第124話 地獄に仏
約束のブツを持ってきたジャスパーに、リリーは……?
「兵力はあるのか」
「ええ」
そのために竜のハープを手に入れる必要があるのよ、とリリーは答え、あと何日か待てば良いと笑った。
数日後。この世界では子供でも酒場に入れるので、リリーと一緒にチーズやソーセージをつまんで待っていた。しばらくすると、ジャスパーが、両手に袋を抱えやって来た。
「約束のブツだ」
「あら、本当に……。ほら謝礼よ」
「フン……」
「確認しなさい。謝礼を誤魔化してるかもしれないでしょう?」
小さな袋を手渡す。中に入れているのは、金庫の鍵だ。
「なんで鍵なんだよ」
「金貨をこの場で渡したら、あなた、家に着く前に殺されるわ」
今すぐ確認に行くなら同行すると、リリーは申し出た。
「……」
「さっき言ったでしょ? その目で確認しなさい。私が謝礼を誤魔化してるかもしれないでしょう?」
街の預かり所まで馬車で移動する。三人乗っても充分の広さの馬車は、ガラガラと音を立てて石畳の道を駆ける。音は大きいが、座席は柔らかく振動はあまりしない。
「ハープですよね? どうしてこんなに小さいんですか?」
「ああコレ。事前に城で情報を集めてあるのよ。この手のアイテムは、魔法がかかっていて、大きさが変えられるの。片付ける時に便利でしょう」
「オレにかかればこんなモン、楽勝だ」
「ふふっ、そうね。たいしたものよ」
預かり所に到着する。たくさんの金庫が壁一面に設置されている。鍵を金庫と合うか照合し、ジャスパーは中身を確かめた。
「確かに。……受け取ろう」
「いいのよ」
「ところで、薬の件だが」
「話はしてあるけど、いちおう本人たちと話してくれる?」
それなら私の店にと、再び馬車で移動する。
妹が病気で、薬を分けて欲しいとジャスパーがメキラとハイラに説明した。メキラの反応はすこぶる悪い。眉間に皺が刻まれてしまっている。
「……事情はわかった。その前にリリー。彼はアキラと同じぐらいに見えるが」
「そうねえ。それが?」
「子供に泥棒をやらせたのか」
「私がやらせたというなら、確かにそうね。金で依頼をしたんだから。でもねえ、メキラ。ジャスパーはもともと自分の意思で職業を選択して、暮らしてるの。それを私がどうこういう権利はないわ」
僕の知る、彼ら十二神将は、仏教の世界の守護者たちだ。犯罪者に薬師如来の薬をわたすというのは、戸惑いがあるのかもしれない。
「盗賊には薬は渡せないって?」
「職業として盗みをしているのが問題だ」
「親は働けねえし、妹は病気だ。生きていくには盗みをするしかない。あんたたち軍人か」
「まあ、そうだな」
「武芸があるだけいいじゃねえか。城では平民の、ガキを雇ってくれない。この女は嫌いだが、良い雇い主だ」
「まあ、この子の親の腕をぶった切ったのは私だけどね」
確かに。
城で働こうと思えば、それなりの家柄てせなければいけないんだろう。手に職がなければ、盗みくらいしか、金は手に入らないのかもしれない。
「この子の境遇はまあまあ不幸だけど、それを救ってやる義理はないのよ。頼まれていないのだから。それなら、私が薬を買い取ってジャスパーが買うということでどうかしら。ヤクシニョライ様とやらは、転売を禁止してる?」
「……」
メキラが黙っていると、いいよ、とハイラが立ち上がった。金もいらないとリリーに手を振った。
「盗賊なのは感心しないけどな、妹さんが今現在苦しんでるんだろう。それを助けてあげるのは、薬師様の御心に逆らうことにはならない。いいだろメキラ」
「……お前は甘いな。まあいいだろう。薬は分けてやろう。しかし、職業については考えた方がいい」
職人の弟子になるとか、危なくない仕事にしたらとハイラ。
「余計なお世話だよ。オレたちは今日死ぬか明日死ぬかの暮らしなんだ」
薬壺から、さらに小さい壺に小分けする。
「傷に塗ればたちまち治る。飲ませる時はぬるま湯に小さじ1でいい」
金色の小さい壺に入れられた不思議に輝く薬を見て、ジャスパーは二人に頭を下げた。
リリーからは少なくない金を受け取り、しばらくは穏やかに暮らせるだろう。
「ジャスパーは、シャルルロアの盗賊よ。この国の政治は私には関係ないこと。私は恋愛がしたいだけであって、世界を救いたいとか別に思ってない。隣国のことは隣国の人間に任せておけばいいのよ」
「リリー様、戦争を起こせば、ジャスパーのような不幸な子供が増えます」
「クラウスを助けられなかったら、私という不幸な女が増えるわ」
僕はふと、姉を女王として奪われたセティスのことを思い出した。
彼も、ダイアモンドナイトが女王を定める制度の犠牲者だ。
「シャルルロアが、女神の力を使って好き勝手しているのだから、女王を殺すか、国ごと滅亡させるか、女神を親元に返品するか。どの道を選んだって大変は大変なのよ」
「友達のことは考えないんですか。アルベルタや、エディ、ゾーラやアッキーはどうなるんですか」
「恋と友情を秤にかけたら、恋が大切に決まっているでしょう」
「……」
「アキラ。この期に及んで、誰も傷つかない方法があるなんて思ってないでしょうね」
二人とも止めなよ、とハイラが割って入った。
「誰も傷つけないようにというのは、ムズカシイかもしれないな。でも犠牲が少ない方法を考えよう。アキラ、リリー、今日はもう寝よう」
のんびり更新ですが、続きは書いておりますので、次回もお楽しみに!




