをかく人とは一緒に寝られんな」

「ああ、ほんとだ」

 チキは一番近くでいびきを喰らったので背筋を反って驚いていた。

「結果として王の間には大臣はいなかったか。王を置いて居なくなるなんて碌な大臣じゃ無いようだな」

「さてどうしようか。このまま大臣を探すのもいいけど、おびき寄せるのもありだぞ?」

「優理の判断に任せるとしよう」

「おっけい。チキは?」

「・・・・・・・・・・・・」

「チキ? どうかしたか?」

 カレンに続いてチキにも確認を取ろうと声をかけたがチキは燭台の方をずっと眺めていて反応しない。

 もう一度声をかけようとしたその時、

「なあ、なんで燭台に火が灯っているんだ?」

 チキは何を思ったのか二人にそう尋ねてきた。


「なんでって、そりゃ起きたときに灯りが無いと真っ暗で何も見えないからじゃないのか」

「もしくは寒いからとかではないか?」

 優理に続いてカレンも答える。

「でも寝ているなら灯りが点いてると眩しいし、防寒のためなら毛布とか温かくなるものをかけてあげたら良いと思うんだ」

 チキは先の逆転の発想をした時のように突拍子もないことを感じているのだろうか。

 僕とカレンの答えでは納得しない様子で頭を捻らせている。


 確かにチキの言うことも一理はあると思うが、だとしたらこの燭台は何故灯っているのか?

 いや、待てよ。灯っているのではなく灯り続けている?

 寝ている人間がいつか起きるだろうと思って灯りを付けたままにするだろうか?

 もちろんしばらくはそのままにするだろう。しかしあまりにも起きないのであれば、もうその場で寝るのだと思って灯りを消し毛布やらを掛けてあげるのでないだろうか?

 さらにいえば、セピア世界では火も貴重な資源。いくらティアの所持者(マスター)を捕まえたとしてもこんな無駄な使い方はしないはずだ。

 なのに今現在もこの燭台は火を灯し続けている。

 その理由があるとしたら、


「・・・・・・・・・・・・っ! 誰かここに居たのか!?」

 刹那、僕等全員は辺りを見渡し始める。

「優理、それだよ! 私が思ってた疑問の答えだ!」

「なるほど、それなら辻褄が合いそうだ」

「チキ! 索敵スキルで辺りを確認できるか!?」

「もうやってる! けど肉体はグオーレン王以外感知してないよ!」

「それは人以外は反応するんだろうな?」

「いや、ウチの索敵スキルは温度で探知するタイプなんだ。だから機械とかは感知しづらい」

「そうか敵は人間とも限らんからな・・・・・・」

 カレンは骸骨のことを言っているのだろう。奴等は無機質な生物だからな。

 全員の緊張感が会話の速さから感じられる。


 どこだ、どこにいる! チキが感知できないならそいつは人間じゃ無い。つまり二十分の一のくじ引きの結果が今ここにいるってことだ。

 何か奴に近づくヒントは無いのか・・・・・・。

「・・・・・・!? カレン、大臣は水晶でソラを監視しているんだよな?」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「水晶を扱えるなら、水晶に隠れるなんてことも可能なんじゃないかと思ってな! 近くに水晶の代わりになるようなものは無いか」

「優理冴えてるぅ!」


 相手が大臣だと仮定した上で僕等は周囲を見渡して水晶らしい物を探した。

 しかしそんな物は近くには一つも無かった。

「あそこに立て鏡ならあるけどウチみてこようか?」

 チキは僕達のいる王座側とは反対の奥にある鏡に近づいていく。

「うむ、優理の説は正しいかと思ったんだがな」

 カレンが眉根を寄せて表情を強ばらせた。

「チキの温度感知もしなかったし物体に化けてるのかと思ったんだけど違ったのかな」

 考え方は合っているはずなのに・・・・・・、何か見落としているのだろうか?

 優理は指で唇をさする。


 そもそも敵の目的は何なのだろうか。

 この王の間に用があった? いや王の間自体には用は無い。ここに来たのは確実にグオーレン王に接触するためだ。

 暗闇に乗じて王を殺害すること。これが敵の目的であろう。

 城の中が静まった深夜にこっそりと王の間に忍びこみ王に近づいた。

 そこに僕達がやってきて咄嗟に何かに身を隠した。

 うーん、何も違和感なんて・・・・・・いや待てよ。

 誰にもばれないように暗殺を試みたんだよな? だとしたらコレがあるのは不都合なんじゃないか?

 そうか、そういうことか! コレはあったんじゃなくて・・・・・・。


「優理、なんか静かになってないか?」

「え、静かに? たしかに言われてみれば雑音が減ったような・・・・・・」

 ずっと思考を巡らせていたせいで気づかなかったが確かに何かの音が無くなった気がする。しかしそれが何なのかはすぐに出てこなかった。

 ちょうどそのタイミングでチキが鏡の前から振り返って、

「なぁ優理、鏡に隠れてるとしてどうやって・・・・・・・」

 優理にどうしたらいいのか聞こうとしたようだったが途中で言葉を切り、血相を変えて叫ぶ!

「優理後ろ!!」

 刹那、燭台の影が大きく広がり僕は背後から何かが迫ってくるのを感じた。


主な登場人物

・優理

・カレン

・チキ

・グオーレン王

・大臣

・ラムじい

・イリィ

・モノ

・ニュートン

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