19 途中中断不可のデスゲーム
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二人に遅れて優理も塔の入り口に着いた。
改めて見ると高いというよりでかい。もちろんのことながら縦には首を九十度上げなければ全体を捉えられない高さなのだが、外周もとんでもなく広い。これは人間サイズのモノではないなと直感するほどだ。
巨人族が通れそうなほど大きな鉄製の扉の前まで三人が近づくと、地響きのような轟音と共に扉がゆっくりと開かれていった。まるで優理達を歓迎しているようだ。
「これは、ウチらに入れって言ってるわけね」
「そのようだな。きっとティアとこの塔が関係しているのだろう」
僕等は塔に導かれるようにして、塔の中へと入っていった。
「暗くてよく見えないよ?」
チキの声が建物内に響き渡り、耳だけではなく身体全体を振動させる。
段々と暗さに慣れてきて視界が広がると、目の前に人の姿がぼんやり見えた。
「誰だ?」
恐る恐る優理が近づいていくと、
「んん? ようやく来たか小童ども」
喉にかかるようながなり声が聞こえてくると同時に扉が独りでに閉まった。
入ったときと同じく地響きと轟音が鳴るが、塔の中で反響しているらしくさっきよりも振動が大きい。
耳を押さえながら耐えていると今度は視界が明るくなった。照明がついたらしい。
今度は眩しさに目を細める。
「あの、貴方は一体誰ですか?」
「儂か? 儂はこの修練の塔の支配者じゃ。お主達ティアの所持者が来るのを待っておった」
両目を閉じたまま袖に手を入れて腕を組み、直立不動で待ち構えて居たのは、渋い抹茶色の羽織にクリーム色の袴の着物姿で、白足袋にわらの草履を履いたご老人。長い白髪をオールバックで纏めており、かなり豪腕で厳めしそうな顔立ちをしている。
「ご老人、私たちを待っていたと言ったが、修練の塔とは一体何なのだ?」
カレンは老人の風格に気圧されること無く尋ねる。
「うむ。修練の塔とはその名の通り修練をする塔のことだ。この塔ではお主等ティアの所持者がティアの力より引き出すための特訓をしてもらう。現実世界で技の習得や特訓をするのは目立ってしまう上に、強力な技を発動するにはいささか危険じゃ。だからこの塔でその力を存分に発揮してもらい強くなってもらうというわけだ」
懇切丁寧に老人が答えた。
つまるところこの塔はティアの所持者達の修行場にあたるらしい。
セピア世界にはRPGの要素であるレベルやHP・MP・力・賢さ・防御などの数値化されたステータスは存在していない。オプション画面を指のフリックで確認することやコマンド選択をすることも当然のことながら無い。ゆえに現実に程なく近いことで、戦闘時の技の発動や身体の使い方なども体感で習得していくしかないのだ。
「なんで強くならなきゃいけないの? ウチらがやらなきゃいけないことは、世界を救うためにどこかにある楽園で聖杯に祈りを捧げることなんだよね?」
訓練することが嫌なのか、不満げに口をへの字に曲げて質問するチキ。きっと何か続けようとしても厳しいと三日坊主でやめちゃう質なんだろうな。
「そうか、知らないのだな? ティアに選ばれし者達にこれから待ち受けている試練を」
両目は閉じたままだが、もし空いていたならばギリっとした鋭い眼光を放っていただろう強い口調で、僕等に緊張の汗をつたわらせる。
カレンは話の中でイレイザ達の存在が明らかになると期待していたようだったが、思わぬ形で裏切られて目を白黒させている。
「とにかくここに来たのならば修練あるのみだ。今は何の役に立つかは分からずとも、いずれお主達のためになるのだろう。とりあえずついてきなさい」
含みを持たせた言い方をしたのに試練のことについては触れることなく、後ろを振り返るご老人。同時に優理はそれまでも視界に入っていた塔の内部を見渡す。
塔内は古代兵器が眠っているかのようなアッシュグリーン色のメタリックな様式で統一されていて、正面の奥にはエレベーターに似ている上層に上がるための装置がある。
神々しい装飾があちらこちらに施されていて、蛇や虎などの動物を模した型のモノもあり、触れれば目が赤く光りそうで怖い。
老人は上層へ向かうための装置に乗りこちらを振り返る。
「ほら、早く来なさい」
端的に事を済ませたいタイプなのだろう。怒らせたら平気で手が出てきそうだ。だがその手は未だに袖に中にしまい込んでいて出る気配がない。そういえば両目も未だに開いていない気がする。
三人は老人の言われるがままに装置に乗る。
「ついたぞ」
「え?」
扉が閉まった瞬間に老人が「ついた」などと言うので、三人とも訳が分からずひょうきんな声をあげてしまった。
その装置はエレベーターではなく瞬間移動するとんでもマシンだったのだ。青色猫型ロボットの多次元内ポケットから出てくる道具並みである。
たしかに扉が閉まる一瞬、目の前がブラックアウトしたような気はしたが、瞬きと同等な感覚だったのでそれで移動したとは誰も思わないだろう。現に分からなかった。
瞬間移動装置の扉が開くと、三人の後ろから老人が忠告を言い放つ。
「ここから降りた時点で修練は開始される。今からこの修練の塔でのルールを伝えるからよく聞くんだぞ。一回しか言わないからな」
【修練の塔ルール】
・その壱 ここでの死は現実世界での死を意味する。
・その弐 各フロアを攻略することで次のフロアへの階段が現れる。
・その参 修練者の故意による中断はできない。
・その四 ティアの力を思う存分に発揮せよ。
「以上だ」
全身に凍り付くような恐怖が襲いかかった。
なんとこの修練の塔は途中中断不可の攻略デスゲームだったのだ!
これは僕達を陥れるための罠なのだろうか? そもそもこの老人は味方だったのか? 自然の監獄自体、神の支配する領域ではなく神と対抗する魔神や魔王の創りあげた世界だったのではないだろうか? 様々な思惑が脳内を支配していく。
思いもよらぬルール説明に顔を真っ青にして固まるチキ。無理もない、彼女はまだ小さい。僕ですら恐怖で足がすくんで動かないのに、この状況に耐えられるワケがないのだ。
「最後に聞きたいことはあるか?」
背後から最終宣告が言い渡された気分になる。今、老人はどんな顔をしているのだろうか。まさか閉じていた両目は碧眼で悪魔だったなんて可能生もある。やばい、とにかくやばい。逃げ出すか? いや、その行動を取った瞬間に背後から突き刺さされ殺されるかもしれない。じゃあどうする? このデスゲームを攻略するしかないのか? 命の保証まではないが、今、殺されるよりは生存確率が高い・・・・・・・・・・・・いやまてよ!。僕は重要なことを確認していなかった。それなのに死という言葉に反応して勝手に悪いことだと思い込んで想像してしまっていた。まずはソレを確認しなければ・・・・・・。
「はい。ご老人は・・・・・・・・・・・・僕達ティアの所持者の味方ですか?」
できるだけ心の内を見透かされないように感情を殺しながら、どうか味方であってくれと強く願いながら、優理は口を開いた。
主な登場人物
・優理
・カレン
・チキ
・修練の塔の老人




