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四十九話め.ねえ、何してるの?








「ねえ、何してるの?」


 その言葉は後ろから。

 振り向いた先に、白いワンピースを着た少女が居た。

 少女にしては無愛想な印象を受けるその少女はショートカットで。

 無愛想な割りに少女の瞳は優しく、俺を見つめる。

 何処か見覚えがあるような少女。


 こんなわけの解らない所に子供が居るとは思わず少し驚く。


「な、何やってんだ? こんなところで?」

 つい質問を質問で返してしまう。

 座っている俺の、一つ下の段に俺と横並びになるように少女はすとんっと座り込む。


「だから貴方こそ何してるの?」

 もう一度同じ台詞。

 酷く無機質な声。

 子供ならもうちょっと子供らしくしろよ、と少し思う。


「知らねーよ、気づいたらココに居たんだからよ、嬢ちゃんはココが何なのか知ってんのか?」


 俺の言葉に少女は答えずに移り変わる景色を眺めている。

 わーお無視か。

 別に怒るつもりは無いが何か見に覚えのある雰囲気に……こう……ムカつく。

 少女は、俺とアゲハばかりが映る世界をどこか嬉しそうに見つめていた。

 そんな風に見つめているのを見れば、俺だって邪魔したいなんて思わない。

 何も言わない少女に合わせるように俺も景色を見つめる。

 二人して無言で暫く映像を見つめる。


 先に口を開いたのは少女。


「仲……いいね」

 その言葉に俺はその場で鼻で笑って見せる。


「あのなぁ、何処見たらそう見えるんだよ? 嬢ちゃんは知らないかもしれないけどさァ。この女酷いんだよ? 俺の最高に面白いボケでも笑わない奴なんだよ? しかも血も涙も無い無感情の幽霊気取りの電波娘、本当ムカつく奴なんだわ」

 俺の言葉に少女の視線は俺の方を向く。

 何故だろう、睨まれている気がする。


「……貴方はこの人が嫌いだったの?」


 その言葉に俺は少し詰まってしまう。

 何も言わずに視線を外す。

 暫くの俺の無言に、少女は考える素振りの後に言い直す。


「貴方はこの人が好きなの?」


 その言葉に俺は「はぁ!?」と大きな声を出して少女を見てしまう。

 しまった。焦っている様に見られてしまうようなリアクションをしてしまった。


「違う違う違う違う!」

 少女の前で手をブンブンと振る。

 そんなわけが無いと否定するように。

 何をこんな小娘に焦っているのか俺は。


「違うの?」

 少女は無機質にそう言う。

 その無機質さとは裏腹に、目はしっかりと俺を見る。

 少女の円つぶらな瞳は真っ直ぐと俺を見据える。

 その瞳に気圧されるように俺は固まった。

 じっと見つめる少女の瞳。

 見透かされるようなその目に、俺はため息を一つ零してボソボソと零す。


「……しらねーよ、好きなんて気持ち三才の時が最初で最後だっての、好きって感情とか全然わっかんねーよ」

 感情の上下が激しいと言われる俺は。笑わせたり、人の感情を動かすのが好きな俺は。

 その感情に関しては良く解らない。

 女性と付き合った事なんて無いし、好意を向けられた覚えも無い。


 愛だの恋だの、というのには無頓着。


「そう! 良く言えば純粋! 純粋なんだ俺は!」

 そう少女に豪語しても意味が無いのは解っている。

 少女は冷めたような瞳で見てくる。子供の癖に何て目をしやがるのか小娘め。


 冷静になった後、またため息を零す。


「……へたれで悪いかよ、そこらへんの馬鹿やってる高校生なんてこんなもんだって」

 俺は何を子供に愚痴って居るのか。

 こんな良く解らない所で、それも一人だからなのか。

 ちょっと俺は弱気らしい。


「そう……じゃあ、あの人の事はどう思ってるの?」

 弱気な俺に少女は止まらずに聞いてくる。

 変な仲間意識でもあるのか、妙にこの少女と居ると落ち着いてしまっているのか。

 俺は何も考えずに答える。


「ぶっきらぼうで、付き合い悪くて、乗りが悪ィ、無愛想で、無機質で、氷みてぇに冷たい奴で。俺の事馬鹿にしまくる悪い奴」


 そう思う、そう思ってる。


「電波で頑固な所があって感情が無い癖に妙な所で気を使って……」

 彼女の事をそう思ってる。


「それで?」

 少女は促す。

 淡々とした様子に俺は釣られて続ける。


「……本当は優しくて、綺麗な顔立ちしてやがる癖しやがって笑えなくて、きっと感情があればもっと楽しく生きてくれるんだろうなって、可哀そうな奴」


「うん」

 少女は聞いてくれている。

 俺が誰にも言った事が無い本心を、言葉を。


「それに、それによ? これは俺しかしらねーんだけどさ!」

 そう言って、少女にニッと笑って見せる。



「アイツ笑うとスッゲー可愛いんだぜ?」

 思い出して嬉しくなってしまう。

 そうだ、アイツ笑ったんだ。

 笑ってくれて……それで……。


 俺の笑顔はゆっくりと薄れていく。

 俯いてしまう。


「コイツ死ぬかもしれないんだ」

 手術の成功率は極めて。いや0に等しい可能性しか無いんだって聞いてる。


「……嫌だ。アゲハが死ぬのは嫌だ」


 何言ってんだ。

 俺が殺した。

 

 俺が零す言葉に少女は何も言わない。

 また、少し無言が続く。

 その沈黙が俺をゆっくりと冷静にしていく。

 何をやってるんだ俺は、こんな事を子供に言っても意味が無い。

 子供だってこんな話聞いた所で気分は良くないだろう。

 俺は慌てて少女に笑いかける。


「イヤ悪いな、そんな事お嬢ちゃんに言ってもしゃーねェ……な……?」

 少女はそっぽを向いていた。

 表情は見えないが、小さな体はプルプルと振るえ、耳を真っ赤になっているのが解る。


 ………………そういえば、この子供やっぱり見覚えあるんだよな。


 頭の中をゆっくりと整理して見る。

 何処で見たっけ、ちょっと前だ。

 多分会ったとかじゃなくてどっかで見た、ぐらい何だよな。

 そこまで考えて、頭の中の検索がヒットする。


 ……そうだ、アゲハの家に行った時に見た写真。


 写真に写ってた女の子だ!


 その女の子もショートカットで白いワンピースだった。


 その女の子は……。





 え。





「……お前、もしかして」

 俺の言葉に少女はビクッと体を揺らす。

 ゆっくりと俺の方に視線を向けてくる。

 そっぽを向いていた時はどんな顔をしていたのか知らないけれど、向けてきた表情は業とらしい具合に無表情な表情で。


 俺に向けて小さな手でピースを向けてくる。


「ハロー、アゲハちゃんデスよ」

 何で英語なんだろう。

 少女がアゲハだと頭の中で確定される。

 その瞬間に、俺の顔は一気に赤くなっていくのが解る。

 熱い、顔が火照る。

 さっきまで言っていた台詞は、アゲハの事で、アゲハに向けて言っていた様で。


「お、お、お、お前な」

 振り絞った声はそれしか言えず、顔も見れずに頭を抱える。


「誰の笑顔が可愛かったの? 河合君? 誰が死んだらヤァダ?」

 悪戯っぽく言う少女の声。


「ギャーーーーーーーーーーー!! 殺してくれェェェ!! 誰か俺を殺してくれェェェ!」

 何か込み上げてくる恥ずかしい物を取っ払うように、顔を両手で隠しながらブンブンと頭を振る。


「『アイツ笑うとスッゲー可愛いんだぜ?』ドヤ顔しながら満面の笑みで」

 一体誰の物まねをしているのか知らないがはっきりと俺に聞こえるように耳元で囁いてきやがる!

 しかも恥ずかしくて見れないのにこの女、具体的な描写まで台詞に乗せてきやがる!

 鬼かコイツは!


 コイツがこんな言い方が出来るのは知らなかったが。

 今はそんな事等どうでも良い!

 恥ずかしさで死にそうぅぅ! あれ死んでるんだっけか!?

 いやこの恥ずかしさは本物だと思うんですけどももももも!

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