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ヨハンの政策

 ランス王国から遠く離れた帝国領の東側に、フィッシャーアイランドを中心とした小国家群が生まれつつある。ヨハンは王国から反逆者という烙印を押されたことで、ある一つの決意をした。


「俺は裏方になる」


 その宣言は近しい者達の前で行われ、ヨハン・ガルガンディアは表舞台に出ることをやめた。しかし、ヨハンの軌跡は様々なところで残されることになる。

 その一つとして、ランス王国が自国の修復に手をこまねいている間に、帝国内を中心にヨハンは開拓を進めて行った。元々帝国は他種族を分け隔てなく登用し、種族にあった生活環境を整えていた。それを引き継ぐ形で、帝国内にそれぞれの種族の国を立ち上げて行ったのだ。


「死霊王のオッサンも派手にやってるな」


 その一つとして死霊王が自国に戻り、自身が王である夜の眷属を従え、国を立ちあげた。夜の眷属はヴァンパイアやサキュバス、レイスなどのアンデット系の種族たちだ。

 報告を受けたヨハンは、嬉しそうな顔で笑っていた。現在、ヨハンは旅装束に身を包み、リンと共にダルダの背に乗って空の旅の真っ最中である。報告書のほとんどは、ヨハンの事を察知できるドラゴン族の者達が届けてくれている。


「帝国も大分落ち着いてきたな」

「ヨハン、楽しそうね」


 リンは二人きりということもあり、気軽にヨハンと呼んでいる。二人にはすでに肩書はないのだ。ただのヨハンであり、ただのリンでしかない。


「ああ、楽しいね。なんのしがらみもなく、人々が幸せになっていくんだ。見ていてこれほど嬉しいことはないだろ?」

「ええ、そうね。私もヨハンと一緒に旅行が楽しめて嬉しいもの」


 ヨハンとリンは、様々な土地に行き開拓の手伝いをしたり、新たな知恵を授けている。当初フリードやシェーラも付き従うといったが、リンの強い要望で二人きりで行くことになった。

 またシェーラには、シーラの後を継ぎエルフの長となってもらうことが決まっている。これはシーラの指名なので逆らうことはできないだろう。

 シェーラの家族たちをセリーヌ砦の領主にしたのは正解だった。シェリルが王女になったことで、セリーヌ砦を含めた森がエルフ管轄となったのだ。

 ガルガンディアに近い場所がヨハンの息のかかったものになってくれたので、ガルガンディアに残った人々は苦労せずに済む。

 ゴブリンが増えすぎて、ゴブリンキングのボスに従わない者たちが出てきていたので、それもランス王国が駆除してくれて助かった。ゴブリンは以上に数が増えていくので処理にも困っていた。


「案外ランス王国は役に立つかもな」

「そうなのですか?」

「どうやら、予想通りトップに立ったのはミリューゼ王女で、その脇をセリーヌ宰相とカンナ将軍、あと教会の聖女アクアが固めているようだしな。結局六羽が王に取って変わっただけだ」


 ヨハンは六羽のことを思い出し、怖い相手はいないと思った。以外に常識人である王女様、ヨハンのことを敵視しているが優等生なセリーヌとマルゲリータ、己を鍛えることに全てを捧げているカンナ、王女に忠誠を誓ったメイドと忍び、最後に一番気になるのはまだ性格がわからない聖女様ってところか。


「あいつらは結束が固いようで、互いのことをけん制し合うからな。統治者としては最悪だが、まぁ国としてはなんとかなるだろ」


 ヨハンの評価は低いが、元々宰相の子や、将軍の子がそのまま席に座っただけなのだ。責務を全うするだけならば問題ないぐらいにヨハンは考えている。


「何より、触らぬ神に祟りなしってね。向こうが落ち着いて、共和国や帝国に手を伸ばしてくるのは、あと三年はかかるだろうしな」


 ヨハンの予想は見事に的中することになる。王国は自国の整備に約四年の歳月をかけた。それは先ほどヨハンが話した六羽たちが地盤を作る時間であり、また他国にかけるための準備を行う時間であった。


「俺はそれまでに各種族が独り立ちして、またそれぞれが同盟関係になれるように動き続けるだけさ」

「それの方が難しくないですか?天帝は自身の強さと恐怖ですべてを従えていました。でも、ヨハンのやり方ではみんなバラバラになるのでは?」


 リンの心配はもっともである。それぞれの独り立ちできるのであれば、元々考え方の違う種族同士なのだ。力を貸そうとは思わないだろう。


「そこはほら?みんな顔合わせを繰り返すしかないかな?」


 ヨハンが行ったもう一つ政策が結びつきであった。確かに各種族は独立する。しかし、それのぞれの種族が孤立しないように商売や資源、技術や学術など、交流の場を持たせることを推奨している。

 例えばドワーフが作った武器やエルフがとる山や森の幸をフィッシャーアイランドで売りさばき、逆にエルフやドワーフたちの下へ魚を売りに行くなど、簡単な商いを行うなどだ。

 

 食事をとらない種族や人食いの種族などもいるので、誤解が生まれないように交流の仕方として学校を作った。

 どんな種族でも通える学校、そこで講師として教鞭を振るうのも様々な種族の者たちだ。そうすることで他種族のことを知らない者たちも、他の種族を知り、知ることで交流を持ったり友人になったりできる。

 現在立ち上げ一年目で何かともめ事が多いが、そういうときはヨハンが間に入ることになっている。ヨハンに現在の肩書をつけるならば、他種族交流学園理事となる。

 まぁこんな堅苦しい肩書はヨハン自身が投げ捨てているが、フリードや諜報部隊の人間がヨハンの考えに賛同して、ヨハンに報告してくれるようになっているのだ。後々は彼ら生徒たちが教師となり、学校を増やしてそれぞれの所属や仕事にあった学校も作りたいと思っている。


「すべての種族が仲良くするのは無理かもしれないけど、できるならば仲良くしてほしいと思うのさ」

「理想は大きくね」

「そうだ。夢はデッカク、やることは細やかに」

「ふふふ、ヨハンらしいわ。でも、体を大切にしてね。逆にあなたがみんなを繋いでいる存在なんだから」


 そうなのだ。今のところ、ヨハンが言うならと納得してくれいる。だからこそ、今は元気でいていつかヨハンがいなくなってもいいようにしなければならない。


「わかってるよ。そろそろご飯にしよ」

「ええ、今日は魚介のスープがいいわ」


 料理はヨハンの担当であり、リンは最近魚を使った料理にハマっているらしい。二人の平和に繋がる旅はまだまだ始まったばかりだ。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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