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【完結】へなちょこリリーの大戦争 ~暁の魔女と異界の絵師~  作者: 水樹みねあ
第9章 雪と氷と呪いの女王~ヴィルガー王国編
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第114話 氷解と満悦



 凍らされたことで、血が止まり、かろうじて生きている。痛い、しかし、声が出ない。

「しっかりしろ! 早く温めなくては」

「しかし氷が溶ければ血が」

 アイフィアは兵士を呼び、浴室へ運ばせた。


「……国王よ、ひとつ提案があります」

「メキラ、なんだ」

「我らの主、薬師如来様の薬を持っています。使えば、傷は治るだろう。だが、体温が低いままならどのみち死ぬ」

「だけど、アンタに使えば、病を治すことができる」

 とハイラ。

 なんだそんなこと、とアイフィアは笑った。

「カインに使おう。私のことは構わぬ」

「本当に、それでいいのか」

「構わない。彼を死なすわけにはいかぬ。……守るべき国がありながら、私のために死のうとした。そんなことは許されない」


 従者たちが風呂の用意をし、アイフィアは私の服を脱がせ、湯で濡らした布で氷を溶かした。すぐに傷口に、メキラが手渡した薬を塗った。

 たちまち傷がふさがったのが解る。

「メキラ、ハイラ。……私に気を使ってくれて、ありがとう。私には替わりがいるのだ、だから大丈夫」

「……」

「湯の温度を下げるな」

 全裸になったアイフィアが、私を抱えあげて一緒に浴槽に浸かる。



「……なあカイン。君を死なせやしない。目を覚ますんだ」


 起きたらご飯にしよう、君の好きなものも知らないから教えて。なんでもいいから、話をしよう。 




 君がいない世界は寂しい、どんなことでも構わないから。




 繰り返される囁きに、身を委ねる。全部聞こえているのを、アイフィアは解っているんじゃないのか。




「兄上」

 様子を見に来たのはレイフィアだ。水をどうぞ、と声がする。

「冷えないようにしませんと」

「ありがとう、次期国王にこんなことをさせてすまない」

「なにを……。フレイアは封じ込めたのでしょう。兄上はもう解放されたのです、喜びましょう」

「ああ。呪いは解けた。まだ生きていたいのでな、お前に王位を譲り、養生するとしよう」

「……兄上」

「カインは私の命を救ってくれた。もう怯えなくてよいのだ。こうして、カインを抱いていると、やっと本当に助かったのだと実感がわいてきた」

「兄上。兄上のお体が心配なのです。別の者に替わらせましょう」

「構うな。これはカインと出会った私の役目だ。……なに、湯あたりで死ぬことはないさ。黒百合の女神と、メキラたちに十分に食事と、寝室の用意をしてくれ」

 二人きりにしてくれと言われて、レイフィアは部屋を出たようだ。




「起きているんだろう?」

「……」

「カイン」

「……」

 傷の痛みは無いし、周りの声も聞こえている。答えたいのに、体が動かない。

 話したいのに。


「カイン。起きたらもっといいことをしてあげる」

 ぎゅっと抱かれて、お湯の中で温められている。これ以上にいいことってなんだ。


「……ふむ。体を動かす力が残ってないのか。……どれ」



 すると突然、湯の中に体を引き込まれた。

 息ができない!!


「カイン、起きないなら死んでしまうぞ」

「……がはッ!!」

 空気を求めてようやく体が動いてくれた。盛大に湯を吐き出すと、もう頭はハッキリしていた。

「……死ぬところだった」

「はは……っ! もう大丈夫だな」

 裸の腕に包まれ、抱き締められる。

 

「ありがとう」

「……」

「君が私のために飛び出したことで、黒百合の女神が怒ってくれた。ラトナも。君の怒りが神々を動かして、私を救ってくれた」

「……別の誰かに、取られたくなかった……」




 兄が死んだ時も、アイフィアがもう長くないと聞かされた時も、どうしようもない理不尽に怒ることしかできなかった。私は、私だって、好きな人といたい、それだけだ。

 平穏を望んではいけないの?

 どうすれば夢は叶うのかな。


 こんな結末は受け入れられない。


 もう、痛みに耐えるだけの日々はごめんだ。

 

「私を動かしたのは怒りだった。アイフィア、あなたのために戦うことを覚えた」

「カイン」

「今だけでいい。……褒めて」

「よくやった。カイン、君は子供から戦士になったんだ。よくやった」


 身勝手だった兄より数百倍優しい。

 今だけでいいから、認めて。

「君はたいした男だ」

「……お世辞でも嬉しい」

「お世辞じゃないさ。ああ、そうだ、君にはガツンと言ってやらないと。カイン。生きていたから良かったが、君には君の国がある。私のために死なれたら我が国とラウネル王国の戦になるところだった」

「……それは……」

「王としては許されないことだが……。それでも、君に救われたことを嬉しく思っている」

 向き合った彼は、少しも怒っていなかった。銀色の髪が雫で濡れている。

「いつか優しい女性と子を成して国を守る。それが我ら王様の仕事だ。いつ死んでもおかしくない王家に生まれ、命を繋ぐことを君に伝えるために、私は生まれたのだろう。君が生まれる前に、私は君のために生まれた。そして出会えた。こんなに喜ばしいことはないよ」


 胸の中に宝石が宿った。

 表面上の恋が叶わなくとも、この言葉だけで彼は永遠に私のものになった。


「カイン。今夜は共に」



やっと書きたかったシーンが書けました。

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