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三十九話め.今日は      流れ星の日

 そして私は屋上に居る。

 肌寒い……。


 何故かその日だけ簡単に部屋から出られた。

 見張りもおらず、先生が何か手を回したのかもしれない。


 居ない。


 折角来たのに先生は居ない。

 一緒に見るのだと思っていたのだけれど。

 おまけに空には雲が掛かっている。

 誰だったかな今日の夜は晴れだと言っていたのに。


 全く持って私は何しに来たんだか。


 ……何で嘘ついたのかな先生。


 柵にそっと手を触れて空を見る。

 どんよりとした雲は月も星も隠し。

 暗く。暗く。

 私が一人ぼっちである事を強く認識させる。

 両親達が亡くなってから、私はずっと一人。


 そういえば、両親と山に行こうとした時、とても綺麗な景色なんだと言っていた。


 夜の空も、きっと、きっと綺麗だったのだろう。


 綺麗な夜空を、星を、家族三人で見ていれれば、それはきっと。


 想えないけれど、感じる事は出来ないけれど。


 幸せだったのだろう。


 考えるだけで楽しくて。

 だけどそれが出来なくて。

 出来ないけれど、きっとそれは、悲しい事で。


 それを想えれば、きっとそれはとても必要な事なんだろうね。

 父や母は私に生きて欲しいと思っているんだ、と河合君は言っていたね。


 死人で居続けようと思っていた私に。

 もし生きていいのだと、逝き返れるのだとすれば。


 私は……どうすれば、いいのだろう。

 どうしたら、いいのだろう。 


 見つめる夜空に、雲の間から掠めるように強く光る星を見た。

 その光はとても強く、私の脳裏に先生の言葉が思い浮かべられる。


 願い事だなんて柄じゃ無いけれど。

 感情が動かない私が必死にお願いをする……自分が助かりたい為に。

 助からないから神頼み。

 あまりに人間らしく、感情的な行為。


 …………先生にもお願いされたんだし。

 だったら、惨めに人間っぽく。


 形だけでもやるだけやってみよう。

 最後に人間振るのもいいかもしれない。



 両手を胸の前で組み、空の星を仰ぐ。

 こんな感じかな。

 風が吹く。

 髪が顔に掛かる事も気にせずに私は小さく声を挙げる。



「どうか私を助けて下さい」

 自分で言っていて、何て自分が言わなさそうな言葉だろうと思う。


「お星様、私を逝き返らせてください」

 こういう言い方の方がファンタジーチックで、如何にも噓くさいかな。


「私に……感情を返して下さい」

 誰も聞いている筈が無いのは知っている。

 屋上の上で一人呟く私はきっと見られていれば絶対に変だろうね。


 願い事と言うのはこんなので良いのだろうか。

 願い事みたいな事を言っては見たものの、合っているのだろうか?


「お父さん……お母さんを返して下さい」


 続けざまにポツリと出た言葉に私は一瞬不思議に思う。

 今の言葉は……無意識に出た言葉。

 私は何を言ってるのだろう。

 帰ってくる筈が無いのに。


 別に……良い、誰かが聞いているわけでも無い。

 私の惨めな必死さを笑うかのように。

 夜空の星は雲に隠れていく。


「…………」

 当たり前だけど、解っている。

 寒い風が頬を触れる。


 こんな非現実的な事で何でも叶えば、誰も苦しまない。

 私は苦しんで無いけれど……。


 屋上の柵から下を見る。

 何も見えない真っ暗な世界。

 そういえば、先生は成仏出来るかもって言っていたね。


 そうだね……成仏したら。

 お父さんとお母さんに会えるのかな。

 幽霊が。

 いつまでもこの世界に居たら駄目なんだろうね。


 銀色の柵に手を掛けたまま、ずっと暗闇を見つめる。


 何の為に来たんだか。

 お星様にお願いをする為に来たんだっけ。

 何の意味も無い自問自答。


 幽霊である私が、何故こんな事をしているんだろう。

 生きている人間のように。

 死体は。

 死体らしく。

 黙って、無表情で、何も考えなければ良いのに。


 いつからだろう。

 私がこんなにも考えるようになったのは。


 窓際に居た私に、暗い世界に居た私に。

 思いっきり笑顔を向ける彼。

 ニヤッと、嫌らしく笑う彼の笑顔は、決して綺麗な笑顔では無いけれど。

 それでも強く光る笑顔で。


 彼に会ってから……私はおかしい。


 大丈夫、もう彼は来ない。

 これで私がおかしくなる事は無い。

 ずっと幽霊で居れる。


 吸い込まれそうな暗闇を覗く。

 お父さんとお母さんと同じように私も暗闇に消える筈だった。


 ……。


 先生も言っていたね。

 今私が知っている一番高い世界。


 成仏出来るかな。


 柵に両手を掛け、足を乗せる。

 柵の上に乗ると、風が更に強く体に当たるような印象を受ける。

 不安定な足場。ふらふらと体が揺れる。

 私の知っている世界で……一番、高い所。

 少し体重を掛けたら暗闇に吸い込まれそう。


 暗い暗い……世界。

 たった一人で、暗闇に消えていくのも。

 私らしい。












「おい」








 誰も居ない筈の暗い屋上で声がする。

 何だか久しぶりな声、だけど聞き間違えないその声。

 すぐ左で危なっかしく柵の上に座る彼が居た。


「てめーがてめーを殺さなくても、俺が殺してやるよ」


 あの嫌らしい、思いっきり笑う表情を向けて。


「殺しに……いや……そうだな」

 開いた口を一度止め、少し考える仕草をする彼。

 間の抜けたその姿は、まごうことなき彼自身。


 星が。輝く星が雲の切れ目からもう一度現れる。


 星が。私に向けて、手を伸ばす。


「逝き返らせに来てやったぜ! 幽霊娘!!」


 輝く星が、私の願いを叶えに。



「本当にしつこいんだね、貴方は」


 何も想えない私は単調にそう返す。


 そんな私に嫌な顔等せずに彼はまた想いっきり笑う。


「ああ、笑わせるまで、帰らねぇ!」


 本当に、馬鹿な人。

 どうやってココまで来たのか何て知らないけれど。


 どうせ私はもう消えるから。


 最後に貴方の、最高に面白くないその冗談に付き合ってあげる。


 逝き返らせて見せてよ。

 私の願いを叶えて見せてよ。


 お星様。


 その手を取る。


 差し出された手を。


 いつから外に居たのか知らないけれど冷たい……だけど私と違って何処か暖かいその手。


 一瞬だけ輝く流れ星。

 私の願い事。


 成仏させてくれるのかな? 逝き返らせてくれるのかな? 


 お父さんとお母さんに会えるのかな。


 先生は言ったね。


 今日は。


 強く強く輝く。


 流れ星の日。

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