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絶望の森のもふもふ製造工房  作者: 凪瀬夜霧
二章 黒き陰謀と魔神の影
37/48

33話 歓迎会とキナ臭い話

 アロイスに誘われて一階の酒場で歓迎会という名の飲み会となった。

 素材の料金はとりあえず半額を払って貰えて急に懐が潤い落ち着かない気持ちになっているが、それを見たアロイスが笑ってバンバン背中を叩いてくる。


「まぁ、とりあえず期待のルーキーに乾杯ってところか」


 エールの入った木製ジョッキを手にして掲げた彼に虎之助も応じる。生前は木製ジョッキなんて経験がなく、打ち合わせると少し鈍い音がした。

 流し込むエールは酒精が強く僅かに発泡している感じで舌がややピリッとする、久しぶりの感覚だ。とはいえ微炭酸。あっちで炭酸飲料を飲みまくっていた身としては物足りなく感じてしまう。


 そこに、店員がジュワジュワと美味しそうな音を立てた兎肉を皿に乗せてもってきた。


「はいよ、ホーンラビットの香草焼きだ!」


 肉を炭火でじっくりと焼いたような香ばしさに混じって爽やかな香りもする。香草焼きだから、ハーブの香りだろうか。表面は黄金の焼き色がついてジワジワ油がまだ弾けている。所々に少し焦げ目もあって、これがまた美味しそうだ。


「豪勢だなぁ!」

「さっき新鮮なのが大量に入ったからな」


 そう言った店員がニヤリと虎之助を見る。分かっているのだろう様子に軽く頭を下げると、彼は楽しそうに席を離れ次を持ってくる。

 パリッと表面の焼けた拳大のパンにキャベツのような野菜とベーコンの入った塩味のスープだ。


「けっこう豪勢だな」

「調理長がサービスしてるぜ、これ。いい肉が入ると気合いが入るんだ」

「もう少し肉を持ってくればよかったな」


 今回は何処ででも手に入る肉ということでホーンラビットばかりを持ってきたが、家には蛇系の肉もあるし、狼肉もある。ランクが高いほど肉質は柔らかく味に深みがあるように思うし、そういうのを持ってきても良かったか。


 何にしても楽しい食事となり、カウンターの一角は賑やかになる。アロイスと肩を並べて普通に会話する虎之助を他の冒険者は訝しげに見たり羨ましそうにしたりだ。


「うま! はぁ、いい肉食ってる感じがするなぁ」

「あぁ、美味い」

「……ぶっちゃけ、今まで食った肉で何が一番美味かった?」


 身を寄せてこそっと聞いてくるアロイスに虎之助は考える。湖の二枚貝をバターで焼いたものも美味しかったが……。


「アビサル・サーペントのワイン煮込み」


 真っ先に浮かんだのがこれだった。

 アビサル・サーペントを討伐した翌日、カフィが親の敵のように容赦なく仕込みをして作ってくれたのがこれだった。玉ねぎの甘みとコク、完璧に下処理されてホロホロになった肉の旨味は最高だった。


 だがこれにアロイスは涎を垂らしながら涙も流しそうな顔をしていた。


「食いてぇ。でも、食う前に食われる現実が見えるぅ!」

「死ぬかと思ったからな」


 もう一度戦うかと問われると避けたいのが本音だ。用事も無いのに狩るような魔物ではない。が。


「まだ家にあるぞ」

「マジか! 食わせてくれ!」

「俺の家まで来るつもりか?」


 勢い込んで言ってくるが、アロイスは虎之助の家が何処にあるか知っているはず。問うと、何故か真剣に悩まれた。


「それなぁ。考えてるんだよな」

「?」


 豪快に兎肉にフォークを刺してむしゃむしゃ食べながら、アロイスは難しい顔をする。首を傾げると、何となく苦笑いを彼は浮かべた。


「お前みたいな規格外が現れて、こりゃぁ俺もうかうかしてらんねぇぞ! って尻を蹴飛ばされた気分なんだ。Aランクになって少しいい気になってたかもな。上がいるぞって現実突きつけられた気分なんだよ」

「アロイスは強いだろ?」

「当たり前だ。高ランク冒険者なめんな」


 そう言った後で、彼はカタンとフォークを置く。そして虎之助を真剣な目で見て。


「お前の所で武者修行をしたいって気持ちが今はでかい」

「俺の所で?」


 それは……ある程度は可能だろう。一緒に来るなら頼もしいし、家に人を泊める場所はある。事前にカフィに連絡をしておけば大丈夫だろうが……。


「けっこう、しんどいぞ」

「分かってるつもりだ。それに、お前が居てこそ「今だ!」って思えるんだろうよ。一人であの森の奥に入っていく根性は流石に簡単にはつかん」


 悔しそうではあるが正直な所を吐露していくアロイスは好感が持てる。裏表がないのは虎之助にとって助かるのだ。


「俺としては家人に了承が取れれば構わない」

「家人?」

「屋敷妖精がいて、家の一切を取り仕切っている。彼の許可が下りなければ俺もいいとは言えない」


 伝えると、アロイスはまたギョッとした目を向けてきた。


「屋敷妖精とは、またレアだな。古い家に棲みつく奴等だ。しかもそれが家の一切を取り仕切ってるって……普通は家人の失せ物を見つけたり、知らない間にちょっと仕事を手伝ったりだぜ?」

「三食の用意に部屋の掃除、風呂の準備に洗濯、庭の手入れまでしている」

「そこから規格外だったのか」


 疲れたのか椅子にだらっと体を預けた彼は、だがゆっくりと笑い出す。見ていると、彼はガバッと起き上がって豪快にエールを煽った。


「ここまで来るともう笑い話か。知らない世界過ぎて楽しくなるな」

「そうか?」

「これでも冒険したはずだが、その気になってただけだな。一線越えてみるのも面白そうだ」


 飲み干したエールを再度注文し、並々と入ったそれを虎之助に向けてくる。それに、虎之助も笑って応じた。


「師匠って呼べばいいか?」

「よせよ、柄じゃない。普通に呼べ」

「んじゃ、トラ。よろしくな」


 互いに笑って料理を口にして、虎之助はアロイスの武勇伝を聞く。やはり異世界は面白いなと思いながら脳内でその旅を想像してしまう。

 スローライフも好きだし、目標は可愛いカフェだ。だがその間に少し冒険するのも悪くない。そんな事を思うのだった。


◇◆◇


 そのまま大いに飲んで、気づけばアロイスは潰れた。困りながらもこいつの宿泊先なんて知らなくて、仕方が無くギルドの部屋に連れてきた。


 部屋は簡素だが、冒険者を相手にしているだけあって頑丈だ。ベッドも木製で簡素だが大きくできているし、ソファーもある。そこにアロイスを投げるようにして乗せた。


「乱暴だぞぉぉ」

「えせ酔っ払いだろ? ちゃんと痛くないように調整してたしな」


 そう言いながら水を出してやると、先程までのグダグダが嘘のように上半身を起こして水を流し込む。虎之助もなんとなく感じていたから、驚きはしなかった。

 おそらく、あの場ではできない話があるんだろう。


「それで? 俺に何か伝えたいのか?」

「王弟についてだ。お前、疎そうだからな。だが、大っぴらにはできない。あんな場所でも何処に耳目があるか分かんねぇからよ」


 そう、重苦しい声で言ったアロイスを見て虎之助も水を飲み込み、隣に座った。


「悪いな、気を遣わせて」

「いや。一つ確認したいんだが、黄昏の魔女は今どうしてる?」

「……死んだ」


 重く答えると、アロイスは驚きはしたがグッと言葉を飲み込み、水を飲み込んで息を吐き出した。一緒に、色んなものを飲み込んだのが察せられる。


「やばいな」

「話してくれ」

「……まず、今の王様は割と民の声も拾ってくれるいい人だ。で、この王様には王子が一人、王女が一人居る。王妃は何年か前に亡くなって、側室はない」


 端的に伝えられた情報を飲み込んで頷く。同時に、何処の世界もいい人には敵が多いなと溜息が出た。世の中、ずる賢い奴が得をするのかもしれない。


「今、王女は呪いにかけられているって噂が巷にもある」


 重いアロイスの言葉に、ふと虎之助はひっかかった。リーベの日記に最後に書いてあった内容をふと思い出したのだ。


 ――聖女の残した娘に呪いの兆しがあると知らせが入った。


「聖女の娘に呪いの兆しがある」

「なんだ、知ってんのか?」

「いや、リーベが日記に書き残していた。詳しくは何も知らない。戻らない事で不審に思い、日記を改めたんだ。これが、最後の書き込みだったから」


 だが、その子を助ける為に家を出てリーベは死んだのだ。

 途端にキナ臭いものになってくる。リーベの死すら、本当に偶然だったのか? 突然ドラゴンがピンポイントで襲ってくるのか?

 ゾクリと背が震えると同時に怒りがわき上がってくる。どうしようもなく漏れる怒気にアロイスはギョッとして、虎之助の肩を強めに叩いた。


「なんだ、どうした!」

「……リーベが亡くなったのは半年くらい前だ。王都に向かっていたらしい。その前に立ち寄った岩場でドラゴンに襲われて死んだんだ」

「……半年前といえば、王女が倒れた頃だ。今も食が細くなってどんどん状況は悪化していると噂がある」

「誰かが、意図的にリーベを襲撃したなら」


 その何者かは今もまだ生きている。そしておそらく、王弟派にいるだろう。

 カフィの悲しみの声が不意に蘇る。ひょんな事から出会ったが、お世話にもなっているし、忠誠心が強く寂しがり屋な奴だ。そんなカフィの大切な人が、そんな事で死んだとすれば……到底許せはしない。


「……それが可能かは俺には分からねぇ。ただ、王女が伏せった事で城の様子は変わった。王女を救うのに薬も魔法も術者も駆り出されたがダメだ。黄昏の魔女に頼ろうという声も出てるって話だが、あの森を攻略できる奴がいなくて王都はバタバタだ」

「リーベはもういない」

「だからだろうな、王弟派が余裕そうなのは。王も意気消沈でな。王子が頑張っちゃいるし、古い重臣は王について国の安定に尽力しちゃいるが、これで王子や王に何かあれば一気に傾くぞ」


 水を飲みながら話すには重いものだ。

 だが、人の世界に出るなら知らなければならないし、関わってくる。その国の上がどうなってくるかによって下にいる者の行く末も変わるんだ。

 昔、親父に言われた事がある。「組の頭はどんなに腹が立っても冷静であれ。お前の腹の虫に下の奴等の命を使うな」と。

 正しいんだろうな。そう、納得したものだ。


「その王弟派がクソ偉そうな貴族と一部の豪商だ。ってなことで、好き放題やってる。前に王都でAランクのパーティが、貴族の横暴で解体した事もあった」

「どうしてそんな」

「パーティの神官が綺麗な子でよ。無理矢理連れて行ったあげく、返せと迫った奴等を暗殺ギルド使って闇討ちした。リーダーは再起不能。他も大怪我して、それを知った神官の子は自分を責めて自害した」

「っ! クソだな」


 思わず歯を食いしばる。そんな事が許されるクソみたいな世界なのか。

 世が乱れてる。だからその中で横暴をする奴も出る。色んなものが狂いだしていくんだ。

 それを、傍観する立場には立ちたくないなと、虎之助は思うのだった。


「まぁ、そんな事もあって爺さんはお前に忠告したってわけ。その魔道具じゃなくても、お前くらい強くて見目がいいと目立つしな。巻き込まれるなよ」

「そうしたいが……」


 果たしてそれでいいのか。リーベの死に疑問が湧いた今、ここを晴らしたいという気持ちも多少ある。

 悩みが産まれる、そこにクリームがポンポンと頭を撫でた。


「まぁ、巻き込まれるんじゃないか主は」

「クリーム?」

「何せ、既に色々と巻き込まれているのだ。運命という理不尽なものが、主にはつきまとっているように俺は思うぞ」

「嬉しくねぇ」


 思わず唸るとアロイスとクリームが笑う。

 だが……そうだな。ネオが虎之助を選んでこの世界に落としたのだ。その時既に運命や因縁は付いてまわるようになっているだろう。

 まぁ、積極的にとは言わないけれどな。


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