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二十三話め.頑固頭とかマジ簡便

 窓から入る風が髪の毛を(なびか)せる。

 窓から見える先には、大きな一本の木と、綺麗な風景が広がる。

 そっと髪の毛を手で抑える。

 この感覚も久しい。

 風で勝手に(めくれ)る本を優しく閉じた。


 病院の静かな空間は、嫌いでは無い。


「ちょ、君何してんの! 今は面会お断りなんだけど!!」


「やめて! マスク取らないで! これ結構頑張って作ったから!!」


 ……外の廊下が煩いのは前には無かったかな。

 騒音が響く。


 あの人は……本当何なんだろう。



「くっそ……俺が一生懸命作ったマスク持って行きやがった……」

 マスクは取られてしまったらしい。

 ……同情する気は無いけど、本気で凹んで椅子に座り込んでいる。

 相変わらずバカだね河合君。



「無心病態々調べたゼ! この野郎!」

 びしぃ! と親指を、寝た姿のアゲハに向ける。


「……そう」

 相変わらずの無頓着な反応。

 こちらに視線すら向けずに膝の上の本を捲っている。


 しかしそんな毎度の事で凹む俺では無い。


「ぶっちゃけ八割も理解出来なかったけどな!!」

 ココで満面の笑み。


「……そう」


「テメーそこは『理解出来なかったのかよ!』とかだろーがよー、ボケに突っ込みさすんじゃねーよ!」


「……そう」


「『……そう』じゃネーだろ!! なんだお前の中で流行ってんのか!? SO-! OH YEEE!! みたいな感じか!?」

 あれ違うかったか? 凄い目で見られてるよゴミ粒を見る目だよゴミ粒じゃないよ俺。


「それともアレか!? sow見たいのかコラ!?」

 某有名なグロ映画だが、ふとワンシーンを思い出して気分が悪くなる。


「あれグロ過ぎて俺簡便だわー……」

 げんなりしている俺を他所に、アゲハがそのタイミングでやっと俺の方を見る。


「……足斬るトコとか爆笑もんだったわね」


「え、お前そんな事で笑っちゃうの」

 やっと返答が返ってきたと思ったらなんつー事言うんだコイツは!

 ドン引きしている俺を見て幽霊娘はめんどくさそうに零す。


「冗談よ」


「もうちょっと笑える冗談にしてくれ……」

 この女は時々冗談を言うが、相変わらずわけが解らない。

 っというかそういう話をしに来たんじゃ無くてだな。


「テメー何が『アタシは幽霊だから心が無いのー☆』だアホ。 感情が動かねーのって病気のせいじゃねーか!」

 俺の言葉に幽霊娘は軽く眉を寄せて見せる。


「それは現代的に見て無理矢理つけた名前……この病気は幽霊が実体として残る現象に人間が勝手に付けただけ……」


「ワーオ、素敵に無敵に電波マックスだな! バカじゃねーの?」


 無表情なのだが、眉が若干動いていたので多少なりとも反応はあったらしい。


「だったらそう思っていれば良い……あなたには解らない」


「イエース! 解りたくもねーっつの、電波娘は一人で電波発しとけっての」

 流石に怒ったか? と思ったが、幽霊娘の表情は変わらない。


「電波だとか何だとか好きに言えば良い……私は幽霊、なのに人間は私の体を(いじく)ろうとする……薬? 手術? 無駄なのに」


「その病気って最終的に死ぬらしいじゃねーか、ンな事言って、死にてーの? お前」

 業と生きているという前提の言葉。

 普通なら病気の女性に言うような言葉では無い。

 無表情で病気を認めず、それを治す気の無い人間に気を使うつもりは無い。

 寧ろ治そうとする努力を踏みにじる行為は病院の人や、あのジーちゃん先生に失礼だ。

 周りだけ必死でテメーだけ我が侭通すなんざアホらしい。


 俺の言葉に幽霊娘は目を薄くする。


「もう死んでるのに、今更死ぬ事を抵抗するの?」


「……ハ、確かに」

 面白い事を言う。

 そりゃそうだ、その通りだわ。

 自分の我が侭をそこまで通せるんなら、その我侭を笑いで吹き飛ばしたらさぞ楽しいだろうな。


 音を立ててドアが開いた。

 前にもあった似たような展開。

 またお邪魔虫の登場だ。


 ドアの先に居たのはクソ医者。

 俺に向ける視線は冷たい目だった。


「何だ、また居たのか、時間だ消えろ」

 先程のアゲハとの言い合いで苛立ちは十分に募っていた。

 その上でそんな事を言われれば、俺だって怒る。


「何様? つか俺様ってか? 医者だったら何言っても許されると思ったら大間違いだアホ!」


 俺の言葉に医者の表情は物凄い苛ついた表情。


「クソガキが……お前とは生きて来た世界が違うんだよ……」



「ほぉー? 頭硬い奴が言う事は違いますな! ンなの違うに決まってんですが。医者ってのは頭良いのか悪いのか解らんな」

 ストレスをぶつける様に言い放つ。

 凄い勢いで医者の顔が赤くなっていった。

 あらら、このアホ医者別の意味で面白いわ。


「きっさまぁ! 私の権限を使えば貴様何ぞこの病院から出入りさせない事も出来るんだぞ!?」

 げ、マジギレ。

 コイツ本気で頭カッチカチじゃないですか。

 感情的になっちゃうタイプなようだ。

 この幽霊娘にはまだ用事がある。

 今更ココに来れなくなるのはマズイ……。


 荒い呼吸と共に医者は懐から錠剤の様な物を取り出す。

 それを幾つも口に入れながら俺を睨みつける。

 その姿は異常に見えて、つい怯んでしまう。


「わ、解ったよ、悪かったよ冗談だって……」

 本当に冗談が通じない頑固野郎。

 俺は椅子から立ち上がると医者の横を通ってドアに向かう。

 部屋を出る瞬間、振返ると幽霊娘と目があった。

 相変わらずの感情が薄い瞳はジッと俺を見ている。

 『行かないで! 貴方と居たいの!』 とか語りかけている。

 とかいうわけではない。


 ヒラヒラと手を振って見せて俺は外に出た。

 今日も成果無しかよ。

 幽霊娘の電波っぷりを改めて確認しただけ。

 病気だか何だか知ったこっちゃねーが、俺が奴を笑わせる事には変わりないわけだし。

 っというか、あまり治す為の成果が出ていない病気の実験って何すんだ?

 もしかしたら笑いに使えるかも……。

 思い立ったら吉日! あのクソ医者の実験とやら、見させてもらうぜ!

 俺は相変わらずの嫌な笑みを浮かべて廊下を走り出す。

「コラー! 河合君! 廊下走ったら駄目よー!」と走り去る俺に看護師が注意する声が聞こえる。

 俺の河合って名前こんなとこでも浸透してるの!?


 ッフ……麗しき人よ。

 俺の脳内の創作意欲に置ける過剰分泌を止める事は誰にも出来んよ……。

 とかかっこいい事考えながらクールな表情を向けてみる。


「……河合君! 精神科は4階よー!」

 そこまで酷かったかな!?

 確かにイケメン程カッコよく無いかもしれないけども。

 精神に異常があるように感じる程なの!?

 目に涙いっぱい溜めながら俺は走る。


 外に出る為に。

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