第136話 鏡と竪琴
136話です。やっとクラウスを救出しました。
しかしそこに喜びはなく……。
絶望しかない。
鏡が目の前にあるようだ。
クラウス王子の顔だけは、ガーネットにそっくりだ。ツインテールでないだけで、瞳の色も身長も透き通るような白い肌も。
そっくり、だ。
存在そのものが光を放っているような、王子様。
しかし、状況は絶望的だ。
こちらは戦いで傷を負い、あちこち骨が折れている。
血と泥にまみれた魔女と、石の中に閉じ込められていた、お人形のような王子。リリーがどちらを選ぶなんて、考えなくてもわかる。
口の中に血の味が広がる。
「……痛……」
「……大丈夫」
クラウスの手が頬に触れた。
「美しい人。助けてくれてありがとう」
手を両手でぎゅっと握られると、温かい力が流れ込んでくるのがわかった。
これは……回復魔法なんだろうか?
彼も、魔法が使えるのか?
「……痛くない……」
切れた口の中の、痛みが引いていく。
「君には生きていてもらわなくては」
たぶん、折れていた骨も治ったようだ。どこも痛くない。
クラウスは振り返って、今度はトレニアに向かって頭を下げた。
「リリーの友達だろう? 話は聞いている」
「ええ。はじめまして、になるのかしら」
「君も、舞踏会に来ていたの覚えているよ。ところで、そのハープを貸してもらえないか」
王子に気を取られていだか、よく見ると、石の中の異空間から出てきた、たくさんの人達が倒れている。
軽やかな陽光のような音色が、空間を満たした。
「さあ、みんな、家に帰る時間だ」
目を覚ました人々が、ゆっくりと歩き出す。
「何年も何十年も閉じ込められていただろうから、家があるとは限らないけど……」
「……」
「さて。ガーネット、トレニア、頼みがある。ここにある神々の石を持って、先にラウネルへ戻っていてほしい。リリーを連れて」
「それは……、もちろんです、しかし王子あなたは」
「このハープを貸せ、シャルルロアの城壁を破壊する」
助けられたばかりだというのに、好戦的だな……。
「なに、心配はいらないよ、全員が退避する時間を稼ぐだけだ。このハープで、シャルルロア軍を操れるのだろう?」
「一人では危険です」
しかし、リリーを先に逃がすのは賛成だ。
ポロン、とクラウスがハープを鳴らす。
「クラウス、あなたも一緒に。あなたを置いて行けないわ」
「心配ないリリー。女の子を、いや、妻を守るのは夫の役目だ。さあ、ガーネットと一緒にここを出て。ラウネルの村の、君の家で待っていて」
「……わかったわ」
トレニアは神が宿った石をすべて回収し、リリーの肩を叩いた。
「リリー、戻るのよ」
「待って、クラウス。ひとりぼっちにはさせないわ」
「大丈夫。迎えに行くよリリー。君が迎えにきてくれたように。帰ったら式を挙げようね」
いけない。
止めなくては。
「ガーネット。あなたにもお礼を。この国の半分をあげよう」
「……まるで、魔王のような言い方をするのね王子」
なんだろう、リリーが言うように、ひとりぼっちの可哀想な王子とは思えない。
優しげな笑顔で、柔らかい口調だけど、相手を操ろうとする偽りの優しさだ。
僕と同じ顔、しかし、僕が持っていないものをもっている。
「女性を先に逃したほうがいいだろう。さあ、ここを出るんだ。リリーと一緒に」
女じゃないけどな。
絶望している場合じゃない。
まだ、戦いは終わっていない。
「クラウス王子。後詰として残るということであれば、私もご一緒します。私のゴーレムで城壁を攻めましょう」
「……心強いね。リリー、それでいい?」
リリーは唇を噛んで、それでも「必ず二人とも戻るのよ」と承諾してくれた。見張らなくては。
ハイラとメキラもいる。心配はいらないだろう。
僕が殺される心配、は。
アキラの戦いはまだ続きます! また読みにきてくださいね!
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