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騎士に成りて王国を救う。  作者: いこいにおいで
ガルガンディア要塞攻略戦
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敵は魔族

投降が遅めになってしまいすみません。

 一週間の時を待ったセリーヌ率いる本隊は、日が昇ると同時に招かれるように開かれた門からガルガンディア要塞へと突入をかけた。

 セリーヌは本陣にて士気をとり、現場ではトリスタント率いる突入部隊がガルガンディア要塞を攻略していた。

 本隊を温存した状態で戦いに赴いていたのは、セリーヌにとって唯一の褒めるべきどころだろう。


 しかし、あとは最悪の結果が待っていた。

 

 突入したトリスタントの部隊は、最初こそ順調にガルガンディア要塞を侵略していたが、意志を持たぬゴブリンやオークの兵に苦戦を強いられる。

 普段であれば、問題にならない敵が、攻撃を受けようと体の一部を破損しようと武器を持てる限り向かってくるのだ。

 痛みを感じている様子もなく。まるでゾンビのような光景に侵攻していたトリスタント軍も後退を余儀なくされる。

 しかし、後退しようとした矢先、どこから現れたかわからない一体のアラクネによって、兵士が操られ始めた。

 同士討ちのように退路も断たれ、トリスタント軍は瓦解した。


「トリスタント軍崩壊。トリスタント様の行方知れず」


 伝令によってもたらされた内容にセリーヌは我が耳を疑った。

作戦は順調の一言だった。内通者によって門が開かれ、侵攻は順調だった。

 ガルガンディア要塞内で何が行われているのか、セリーヌにはわからない。

しかし、現場指揮官であるトリスタントが使えないとあれば、自らが動かなければならない。

 セリーヌは立ち上がり、立てかけていた槍を手に取る。


「お待ちください。我が将よ」

「サク、今は私が動かなければならないときです」

「私はあなたの軍師です。あなたの不利益になることはさせられません」

「サク、あなたは策を考えるためにここにいます。もちろん私の不利益を正すのも仕事でしょう。しかし、現場では臨機応変な対応が求められる。それを決めるのは指揮官である私です」


 セリーヌは、真っ赤な鎧に身を包み。立てかけてあったランス状の槍を持ち、白馬に乗って戦場へと駆けていく。


「誰かいますか?」


 セリーヌの後ろ姿を見つめ、サクは最悪の事態を考え、自分にできる策を実行にうつすため一手さした。


「ヨハン殿に連絡を、至急ガルガンディア要塞へ救援を求められたりと……」


 サクが呼んだ影は返事も返さずに、そのまま姿を消す。

彼女が誰であるか、それを知っているのはサクだけだ。


「セリーヌ様、あなたは良き方かもしれない。大抵の相手ならば、あなたが相手では負けてしまうでしょう。ですが……」


 サクはその続きを言葉にすることはない。

それよりも戦場へ赴いた我が主君の安全を確保するため、指揮を飛ばす。


「セリーヌ様を殺させてはなりません。全兵力でセリーヌ様をサポートしなさい」


 サクの激と供に、戦場はガルガンディア要塞内へと移行していく。


 白馬に乗って駆けるセリーヌは、ガルガンディア要塞に近づくにつれて、違和感に気付き始める。


「どうなっているの?」


 セリーヌが辿りついた戦場では、味方同士が武器を交え同士討ちをしているのだ。

誰が敵で、誰が味方か、わからない状況でどうすればいいのかセリーヌは状況を図りかねる。


「トリスタントは?トリスタントはどこにいるの?」


 状況を掴めないことに、現場指揮官であるトリスタントの名を叫ぶ。

すると、トリスタントらしき青色の鎧に身を包んだ女性が、長剣を構えこちらに向かってくる。

 セリーヌは槍で長剣を受け止め、トリスタントらしき影を弾き飛ばす。


「トリスタントですの?」


 セリーヌの呼びかけにトリスタントは答えない。

弾き飛ばしたことで、肩の鎧は弾き跳び、口からは血が流れている。

 それでも血を拭こうともせずに、長剣を構えて向かってくるのだ。


「くっ!正気に戻りなさい」


 セリーヌは先程よりも強い攻撃でトリスタントを弾き飛ばす。痛みによって正気が戻るものだと判断したのだ。

 しかし、右腕が変な方向に折れ曲がっているのにもかかわらず、トリスタントは片手で長剣を持ちまだ向かって来ようとしている。


「こんな異常な事態は想定していません!たっ退却です。正気の保っている者は退却しなさい!」


 セリーヌは自身の手には負えないと判断して、退却を指示する。

しかし、すでにセリーヌを囲むように正気を失った兵達が退路を塞いでいた。


「くっ!」

「派手な鎧だね」


 セリーヌが数名の正気を保つ者と集まっていると、戦場には似つかわしくない気怠そうな女性の声が響く。


「キサマは!魔族化か?」

「まぁ人間はそう呼んでいるようだね。だけど、本当の意志に目覚めた者と呼んでほしいけどね」


 魔族化の情報はセリーヌも聞いている。セリーヌが聞いていたのはゴブリンやオークなどの下級兵士が魔族化により、理性を失い暴走することだと思っていた。

 しかし、目の前にいるアラクネは魔族化していることを自ら宣言し、尚且つ圧倒的な存在感を放っているのだ。こんな魔族化があるなど聞いていない。


「あんたらは全部あたしの餌なんだ。このガルガンディア要塞に入ったときからね」


 アラクネが指を鳴らすと今まで見えなかった糸が姿を現し、セリーヌ以外の人間を締め付ける。

まるで操り人形のように手を足をバタつかせたと思ったら動かなくなった。


「餌に逃げられたら困るからね。でも、餌は新鮮な方が美味しいからね。死なせはしないよ」


 どうやら、動かなくなった者も、正気も失った者も死んではいないらしい。


「はっ!アラクネ如きが私に勝てると思っているのか」


 セリーヌは相手の正体が分かり、先程までの不気味さはなくなっていた。

アラクネは糸によって死者を操れると聞いたことがある。

 死んではいないが、どうにかして意識を奪うことで自由に操れるようにしているのだ。


「威勢のいい小娘だね。でも、嫌いじゃないよ」


 アラクネは本当に楽しそうにセリーヌを見つめる。


「私を小娘と呼んでくれて、どうもありがとう。では、改めて名乗らせていただく。私はミリューゼ様の羽、その一翼を担う者。爆炎のセリーヌ、推して参る」


 セリーヌが名乗りを上げるとセリーヌの体の周りに鎧よりも赤い炎が吹き上がる。

槍を地面に突き立てると炎は爆発して地面から炎を噴き上げた。


「いいねぇ~今までの奴とは違うようだ」


 爆炎は白馬に乗るセリーヌを包み込む、連鎖するようにガルガンディア要塞を火の海に変える。


「アラクネの糸であろうと、我が爆炎を持って灰と変えてくれる」

「できるものならやってみな」


 アラクネは兵士を盾にして、セリーヌに相対する。

にらみ合うように構えたセリーヌは一言言葉を発する。


「ごめんなさい」


 それは謝罪の言葉であり、誰に向けた者かすぐに理解したアラクネは次の一手を打った。

しかし、セリーヌの愛馬の方が速かった。


 セリーヌは爆炎を纏って兵士の一団に突入し、炎の槍となってアラクネに迫った。


「アタシをやれると思うんじゃないよ」


 兵士を蹴散らしたセリーヌの槍がアラクネに迫る瞬間アラクネは何もない空中へと昇って行く。


「地上を這うことしかできない弱者が、力の使い方を教えてやるよ」


 アラクネはゴブリンやオークなどの兵士を砦内から飛び下りさせる。数でセリーヌを圧倒するしたのだ。

セリーヌも炎を噴き上げるが、全てを消し炭に変えることはできなかった。


「私が負けるのか!」


 セリーヌは力を使い果たそうとしていた……


「セリーヌ様!!!」


いつも読んで頂きありがとうございます。

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