03 ラムじいが見てる世界と作戦会議
自然の監獄での用事を済ませた僕達は再びグオーレ王国も地下洞に戻ってきた。
ティアを使って異世界のゲートをくぐった場所と戻ってくる場所は同じなのだが時間はしっかりと経過していて、その時間は異世界で過ごした時間の半分程度である。
「そろそろかと思っておったぞ・・・・・・」
帰ってくるなりラムじいがいつもの文言を口にした。
見てくれは胡散臭い占い師だがこの人の言うことは毎回当たっている。
一体な何者なんだろうか・・・・・・。
「そろそろか思っておったぞ・・・・・・」
「ラムじいそれは分かったから・・・・・・って、寝てるし!」
椅子に座っているラムじいに近づいたチキが声をかけるが、ロムじいは寝ながら同じ言葉を呪文みたいに呟いていたのだ。
なんだよ、いつものはただの口癖ってことじゃねーか。凄い人って称賛した時間を返してくれ糞じじい。
「おいー、起きろよラムじいー。帰ってきたぞ」
チキがラムじいの肩を持って前後に揺するので首振り人形のように首がぐらぐらとする。
「んう、ふがっ。おー、やっと帰ってきたか。思ったより早かったの」
言葉の前後が合っていない。『やっと』の後に続くなら『遅かった』だ。
寝起きのラムじいはしょぼつく目で優理達を見渡すと、
「ほう、三人ともしっかりと成長してきたようだな」
手に取ったかのように僕達のことを理解した物言いをした。
「そうなんだよラムじい。もうグワってなってギョエってなってシュッとしてヒョって感じでさ」
殆ど内容の読み取れない言語をジェスチャーで無理矢理伝えようとするチキ。
そんなチキを「そうかそうか」と流してラムじいは聞いていた。
「なぁラムじい一つ聞いて良いか?」
「ん? なんじゃ優理、改まったようにして」
ラムじいはとぼけた顔をして僕の顔を眺めてきた。
「ラムじいはなんで自然の監獄のことをチキに教えられたんだ?」
「ふむ、なるほど、どうして儂がそんなにティアについて詳しいのか? と聞いて居るのじゃな?」
「広義に捉えるならそういうことだ」
何故僕がこのような事を聞くのか。それはチキが親分のことを話してくれた際に思った『何故自然の監獄についてとそこから蘇らせるリングのことを知っているのか』ということだけでは無い。
僕にチキという存在を意識させたのも、チキが僕達のリングを奪いに来るように仕向けたのも、グオーレ王国からこの地下洞にきた僕等を導いたのも、全部この占い師を名乗る謎の老人なのだ。
この占い師が言うには全部元から決まっていた運命らしいが、そんな偶然に偶然が重なるような奇跡が何度も起きてたまるものか。
僕達の人生が一人一人の物語では無く、全て神に作られたあらかじめ定められた物語であるみたいなことを言われても「ああそうですか」なんて単純な思考はしない。
全て誰かの作為的な行動によって動かされていると考えるのが普通だ。
では今回、僕達を作為的に動かしていたこの似非占い師は本当は何者で目的は何なのか? これを考えない方がおかしな話である。
ただ直接的に「お前は何者だ」なんて訊いて答えてくれる甲斐性があるわけ無いのは分かりきっている。
だから敢えて遠回しな表現で真意を見抜こうって算段だ。急がば回れとはまさしくこういうことだと僕は思っている。
向こうも警戒しているのか瞬き一つせずに僕とラムじいは視線をはち合わせる。
「そうじゃな・・・・・・。今はお前さんの欲しい答えを話すときでは無いな」
「あくまでも話す気は無いと?」
「そう怖い顔するでない。来たるべき時に儂からきちんと説明する。それよりも今は目の前のやるべきことに専念するのじゃ。思ったよりも深刻な事態になっているやもしれん」
「深刻な事態?」
「そうじゃ。人間では無いが完全に人間を失ったワケでは無い、そんな存在の何かが今回のソラの救出に関わっている」
「私と優理がヒロキチ村長の村で出会った動く骸骨のことか?」
ラムじいが真剣な顔で話をするとカレンも同じ温度で尋ねた。
「骸骨・・・・・・では無いな。外見は完全に人間と同じじゃ。だがただならぬ力を持っておるようだ。君たちティアの所持者に負けず劣らずの人並み外れた力を・・・・・・」
「だから修練の塔で僕達は戦う術を教わった・・・・・・」
ラムじいは深く頷いた。
僕はイレイザとの戦いを思い出す。
イレイザは剣先から爆発を起こす技を使ってきた。それはセピア世界において異常であることは明らかだ。
火の属性を扱えるのは隣にいる赤のティアの所持者であるカレンだけのはず。
神がそれ以外の方法を用意しているなら話は別だが、それならもっと人々は安定した生活が容易にできるはずだ。
そしてもう一つ、カレンが訊いたというイレイザの称号―――黒の三英傑第三位配属兵。
これに関しては情報量が多すぎたためにカレンには深く訊かなかったのだが、まず【黒】という色が出てきていることがかなり気になっていた。
僕達ティアの所持者も必ず【赤】や【黄】といった色が最初につく。そしてその色に属したティアの恩恵を受けることができる仕組みになっているのだ。
次に【三英傑第三位】。これは名前の通りではあるが、英雄と呼ばれるような存在が三人いることになる。
最後に【配属兵】だが、僕の持っている知識だとこの【兵】というのは軍の階級の一つで、よく訊く名前だと一等兵や二等兵とかだと思う。その階級を大きく分類した時に【兵】というのは一番下であり、【士官】【准士官】【尉官】【次官】【将官】【将校】の順に上がっていく。
これら全てがもし完璧に合っていると仮定したならば、第一位~三位までの英雄とそれぞれに七人の配下を持つ黒の軍団存在していることになるのだ。
ただ今回のソラ救出に関して敵のような存在は確認できていない。
だが修練の塔は僕達に戦闘することを前提とした修練を施した。
つまり僕等はこれからイレイザと三英傑を抜いた、二十分の一のくじ引きを引かされると考えて間違いないのだろう。
「まさかこんなにも早く修練の塔の恩恵を受けられるとはな」
カレンは感心したようにはっきりとした口調で呟く。
きっと僕ほどでは無いにしろカレンは感覚でそれに感づいているのだろう。
チキは「大丈夫だってー」と楽観的に捉えていた。
「とにかく優理よ。まずはソラを救出することからじゃ。突き当たりにあるはしごはグオーレ城の武器庫まで続いておるから、それを使うと良い」
本当にできたようなことばかりだな。
最初からココに俺たちが落ちてくることやグオーレ城に侵入することを準備していたようだ。
「戻ってきたら全部吐いて貰うからなロムじい」
「本当に君は可愛くない性格してるのぉ」
「そりゃどうも」
ロムじいは顔を引きつらせながらも笑って答えた。
「城に侵入する前に作戦会議をしておこうか。中に入ってからだと会話もできない可能性があるから」
「優理の言う通りだな。時間的には城の中は真っ暗で何も見えないことも考えられる。私は火を出せるから視界が失われることはないが」
「いや、火はできるだけ出さない方が良いと思う。暗闇に灯りがあるとすぐに見つかる危険性がある」
「たしかにそうか。チャオスに訊いた話だと大臣はソラの監視に水晶を使っているらしい」
「なるほど・・・・・・、そうだとしたら城内全域が監視下にあるかもしれないのか」
「ウチの眼なら暗闇でも平気で見えるぞ?」
二人が頭を悩ませているところにチキがぽんっと言い放った。
「え、そうなの?」
「うん。ウチは元々猫目だったんだけど黄のティアの力を使えば眼に光を宿せるから昼と同じくらいはっきり見えるよ」
「チキにしては役に立つじゃないか」
「おい、遠回しに役立たずって言ってないか?」
「そんなことないぞ。戦闘以外では役に立つと少しは思っている」
カレンは腕を組みながらチキを見下ろす。
「はっはーん。戦闘でしか役に立たない火力馬鹿って認めたわけか!」
チキも負けずに応戦するとカレンの眉がピクッとつり上がった。
「おいおい待った、待った! 今ここでやり合ってる時間は無いんだから二人とも仲良くやってくれ」
ほんとにこの二人は火種があればすぐに着火させて燃え上がらせるんだから・・・・・・。
優理が呆れながらため息をつくと二人は「ごめん」「すまなかった」と頭を下げた。
「分かってくれればいいんだ。じゃあ城に入ってからはチキが先頭で行動することにしよう」
「任せてくれ!」
チキはグーサインを突き出した。
「ソラの檻の鍵は大臣が所有しているようだ」
「そうなのか? じゃあ大臣に接触する必要があるのか」
「大臣って城の中のどこに居るんだ? 居場所が分からないまま闇雲に探すのは無理があるぞ?」
「確かに・・・・・・」
チキの言う通り大臣の居場所が分からなければ探すのに時間がかかってしまう。
そうなれば城内に侵入している時間が必然と長くなり見つかるリスクも高くなる。
そもそも大臣って城の中に住んでいるのか?
僕の大臣に対するイメージとしては、ゴマすり上手で王の側近として仕えるが実は裏で悪事を働いている人間。どうしても王国がメインの物語になると悪役にされがちな可哀想なポジションを獲得してしまう存在・・・・・・とそれくらいだ。
大臣の居場所を突き止められるような知識や情報を僕は持ち合わせていなかった。
するとカレンが想いだしたように、
「そういえば、パーティーを強制終了ささせた時に大臣が、酔いすぎてその場で倒れているグオーレ王を介抱していたな」
「それならまだその場にいるかも知れないわね!」
「グオーレ王の体格からして大臣は持ち上げられないだろうから、その可能性はあるな」
「まずは王の間に向うってことで決まりね」
「もし居なかったらその時に考えよう」
三人は互いに視線を交わし合って頷く。
ところがチキは思いがけない事を口にする。
「いっそのこと見つかっちゃった方が早いかもね。そしたら向こうから勝手にやってくるでしょ? ・・・・・・な、何よ、急に二人とも黙って」
チキは訝しげに僕とカレンとを交互に見ている。
「いや、それも一理あるかもしれないと思ってな」
カレンは顎に手を当てて呟いた。
まさしくカレンの言う通り、チキの逆転の発想とも言えるこの作戦は理に適っていた。
僕達はずっと見つからないようにコソコソ隠れて大臣の居場所を探すことばかり考えていた。しかしどこに居るか分からない相手を探すのは骨の折れる作業だ。
ならばいっそ探すのではなく見つけてもらうという行動を取った方が早く見つかるということに僕とカレンは気付いたのである。
「まぁしかし、敵をおびき寄せてしまうリスクも伴っているから、まずは最初の作戦通り王の間に向かう方がいいだろう」
カレンは冷静な判断を下した。
「もしもの時はド派手にやってくれちゃって構わないぞ?」
「優理にしては珍しいな、何か策があるのか?」
「まぁな」
カレンは僕の確信のある返事で察したのか「楽しみにしている」と一言添えて、深くは追求してこなかった。
チキは頭に『?』を浮かべて、どういうことだよー、と訊いてくるが僕はそれを受け流すように曖昧に返した。
「なんだよ、また二人だけ知ってるみたいなやつ出してきてさー」
チキは頬をぷくっと膨らませると、そのまま拗ねるようにしてはしごに向かい、
「ほらもう行くよ! 私についてきなさい」
手と足をはしごに架けて空いてる方の手首を折って合図した。
カレンもチキのお尻を見上げながらはしごを登っていく。
「優理、一つだけいいかな?」
僕はラムじいに呼びかけられ、足を止めて振り返る。
「この先、君の思いもよらぬ出来事がたくさん起きると思うが、決して忘れてはいけないことがある。それは何があっても自分を信じることじゃ。今更言うことでは無いかもしれぬが、ティアの力は想いの力。自分が勝てない、無理だ、できないと思ってしまえば、それが現実になる。逆も然り、決して諦めない心を持ってさえいればティアは答えてくれる。それを忘れないで欲しい」
いつにもなく真剣な表情で僕を見つめるラムじい。その想いの色はやわらかく、温かく、包み込んでくれるような優しさを含んでいて、僕はその色に懐かしさを覚えていた。
「院長?」
咄嗟に口に出た言葉に自分でも驚いていると、ラムじいは首を横に振り、
「院長は君の心の中にいるよ」
と僕の胸の位置を指さした。
僕はその意図を完全に理解はできなかった。
でも、ラムじいが伝えたい事はきっとこういうことなんだろうと勝手に納得して
「院長と一緒に戦ってくるよ」
胸に当てた拳をラムじいに突き出してから、僕は二人のお尻を追った。




