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第56話 初恋疑惑。

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 とりあえず泊まってけばと、黒百合の女神が言ってくれたので、その日は教会に一泊することにした。

 もともと人間ではない彼女と、すでに人ではなくなってしまった、ローズルは、夕食をどうしましょうと気にしてくれたので、釣り竿を貸してもらった。

 リリーと海岸に出て、釣りを始める。

 仕掛けをしてあたりが来るのを待つ間に、リリーは竿を見て、その間に僕は枯れ枝や枯れ草を集めて火を起こした。

 

 自分の魔力がどれほどのものか、試してみよう。

 ロッドでマッチを宙に描くと、イメージ通りのマッチが現れた。枯れ草に火をつけて細い枝から燃やしていく。

 火が大きくなるのを待つ間に、椅子とテーブルを出現させる。まな板も出しておく。この程度の日用品を出現させるには、魔力はさほどいらないようだ。特に疲れは感じない。

 岩場ではリリーがなにか釣り上げたらしく、僕を呼んだ。

 名前もわからない魚を数匹、リリーは釣り上げ、持っていたナイフで手早く内蔵を取った。

「あら、テーブルまである。やるじゃない」

 拾ってきた枝を刺し、焼き始める。焚き火を囲んで一息つく頃には、日が暮れ始めていた。


 話したくもないけど、クラウスのことは聞いておかなくてはならない。

「クラウス王子は生きてるんですよね。どこにいるかは、」

「シャルルロアにいるわ。さっき黒百合が教えてくれた」

「……」

「あの子は生きてるの」

 炎越しのリリーの目は僕の知らない輝きに彩られていて、まるで別人を見ているようだった。


 初めて会った日の彼女の姿を今でも覚えている。

 薄紅色の髪で、世界が覆われたようだった。

 夜空の星のような金色の瞳に射抜かれて、僕はリリーについていった。時折見せる沈んだ目の色は、今は消え失せている。


 本当にクラウスが生きていることが、どれだけ彼女を喜ばせたか。

 女の子の姿をしている今の僕は、どんな顔をしているのか。自分ではわからない。

 パチパチと火が爆ぜる、夜に取り残される僕の気持ちに、あなたはきっと気づかない。


「どうして……。殺さないんでしょう」

「王子を殺せば、ラウネルと戦になるわ。シャルルロアは戦を恐れない。あの国は強い軍隊を持っている。でもね、リリー・スワンは……女王は、戦を望んでいない。夜な夜なパーティーを開いて、平和そのものだった」

「じゃあ、何故、あの国はクラウス王子をさらったんでしょう」



 いっそ殺してくれたら良かったのに。

 ん?

「……」

 そう思ったのは僕だけじゃなかったのでは?

 僕は変身を解いて、元の姿に戻った。

 

「アキラ?」

「ダイアモンドナイトは、リリー・スワンが使役してるんですよね。彼女の命令を聞くんですよね」

「たぶんだけどね」

「それなら、ダイアモンドナイトは、女王の……。リリー・スワンの願いを聞いてあげたんじゃないんでしょうか」

 どういうことなのと、リリーが先を促した。

「セティスが言ってましたよね。リリー様はリリー・スワンと会ったことがあると」

「会った覚えがないのよ。あなたも見たでしょう、田舎だったでしょう、私の村は。どうして隣国の女王と知り合うっていうのよ」

 女王として会ったのではない、きっと。


「リリー・スワンは、もともと、シャルルロアの人形師の家の娘でした。ダイアモンドナイトに選ばれて女王になっただけで。ラウネルには旅行に来たのかもしれません。

ラウネルにしかない名所はありませんか。温泉とか、教会とか観光名所とか」

「ラウネルとシャルルロアは信じてる神が違う、教会はいっぱいあるけど……」

「ラウネルの城下町ではなく、リリー様の村のあたりにです」

「温泉ならあるわ」

 話しているうちに、魚が焦げそうになった。先にご飯にしましょうとリリーが手渡してくれた。

 はふはふと串焼き頬張る彼女の横顔を、このままずっと見ていたい。


 リリー・スワンが、ずっと昔に出会っていたとして。

 もしも、リリーに恋をしていたとしたらどうだ?

 初恋だったんじゃないのか?

 今の僕と同じように、邪魔者を消したいと思うことがあったのではないか。


「……」

「アキラ? おーい、どうしたの、聞いてる?」


 以前シャルルロアの舞踏会で、女王は、『彼女に、城に来て欲しいの。私だけのために』と話していた。 

 女の子が女の子を、好きになることだってあるだろう。きっと。たぶん。


 目の前から消したかったから。消す必要があったから。

 クラウスを誘拐したのはきっと女王の意思ではない。


 しかしそれをリリーに話してどうなる?

「リリー様、温泉があるって言いましたよね。病気によく効くとか、そういうのですか」

「そうね、湯治場だったはず」

「行ってみましょう。リリー・スワンとセティスが覚えていて、あたなが忘れているなら、日常的な、たいしたことない些細な出来事だったんでしょう」

 

 魔法で出したテーブルと椅子を消して、釣り竿を持って歩き出す。

 僕たちは魔女、しかし、すべて解決できる魔法はないってことだ。 

 


なぜか予約投稿できてなかったので、あげ直し。

リリーの国と違い、シャルルロアは同性愛に寛容なんですよ。

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