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二十五話め.コメディー色の無い俺らしくない俺で

「最近あのバカと遊んでねーなー……」

 コンビニの前で缶ジュースを飲み干しているがたいの大きな友人はポツリとそんな事を言う。


 俺はコンビニで買ったパンの袋を開けながら苦笑する。


「なんだ? 寂しいのか?」

 俺の言葉に筋肉バカはバカにしたように豪快に笑った。


「ちげーよ馬鹿、ブチ切れたあいつで最近遊んでねーからつまんねーの」


 それを寂しいって言うんだろうけど。

 こいつも馬鹿だから一々言わなくてもいいか。


 この筋肉バカが一宮と馬鹿な事を良くしているのは、今に始まった事では無い。 

 そして良く一宮……おっと今は河合か、アイツと喧嘩している。

 普通に殴り合いもする。

 基本的に筋肉の方が悪い。


 本人いわくブチ切れた河合が面白くて仕方が無いらしい。

 解らんでもないんだが。

 確かに面白い。

 彼は、河合はキレると謎にヒーローのようなポーズを決めだす。

 本当に本気になる時についついやってしまうポーズだとかわけの解らない事を言っていた。

 そこまでは普通に面白くて良いんだが。

 河合はキレると『何をしでかすか解らない』タイプなのだ。

 以前同い年の不良にからかわれ過ぎた時。


「ヒーローけんざん!」の一言と共に河合は筋肉が抑えるまで暴れまわったのだ。

 それ以来、アホな事しかしていないのに不良を恐怖させる存在になっていたりする。


 その時のアイツにギャグ要素は無い。

 ただ普通にキレてる。

 ギャグ要素の無いアイツは中々見れないが……。


 ……俺はあまり好きではない。


 元スーパーヤンキーの筋肉バカぐらいしか止められないぐらい暴れる。

 筋肉はそんな状態の河合と喧嘩するのがとても楽しいらしい。


 馬鹿は扱い易いが、筋肉はまた別の意味の馬鹿なので扱い難い。


「あーフラストレーション溜まるわー……」


 馬鹿の癖に難しい言葉知ってるな。


 そういやあの馬鹿も最近爆発してねーからフラストレーション溜まってるかもな。

 筋肉馬鹿がいない所で爆発してなきゃいーけど……。




 俺は目の前の光景に固まる。

 俺は只……笑わせたいだけなんだ。

 そんな理由で木を登って態々覗きに来たわけだが。

 こういうのは想像してなかった。


 何だこの光景は?

 何故その子を傷つける。

 汚い笑みを零しやがって。

 吐き気を催すような汚い笑みだ。

 ムカつく笑みだ。


 沸々と込み上げる怒り。


 人を笑わせるのは好きだ。

 俺がバカな事して笑ってくれたら、俺も嬉しくなる。 

 誰とだって笑っていたい。

 だから楽しい事は大好きだ。

 だからこそ。

 こういう笑顔を奪うような事をする奴は嫌いだ。


 大嫌いだ。


 だけどムカつくのはクソ医者だけじゃない。


 テメーもだ! 幽霊女!

 何でテメーの表情は変わらねー!

 そこまでされて! 嫌がれよ! 泣けよ! 怒れよ!

 なんなんだテメー!

 病気? だからって……!

 それでもこの医者は嫌いだろーが!

 好きにさせたくねーだろーが!


 そんな苦しい思いしてまで感情動かねーんなら……。


 さっさと、笑えアン!ポン!タン! が!


 俺の心の叫びと共に、窓を思いっきり蹴破った。


 ひっさしぶりにキレたぜ糞バカ!!


 両腕を斜めに、指先をピンっと伸ばす。


 ヒーロー、けんざん!!




 ■




「な、なんだお前は!」


 突然の俺の登場に面食らっている糞医者を一瞥。

 そして幽霊娘にも視線を送る。

 俺を見る不思議そうな視線。

 なんでいるの? と言っているかのように。

 本当に、不思議そうに。


 その目が、また俺の怒りを誘う。


「滅茶苦茶な奴め! 二度とこの病院に入れなくしてやる!!」


 幽霊娘をはたく前に、うるさいバカが先だ。

 俺と医者とのベッドの高低差。

 俺はベッドから飛ぶ。

 そのまま喚くクソ医者に飛び膝を食らわせた。

 膝に潰れる感触、そして医者の間抜けな悲鳴。

 そのまま、鼻血を飛ばしながら派手に転ぶ医者。


 俺はそのまま着地する。


「ひゃ、ひゃながぁぁ……」

 顔を抑える医者が言葉を口に出来ていない。

 鼻が潰れたようだ。

 そんな医者にゆっくりと近づく。

 潰れた鼻めがけて蹴りを入れた。

 白い筈の病室に赤が広がる。

 転がる医者の腹を憎々しげに踏んだ。


「グッゲェ!」

 怒りに任せて体重を掛ける。


 テメーがアゲハにやった所は後どこだ!? 

 苦しむ医者の顔を見てもまだ俺の怒りは収まらない。

 アゲハを傷つけやがって!

 病気だけじゃねェ! こんな事されてて笑顔なんて作れるかよ!!

 テメーのせいで! テメーのせいで!!


 転げまわる医者を固定するように上から馬乗りになる。


 怒りがそうさせた。

 正義の鉄槌だ。

 これは、正当な怒りだ!!


 怒りに身を任せて男の顔に、拳を叩き付ける。


 飛び散る血。

 拳が医者の鼻血で赤く染まる。

 その赤にふざけた要素何て無い。

 それを解っていても右、左と赤く染めていく。

 何度も何度も拳を叩き付ける。

 コメディー色の強い俺が、シリアスに、人を傷つける事なんて無い。

 その分、一度キレると自分でも止められない。

 次々と、次々と、込み上げる怒りが止まらない。


 だけど。


 殴りながらも冷静に自らに自問自答している自分がいる。

 変な気分だ。


 何でこんなに怒ってる?

 何でこんなに苛立つんだ?




 アゲハに酷い事をしてたからだ。

 笑顔を出す事とは全く逆の事をしたからだ。

 だったら殴っても意味なんかない。

 すぐにじーちゃん先生に止めてもらった方が効率的だ。

 なのに俺は怒りで部屋に飛び込んだ。

 なりふり構わずだ。


 なんで?


 ……アゲハが酷い事をされたからだ。


 イケメンが図書館で言っていた言葉が脳裏を過る。


『好きなんだろ?』


 そんな馬鹿な。


 突然、耳障りな騒音が響いた。

 その音にハッと我に返る。


 大きな音が部屋に響き渡る。



 音と共に拳も止まった。


 その音が何なのかを俺は知っている。

 その音が使われるタイミングを俺は知っている。

 何故その音が今響いているのかは知らない。 


 ゆっくりと、辺りを見渡す。

 振り向いた先に、アゲハがいた。

 その手にはナースコールを鳴らすボタンが握られている。


 医者がいる中でのナースコール。

 人の助けがなければ危ないと考えての人数が来るだろう。

 慌ただしい看護師達が走ってくる音や何か医療的な大きなものが動いている音が聞こえてくる。


 俺は強く、強く幽霊娘を睨んだ。


「バカかテメー! 何してんだよ!」

 その意味は、この男を助けようとしている様で。

 理解、出来なかった。


 俺の言葉に何の反応も見せず、アゲハはいつもの無表情を向ける。


「…………」


 何も言わない。

 また。

 こんな状況でも。


「テメーを傷つけた野郎だぞ!? なんで人を呼んだ!!」

 俺には意味が解らない。

 こいつの考えが、読めない。


 何も言えないお前の変わりに、俺が怒ってやる!!

 俺がブン殴ってやる!

 スカッとすりゃいいじゃねーかよ! 

 なのに何で!!


「…………」


 何も言わない。

 只、無機質な瞳が俺を見つめ。

 いつまでも響くナースコールが耳に障る。

 アゲハは、ギュッと強くナースコールを胸に抱きしめるように握っていた。


 


「何とか言えよ!!!」

 思わず俺は怒鳴ってしまう。

 苛立ちをぶつけるように。


 幽霊娘の無機質な瞳に。

 少しだけ。

 本当に少しだけだったけど。


 寂しそうな色が映った気がした。


 そして幽霊娘はポツリと零す。


「…………面白くない」


「は?」

 当たり前だ。

 面白い事をしているわけじゃないんだ。

 意味が解っていない俺に、幽霊娘は続ける。


「今の河合君…………面白くない」


 ぽつり、ぽつりと続ける。

 アゲハの透き通った声が、俺に向けられる。


「…………今迄で…………一番…………面白くない………こんなの…………イヤ」


 ハッキリと、否定の言葉を向けた。

 今迄で、一番感情を出したような。

 そんな気さえした。


 イヤだって?

 あのアゲハが?


 …………。


 なんだか、力が抜けた。

 突然。

 どうでもよくなってしまった。

 理由? 知るか。

 俺自身が、アゲハを悲しませたと言う事は理解出来た。



 その時ドアが音を立てて開く。


 合わせて5人の看護師と医者が入ってくる。

 じーちゃん先生だ。

 医者の上に馬乗りになり、辺りは血だらけ。

 その光景を見た医者や看護師は慌てて俺に向かってくる。

 抵抗する気も無く、力なく俺は床に羽交い絞めにされた。

 虚ろな瞳な俺の目に、じーちゃん先生が映った。

 いつも笑ってるじーちゃん先生は、険しい表情で俺を見つめ、何も言わない。


 ハハ、やっぱ笑えないよな。


 笑えない……。  


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