表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第七章 海の向こうへ~銅の国カルコス
76/155

第74話 再会と契約

セティスと会うため、シャルルロアに戻ります。


74


 薬を変えて試す方法を繰り返し、女王の病状は日毎良くなっていった。

 全国から集めた医師に、薬の調合をまとめさせた。薬草の名前や量を書きとめ、集められる限りの種子を集め、小さな壺に入れて保管させた。

 これで、調合がわかっても薬草がないということを防げる。

 薬が万人に行き渡るようにしておけば、疫病が流行っても対応できるだろう。

 女王の墓として建設が続く墳墓の、地上部分には桜や桃も梅を植えさせた。厳密に言えば違う種類かもしれないが、雰囲気だけは桜まつりができる。

 

 なかなかアミシのエメラルドが見つかった知らせは届かない。僕は人形師のセティスに手紙を書き、女神カルコスの像を作ってもらうよう依頼をしていた。

 像がだいたい出来上がったと返信が来たのを機に、黒百合の女神に頼んでみた。

「以前、行ったことがある場所へ連れてってくれませんか」

「いいわよ別に」

 彼女の故郷ランズエンドに、一瞬で移動した時から、移動魔法のようなものはあるのだろうと思っていた。

 シャルルロアに帰りたいというと、

「あんたねえ、兵士に見つかったら捕まるわよ?」

「ガーネットの姿で行動するので大丈夫でしょう」

 リリーはどうするんだろうと思ったら、「私はパス、むざむざ捕まりにいくことないわ」とヒラヒラと手を振った。

「すぐ戻りますね」


---


 シャルルロアの街に、ちょうど夕暮れに間に合うように移動する。

 石畳の道の往来は、あいかわらず激しい。セティスの店の明りは点いていた。窓ガラス越しに見るセティスは、相変わらず王子様のような金髪に、色白の顔をして、その顔貌に似合わない作務衣のような作業着を着ていた。


「いらっしゃい、ませ」

「お久しぶりセティス」

 製作中の人形を、作業机の上に落とす。

「……ガーネット……。いや、アキラ、君なのか」

「久しぶり、お手紙ありがとう。女神像を受け取りに来たの」

「……」

「カルコスの次期女王から代金は払ってもらうから」

 セティスは、盛大に溜息をつき、両手を広げてみせた。

「そういうことじゃないだろう? 久しぶりに会った友に対する言葉がそれかい?」

「……ごめんなさい。私、あまり友達がいなかったものだから……」

 

 謝ると、セティスはぎゅっとハグしてきた。

「会いたかったとか、そういうの聞きたかったな。私だけなのかなって思って、さ」

 そっと両腕が離れると、セティスはドアを開け、OPENの看板を逆にした。

 暖炉の前にどうぞと、手を取られる。

「そういえば、前、レストランで食事したよね。あの夜は楽しかった」

「……ええ、覚えてる。美味しいケーキだった、バラの形の」

「もっと、仲良くなりたかったのに、君はリリー・ロックと共に街から消えてしまった。さみしかったよ」

「ありがとう、でも」

「いいんだ。……ねえ、男の姿に戻ってくれないか? 恋をしてしまうから」


 変身を解くと、セティスは台所から紅茶とクッキーを持ってきた。

「他国の女神像を作れなんて、すごい依頼が来たなと思ったよ。今は、カルコスにいるんだね」

「うん。探しものをしてる」

「ラウネル王国の王子じゃなかった?」

「彼もだけど。……ほかにも」

「……私には、話せない?」

 シャルルロアとラウネル王国は敵同士。僕とリリーは、彼の姉を殺さないといけない。

「……いや、話す。聞いて欲しい。僕は今、カルコスで別の女神の力を宿した石を手に入れた。可能性は低いけど、君のお姉さん、リリー・スワンを殺さなくてすむかもしれない」

「へえー……」

「ダイアモンドナイトには、姉妹がいる。彼女たちの力を借りて、シャルルロアから追い出して、母親の元へ返せるかもしれない」

「……」

「ただ、成功するかはわからないし、失敗した場合、リリーの基本方針は変わってない」

 セティスは合わせた指先を、離してはくっつけて、指を組んだ。その手をまた離して、クッキーをつまむ。 

「姉を殺さないで欲しいと、私がお願いしたことを覚えていてくれたんだね」

「別に……、君のためじゃない。それにうまくいくかわからない。リリーは別に殺してもいいと思ってる」

 仮に、ダイアモンドナイトを返品できたとして、女神の力を失った女王を、民はどうするだろう。

 そのまま女王として扱ってくれるだろうか、それとも暴動が起こるだろうか。

 その時に、リリー・スワンが無事でいる保証はない。

「リリー・ロックの気持ちはどうだっていい。可能性があるなら私はそれに賭けたい。私にとっては、たった一人の家族だ。話してくれてありがとう」

 セティスは体を乗り出して、僕の唇にキスをした。

「……驚かないんだね」

「よくセティスはナンパしてる印象あるからいまさら」

「ナンパって?」

「異性に声をかけること」

 肩を押して距離をとる。いまの僕はリリーのものだ。と信じたい。

「私は君が、男でも女でも構わないんだ。私の世界に飛び込んできたのは君の方」

 だから協力するんだよと、ぐっと肩を抱かれた。

 これ、キスされるやつだ。

 これ以上はいけない。


「んっ……、んん?」

 唇に指が押し当てられた。

「……ごめんね。君の気持ちも考えずに」

 ちゅっと、セティスは僕の腕を取り、手首に口づけた。

「……閉じ込めてしまいたいけど、そういうわけにもいかないよね」


 本題に入ろうと、彼は足に力が入らなくなった僕の肩を抱き、ソファに座らせた。

「アキラ。カルコスの女神像を作るのは構わない。でも、それだけで、私に会いに来たわけじゃないだろう。何か目的か話して欲しい」

「……お姉さんを助けたいという気持ちは、今でも変わらないよね。僕は、ダイアモンドナイトを返品するだけでいいと思っているけど、リリーが女王の暗殺を諦めてないなら、僕には止められない。彼女を抑え込めるだけの力が必要だ」

「君は魔法を使えるようになったんだろう?」

「リリーの本当の魔力はわからない。彼女は黒百合の女神のアメジストを所持している。僕とは比べ物にならない魔力を持った石だ。しかもリリーはたいした魔法を使わないんだ。見せないようにしているのか使い方がわからないのか、判断できないけど」

「……私に、何をしろと」

 プリンセス・リリー・スワン以外にダイアモンドナイトを使役できるのは、彼だけだ。

 殺し合いになった時、最後にリリーと黒百合の女神を止められる戦力が必要だ。

「リリーのためなんて言わない。僕のために力を貸して」

「……君の目的が果たさせたら、私は用済みかい」

「……そうだよ。それは僕も同じこと。クラウス王子を助け出したら、用無しだ」

 自分の意思で選んだ道とはいえ、なにもかもリリーの思い通りにはさせない。

「アキラ、君はあの魔女といたせいで、魔女になってしまったんだね」

「そうだね。でも、僕といれば、お姉さんを助けてあげられるかもしれないよ?」

 ソファで二人きりで見つめ合う。友達以上の感情を利用して戦に巻き込もうとしている、確かに僕はもう戻れない。

「魔女と契約するのは、キスだけでいいのかい?」 




 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ