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水の亜種族

大橋を渡るヨハンたち第三軍は、順調に行軍を行っていた。渡るのに三日はかかるといわれている大橋は、横に三十人ほど並んでも問題なく行軍できるほど幅も広く、土台もしっかりしている。


「先人の技術は凄いもんだな」


 大橋で休憩をしている際に、ヨハンは橋の構造を想像して感心するばかりだった。巨大な運河を渡るために作られた唯一の大橋は、数千年前に作られたと言われている。

 ランスたちも、この大橋を渡って帝国内に入ったことだろう。


「アイツの後を追うことになるとはな」


 ヨハンはランスのことを考え、休憩中の食事を楽しでいた。


「敵襲!!!」


 気を抜いていた王国兵達に緊張が走る。帝国兵は防備に当たってるとばかり思っていたため、油断していた。


「どこだ?」


 ヨハンは敵襲の声に辺りを見るが、敵らしい姿はどこにもない。


「河です!」


 敵襲を告げた兵士が河を指差す。ヨハンたちは手すりから運河を見下ろせば、河の中を跳ねるような影がいくつも見えた。


「あれが敵か?」

「あれは!フィッシャー族です」


 フィッシャー族はいわゆる魚人だ。姿形は様々だが、共通しているのは水の中でも陸でも生活ができると言うことだ。


「来るぞ」


 高い波が生まれると、同時にフィッシャー族たちが大橋へと上がってくる。


「キシャシャシャ。我はフィッシャー族の特攻隊長シャーク・ザ・フロール」


 上半身鮫の姿をした半漁人が、銛を持ってヨハンたちの前に降り立つ。それに続くように次々とフィッシャー族が王国兵に襲いかかった。


「キシャシャ、この場所で我々に勝てると思うなよ」


 シャーク・ザ・フロールと名乗った半漁人は自分達の負けることなど想像していないのだろう。そんな姿にヨハンは可笑しくなってしまう。


「クククハハハハ」


 ヨハンはシャーク・ザ・フロールを見てただ笑う。それは腹を抱えバカにするように笑うのだ。


「キシャ、何が面白い?頭でもおかしくなったのか?」

「これが笑わずにいられるか?確かにお前達の登場には驚いた。驚いたが、どうしてお前達は橋の上にいる?」

「血迷ったか、貴様たちを葬るために決まっているだろう」

「そうか、なら俺が笑っているのは変じゃないな。どうしてお前は有利な水の中で戦わない?どうして態々陸に上がってきた?何かの策か?」


 ヨハンはバカにするようにシャークに問いかける。


「何を言っている貴様は?」


 シャークはヨハンの態度を不気味に思い、どうして問われているのかわからず問いかける。


「お前はなんて言われてここに来たんだ?」

「何を?」

「バカな王国兵がやって来るからフィッシャー族で倒せとでも言われたか?」

「なっ!」

「バカはお前だ」


 ヨハンが手を上げれば、運河から飛んでくるフィッシャー族が王国兵によって返り討ちに合っていく。 


「ここにいるのは王国の中でも精鋭揃いだ。ゴブリン族、オーク族にはそれぞれキングが生まれ、統率は最高潮に達している。さらにエルフ、コボルト、オークたちも精霊王の誕生により、力が漲っていることだろう。お前達は手を出すべきじゃなかった」


 ヨハンの言葉を実現するように、各部隊はほとんど無傷でフィッシャー族を返り討ちにしていく。


「バッバカにするな。我々にだって海王様がいるのだ」

「河に海王か?」


 ヨハンが小馬鹿にすると、巨大イカが橋に手をかける。


「我こそ海王クラーケンである」


 河に巨大イカは驚きだが、ヨハンは口角を上げる。


「今日はイカ料理だな」


 シャークは何が起きているのかわからなかった。ヨハンが何かを言ったと思った瞬間、ヨハンの姿がかき消える。次にヨハンの姿が現れたのは、海王クラーケンの頭上だった。


「お前は海王と名乗るには弱すぎる。イカズチ」


 ヨハンは雷属性の魔法を海王めがけて全力で放つ。海王クラーケンは何が起きたのか理解する前に意識を失った。


「お前をフィッシャー族の使者として伝える。降服しろ」


 もう一度シャークの前に現れたヨハンは冷徹な言葉でシャークに告げる。


「キシャ……クラーケン様があんな簡単に……」


 唖然とするばかりのシャークにヨハンは一歩近づく。


「わっ、わかった。降服する。おい、法螺を吹け」


 シャークは近くにいた部下に命じて法螺を吹かせる。法螺はフィッシャー族への合図であり、降服を知らせることもできる。


「これでいいんだろ?」

「まぁいいだろ」


 戦闘をやめたフィッシャー族を見て、ヨハンも攻撃をやめさせる。


「なぁ、聞きたいことがある」

「なっなんだ」


 シャークはヨハンを恐れるように、言葉を返すが力はない。


「お前達はこれで全部か?」

「……いや、運河と海の間に島がある。そこに俺達の国がある」

「そうか、なら俺達が帝国に勝った暁にはお前達の自治を認める。だから、俺達が帝国と戦うのに協力しないか?」

「お前は俺達を殺さないのか?」

「俺はお前達を敵だと思ってない。同じ人間だろ?理解しあえると思ってる」

「同じ人間?」


 シャークは不思議そうな顔でヨハンを見る。


「俺とお前はこんなにも違うのにか?」

 

 シャークは自身の顔とヨハンの顔を指差す。


「何が違う?同じように手足があって、こうやって言葉を話しているだろ?何も違わないさ」

「キシャシャシャ、お前は本当に変わり者だな」


 シャークはヨハンの物言いに、初めて普通の笑顔を見せた。


「よく言われるよ」


 ヨハンはシャークに手を差し出し、シャークもそれを素直に受けた。ヨハンとフィッシャー族の同盟が成立した瞬間だった。


「命拾いしたな」


 ヨハンはシャークの耳元で囁く。シャークはヨハンに導かれるように空を見る。そこにはドラゴンの群れがフィッシャー族を狙っていた。


「ドラゴン……」


 シャークは心の底から助かったと思った。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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