おにぎりの販売拡大計画が進んでるっす。
もふもふ天国シーパラ店のゴーレム馬車駐車場でホップボードにのって最高評議会に行く。
俺が毎日のようにホップボードを乗り回していれば、そのうちにホップボード類似品が出てきてくれると思っているのだが・・・魔法技術力の低いシーパラ連合国ではしばらくは無理そうだな。
道行く人の視線は自重と共に捨ててる。
街中のゴーレム馬車の時速10kmのは安全の為にユマキ商会が実施してる自主規制。
本音は最初の性能ではこれ以上の速度がどうやっても出なかったとジュンローに教えてもらった。
大きく作ることの出来るゴーレム船は高速船では30ノット以上の速度を安定して出力することが出来るようになったが、今のところ馬車サイズでは不可能だったらしい・・・早乙女式馬車の登場まで。
俺が昨日、ユマキ商会の工房で作った早乙女式馬車の登場で今後は劇的に進化していくだろうが、街中では時速10kmの自主規制は解除しないようにと、昨日の早乙女式馬車の製作中にユマキ商会の工房で働く全ての職人にお願いしてきた。
速度増加と共に交通事故が増えて怪我で済まなくなる可能性が高くなるだろう。
死亡事故が頻発すると販売するユマキ商会への風当たりは強くなるし下手すると損害賠償請求の裁判で面倒なことになると脅しておいた。
声に出して言わなかったけど・・・俺の本音は早乙女の名前がついた馬車で死亡事故が多発したら、流石にムカつくことになりそうだし、余計なトラブルを招くことが予想出来るからな。
その時にジュンローに聞いた話では・・・
ゴーレム馬車に自主規制速度の時速10kmがつけられるようになったのは、ゴーレム馬車が売れ始めの時に街中で『普通の馬車は速度が売りだ』と暴走行為をする馬車の業者が事故が多発させて死亡事故が増加した。
街に住む住民から糞公害排除の訴えと共にゴーレム馬車以外の街の乗り入れ禁止を訴える住民運動が起こり、結果として『ゴーレム馬車以外は街中の乗り入れ禁止にする条例』を都市の上層部は選択。
通常の馬が引くタイプの馬車を街中から追い出した歴史があるのだ。
シーパラ連合国すべての都市に飛び火して次々に住民運動が起こりゴーレム馬車以外の馬車は街中から追い出されていった。
ユマキ商会のその当時の代表はマツオ・・・上手く世論を誘導して成功した。
その結果、世界中で爆発的に売り上げを伸ばしユマキ商会はシーパラ連合国最大の企業となった。
そういった歴史を踏まえての速度自主規制なのでジュンローに言わせると自分達が追い出される側になるつもりはまったくない。
早乙女式馬車の街中専用車はこれから動力部の小型化と効率重視を目指して、パワーは今までのままで充分なのでより効率よく魔力を使えるように進化させていく。
トルクを上げる必要がある郊外の荷馬車専用車は大型化をしてから街中に乗り入れられないように差別化をはかり、それからパワーを上げるようにする計画だと言ってる。
元々ユマキ商会のゴーレム馬車の販売方法は・・・今ある現行の馬車にゴーレム動力部分を販売・取り付けをしていただけなので今後もメインはそちらになるが、早乙女式馬車は改造する部分が多く運転席も作成しないといけなくなるので『新車販売』にも力を入れていくことになった。
俺が昨日言っていた『数種類のパッケージにしてセット販売』が新車販売になる。
追加意見で俺が『新車でお買い上げのお客様に今持ってるゴーレム馬車を下取りで買い取るサービス』もした方が良いし、それを改造して中古で販売すれば? と提案したらジュンローはこれから検討させてもらうとメモしていた。
早乙女式動力の恩恵を最も受けそうなのはゴーレム船の方かもしれないが、こちらも今後は事故を減らすために自主的な速度規制に入ってくるだろうとジュンローは予測してる。
だけど船舶の場合はより大型化が可能になるし、物資の輸送に求められているのが『船舶の大型化』なので、そっちの研究が進んでいくだろうとジュンローは予測していた。
シーパラ連合国の場合はシーパラ大河もヨークル川も物資の輸送に使う川は横幅がかなりあるし、川の中央部分は高速船の専用レーンになってるのでまだマシと言えるだろう。
そんな自主規制は撤廃しないという言葉を貰っているのでとりあえず安心はしてる。
俺もヨークルの外周部ような場所以外の市街地で時速10km以上のスピードで走り回るつもりもないしな・・・あまりにも危険過ぎる。
危険をあらかじめ回避するという理由でホップボードも10kmしか出せないように作った。
今日は嫁たちもキャンピングバスではなくて、3人ともホップボードで移動してるとマリアとの念輪で報告があった。
荷物を運ぶ必要がないアイテムボックス持ちには最高の街中限定移動用の商品なのかもな。
実際乗ってると『移動が楽』と言うより『ちょっと楽しい』のだから移動手段というよりも・・・遊びながらの移動できる『おもちゃ』のような感覚に近いのかもしれんな。
そんなくだらない事を考えている間に商業ギルドのツインタワービルに到着した。
商業ギルドシーパラ本部は3つ以上の入り口がある。
俺が使うのが昨日も通った『最高評議会入り口』になる。昨日はゾリオンとグレゴリオという、シーパラ連合国を代表するシーズの当主2人が一緒にいたのでスムーズな受付だったが今日は無理だろう。
受付で自分のステータスカードを確認用に見せながら・・・今日来た用事は昨日の強制捜査の時に渡されていた『特別任命強制捜査執行官カード』の返却と今後の打ち合わせですが誰とも待ち合わせをしてないので誰に会いに行けばいいですか? と、正直に聞いたら受付嬢が横のソファーで少々お待ちくださいとササッと走っていってしまった。
取り残されてしまったので仕方なくソファーに座り待つことになった。
待つ事数分で昨日も俺を案内してくれた女性がやってきて最高評議会議員のイワノスの部屋に来て欲しいとの事だった。案内係の後について歩いていく。
こうしてゆっくり歩きながら周囲を眺めてると最高評議会の中は外から思っていたのとまったく違っていて、服装に統一感がない。
女性職員の場合はそれが顕著だ。
制服みたいな服装をみんなそれぞれ着用しているのだけど『企業の制服博覧会』を開催しているかのように全員がデザインが違う『制服らしき』服装を着用しているのだ。
最上階の展望レストランの従業員たちも白色で色だけは統一されているのだけど服のデザインがまったく違う。スカートだったりズボンだったり・・・ウェイトレスですらバラバラ。
俺は昨日の移動中に見ていたので今日は旅人の服の装備はやめて自分の好きな服を着てきた。
案内係の女性は・・・首にスカーフ・タイトな服装・頭に斜めにつけてある帽子で、まるで『CAさんですか?』って聞きたくなるようなデザインだが、よく見るとちょっと違うって感じで意味不明な服装だ。
しかも昨日着ていた服装ともちょっと違ってるのだ。
そもそも俺はCAの制服にそこまで詳しくないし、何がどう違うのかなんてまったく説明できないがな。
冒険者ギルドの女性職員は明らかに私服だったし、商業ギルドは旅人の服を制服にしてあるかのようでデザインは新旧様々あるって感じだが、旅人の服の色は白黒で統一されていた。
職人ギルドは短いエプロン・・・日本だと酒屋が制服にしてるような”前掛け”が制服(?)っぽくなっいたようだった。
女性はこんな感じなんだが男性職員はどこのギルドも私服になってる。全く統一感はない。
おかげで日本で生活してきた俺からすれば町中の服装が『カオス』としか表現の仕様がない。
シーパラの場合はまだ企業で働く商人達は『旅人の服』で工房で働く職人は作業服っぽいツナギの服。
と、それなりなジャンル分けがあるぐらいで統一感は欠片もないな。
シーパラの朝の出勤ラッシュのカラフルさはファンタジーってよりも南米っぽい雰囲気すらある。
冒険者がほとんど住んでいない区域だけだが。
イワノスが待つ部屋に到着して案内を終えた案内係が去っていき、案内係が見えなくなってやっと思考が現実に戻ってくる。
ノックして許可を得て開けて入ろうとしたら、秘書がドアを開けてくれたので部屋に入ってく。
イワノスと挨拶と握手をしてから薦められたソファーに座る。
「早乙女君、昨夜は今日の待ち合わせも何も決めないで先に戻ってしまって済まなかった。最高評議会の方の尋問の手伝いをしていてな、その後は提出する報告書の作成をしてるうちに俺も気付いたらそこのソファーで寝ていたよ」
「いえ、俺も気になってはいたのですが・・・今日の早朝の時点では確認をする術がなかったので改めて伺う事にしました」
「それで執行官のカードの返却と聞いてるがそれはすでに何の効力もないただのプレートになってるので、今後は最高評議会の出入用の身分証明ぐらいにしか使えないし、君以外には使用できないのでそのまま使ってくれ」
「わかりました。では貰っておきますね。それと確認なんですが・・・もう俺の仕事って終わりましたよね?」
「ああ、君にお願いした強制捜査も終わったし最高評議会の2つの証人喚問も終了しているよ。君が強制捜査で作ってくれた膨大な資料はこれから我々で精査して裁判をしていくことになる。しかも君が最後に作成して捜査責任者に渡してくれた目録は凄いな。捜査員たちも真偽官や司祭も目にした捜査関係者の全員が感心していた。今後は君が作った目録が資料を仕分けする際の基本的な形になりそうだ。誰でも一目瞭然ですぐに資料までたどり着けるのは・・・今までは誰も考えてなかった事だ」
「今回の場合はあまりに多くて探す時間が無駄になりそうだったんで作ったんですが、みんなに喜んでもらえて良かったですよ」
「それに君が枢機卿の事件や昇竜商会の膨大な数の事件が明るみになって、昨日から最高評議会の職員や人員不足が声高に叫ばれていてな、俺が以前から何度も訴えていた、事務員の補充と捜査員の補充などの予算が大幅に盛り込まれることになって、今後は迅速な対応が出来るようになりそうだ。国軍のマスカーも部隊ごと俺の専属になって最高評議会直属の別の組織を作って事件に対応出来るようになったことが今日決定しているんだ。今までは人員と予算不足でまともに捜査できなかった最高評議会がこれで生まれ変れるよ。早乙女君のおかげだな、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。でもイワノスさん、最高権力直属の実行部隊には暴走しないように食い止める安全装置も必要になってくると思うんですけど」
「それは俺とマスカーの今後の課題だな。むしろ最高評議会の議員すらも強制捜査できる実行部隊にしようと密かに計画を練っているところなんだが・・・その場合の安全装置がどうするかで悩んでいる」
「そういう場合は別の組織の『評議会』や『国軍』なんかが安全装置として働けるようにしないと組織が暴走すると革命になってしまいますよ」
「なるほどな・・・安全装置を別の組織に・・・暴走しないように監視させて組織の人事権を評議会の過半数で罷免出来るようにするとかも面白いな」
「後は国軍と評議会の2つの組織に、直属で同じような捜査権を持つ部隊があった方が良さそうな気がしますね」
「ふむふむ。確かにそれだと手分けして捜査することも可能になってくるな。それには評議会と国軍の中にいる人達と話をして意見交換して話のすり合わせをすることが必要だな」
「まぁそういうことで、後はよろしくお願いします」
「貴重な意見をありがとう。早乙女君のおかげでこの国は良い方に変化していくことになった。巨悪はまだ存在すると思うが、我々も組織を変化させて自分たちで対処・対応できるように生まれ変わっていくよ。でもちょっと忙しくなりそうでしばらくは君と試合が出来そうもないのが残念だ」
「俺は逃げませんし・・・じっくりとリハビリをして万全の体調になってから遊びましょう」
俺は立ち上がってイワノスと固く握手を交わしてから部屋を出て行く。
イワノスの部屋の外には案内係が待機していた。丁度マスカーをこの部屋に案内してきたところらしい。
『やぁ、早乙女執行官』
・・・マスカーが俺と握手をしながらの挨拶でした軽い冗談の一言が俺の呼び名のはじまりだった。
案内係が隣で聞いていて職場で話をして友人や家族に話してと俺の噂話と共に広がっていく。
ここから最高評議会関係者・シーズ関係者などから始まって俺の『救世主』『正義のヒーロー』『目利きのグルメ』『早乙女執行官』と言う名前が、俺が巻き起こした武勇伝と共に瞬く間に広がっていってしまった。悪気もない冗談のつもりだったマスカーや俺の2人は全く知る由もない・・・
俺は『それは昨日だけの終わった話だろ。それよりもイワノスさん直属の部下になるんだって?』とドアの前で数分ほどマスカーと雑談をしてまた握手をして別れる。
案内係さんが次に俺を案内してくれたのは最上階の展望レストランだった。
時間は夕方4時と中途半端な時間だったのでガラガラだ。
個室まで案内されたので入っていくが中には誰もいなかった。
マツオとゾリオンとグレゴリオの3人が後から来ると案内係さんは説明して去っていった。
今日はウェイトレスがやってきてメニューを渡してくれる。
俺は昨日の夕方から今日の早朝まで掛かった強制捜査で精神的に疲れていたんで、甘いものが食べたくなってたからデザートを見てる。
メニューを探すと『シナモンフレンチトースト』があった。
思わず注文してしまう。ドリンクはもちろん紅茶にした。
食べてみたがやはり日本で何度か食べたことがあるのと同じような味だ。
このイーデスハリスの世界には『フランス』って国は太古の昔から今まで存在したこともないのに・・・フレンチって名前から間違いなく転生者が伝えた食文化だろう。
味わって食べながらマリアとセバスチャンに念輪の回線を開き確認したら『バニラビーンズ』も『シナモンパウダー』もシーパラでは在り来たりで珍しくもない商品だったし、大森林でもタマに見かけるのがバニラの木とシナモンの木だった。
知らなかったな・・・聞いていたかもしれないので『忘れていた』かも知れんが。
今は食料品市場にいるマリアには購入してもらい大森林にいるセバスチャンには採取をお願いして念輪回線を閉じた。
首都シーパラってデザート系な食料品が数多く存在していて大量に集まってきているな。
そんなことをシナモンフレンチトーストを黙って食べていると、グレゴリオ・マツオ・ゾリオンの順番でみんなが続々と個室に入ってくる。
3人も昨日の疲れがあるのか冷凍フルーツなどのデザートをドリンクと一緒に注文している。
マッタリとした空気が流れる中で口を開いたのは先にデザートを食べ終わっていた俺だった。
「まずはみんなに御礼を言わないとな。昨日の強制捜査中におにぎりを差し入れてくれてありがとう」
「あれは早乙女さんが強制捜査に同行してるって聞いて、全員一致で晩ご飯代わりにおにぎりを差し入れすることを決めたんです。おにぎりの具なら昨日からの話し合いの前にはフォレストグリーン商会の倉庫にある全部の在庫量がすでに分かっていたので簡単でした」
「ああ、グレゴリオが言うとおり全員一致だったよ。うちのユマキ商会は余り手伝えなかったがアイテムボックス(大)を持つ職員がいたので配達で手伝わせてもらった」
「今回の事は事前準備も何もない状態だったんで『上手く言ったら儲けモノ』ってことになってしまった。何しろうちのおにぎりを握れる職人がゾリオン村で講習をしている最中で、昨日の時点では数人しかまだ手配できてなかったし、時間的な余裕もなかったので職員を総動員して職人からレッスンを受けながら見よう見まねで作らせたおにぎりになってしまったんだ。うちのガルディア商会だけが不安を抱えていたよ」
「ゾリオンさん、おにぎりの評判は最高だったよ。俺は現場の中にいて周りの食べてる人達の表情を隠れて伺いながら食べていたんだけど周囲の反応も表情も最高だった。しかも深夜の夜食で近所の弁当屋の弁当を食べたんだけど、みんなが美味しいと弁当を食べてる中でおにぎりを食べた連中だけは微妙な表情をしてた。口コミはこれで完璧だろう。宣伝することもなく後は勝手に噂が広まるよ」
「おにぎりの生みの親の早乙女君にそこまで言って貰うとうちの職員達は喜ぶと思う。是非伝えさせてもらう」
「それならついでに・・・今回の差し入れではうちのユマキ商会はほとんど何も手伝えていないとも言える。だからユマキ商会からガルディア商会の頑張った職員達に特別ボーナスを出してあげたい。1人5万Gでどうかな?」
「マツオさん、それは大変ありがたい。うちの職員達に伝えておくよ」
それからは商人3人の今後のおにぎり商売の話し合いが開始された。
誰がどれだけ出資してなどと具体的な話し合いが続いていく。
ここで決まったのは5日後を目標に早乙女商会のもふもふ天国シーパラ店の駐車場とガルディア商会シーパラ本部駐車場の2店舗を試験的に営業させると言うことだった。
鉄は熱いうちに打てという言葉もあるように、ある程度の見切り発車も仕方がないだろう。問題点は試験営業で明るみになってくるだろうし。
おにぎり販売案は俺の提案で行くことになった。
馬車で運ぶのは炊いたお米と具材にして、その場でお客の目の前で握って渡す。
時間は掛かるがアイテムボックス持ち以外は販売できないってのは避けた方がいい。
馬車内で米を炊ける様にしてあったほうがお米の香りで客を引きこみやすくなるだろう。
うなぎ屋方式の『煙は客に食わせろ』だな。
5日後に使用する馬車は俺がユマキ商会で昨日作った早乙女式馬車の3台のうちの2台を使うらしい。
内装はユマキ商会がすでに加工作業を開始している。
俺が昨日乗っていた8人乗りのイスを取り付けた1台はそのまま完成の見本として工房に置かれるようになった。
職員が運転の練習用に使うのが主な目的らしい。
それと結局、商業ギルドには早乙女式馬車は登録していないみたいだな。
元々ゴーレム馬車の登録義務はないからな。
俺が登録したのも自動運転できちゃうので『ゴーレム』として登録してあるんだし。
俺は経営の話に加わるつもりもないんで後は3人に任せてジュンローに早乙女工房のビルに行くことになった。
先に俺の使いやすいように改装してから、メイドゴーレムと防衛用にユーロンドがどれだけ必要なのか改装してみないとわからないし。
中で作業する職人ゴーレムでも作っちゃおうかと考えてる。




