十九話め.舞台は学校から病院へ。
ココは……何処だろう?
昔見ていた白い世界。
真っ白な天井。
真っ白なベッド。
真っ白なカーテンで覆われた小さな世界。
私が良く知っている世界。
「爺さん! アゲハは大丈夫なのか!?」
……昔とは少し違うみたい。
耳障りな声が聞こえる。
「うーむ守秘義務というものがあってのー……」
昔、聞き覚えのあるしわがれた声と、最近聞き覚えのある元気な声。
「とか言いながら食らえ必殺の変顔ォォォォォ」
「ブフォーっ!? ブワッハッハッハッハ!! 止めんか!! ブワッハッハッハ! 止、止め!! ゲーッホ!! ゲッホ!!」
「先生がまた河合君のギャグで笑いすぎて倒れたわー! 誰かー! 医者なのに急患よー!!」
河合君……どこでもやる事一緒なんだね。
「ほーれほーれ!! アゲハの事を言わないと止めないぞー! ホーレまだ進化するゾォォ!! ホーレ三倍速だー!!」
「ギャーッハッハッハ!! ゲホ! グェッホ! 死ぬ! 死ぬゥ!!」
……見えないけどどんな変顔なのか気になるかも。
どうせ笑わないけど。
学校の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に俺はカバンを手に取る。
「よー河合、帰りに遊んでこーぜー」
「悪い、俺病院寄ってくからよ」
イケメンの誘いも申し訳ないが、アゲハが目を覚ましてるかもしれないし。
後、俺は河合じゃないから。
アゲハが倒れて一週間。
病院の人が言うには、そろそろ起きても良い頃合らしいし。
「……お前も好きだなァ」
「アァ? おおともよ! 笑わすまで終わらないぜ!!」
「いや、そういうことじゃねーんだけどよ……まァいいや、頑張れよー」
「おうよ!! 今日も頑張って笑わせるぜ!!」
「解ったからはよいけ」
凄く面倒くさい、という顔をされた。
「なんだコノヤロウ。イケメンだからって調子乗るなよコノヤロウ。ワンパン入れちゃうぞアン、アアン?」
「お前急いでたんじゃ無かったの!?」
何だこのイケメンは逆切れか。
最近の若者に総じて逆切れか。
「早く行け」
「ほべぇ!?」
後ろから筋肉にワンパン入れられて俺は吹っ飛んでいた。
自分の力強さには責任を持ちましょう。
「そんなに行って欲しいなら行ってやるよ! 後で寂しくなっても知らねーからなー!!」
以外に痛かったので次のパンチが飛んでくる前に捨て台詞を吐いて逃げ出す。
遠くから「別に寂しくないから安心しろよー」とか言う悲しい励ましの言葉が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
気のせいだよね!?
最近アイツ等とは遊んでいない。
学校が終わる度に俺は毎日行っている所がある。
病院だ。
あれからアゲハは病院で入院している。
俺が連れて行った病院は。
アゲハが昔通っていた馴染みの所だったらしく、迅速にアゲハの治療は行われた。
どういった状態だったのか結局教えてくれない。
けど、アゲハは何とか峠は越えたらしいから、アゲハが無事なら別に良い。
アゲハは、そのまま入院する事になった。
それから俺は毎日病院に来るのだが。
いつになったら目が覚めるのやら。
白い病室で彼女は眠り姫。
それでも俺は今日も通う。
この病院の人達とも大分仲良くなった。
だけどアゲハの事は、やっぱり何も教えてくれない。
……結局俺は何も知らない。
アイツが何なのか。
病院での対応を見て、人間として扱われていたのに何故か俺は心を撫で下ろす。
病院の大慌てな様子が印象深くて、結局謎は深まるばかりだ。
それでも俺は、今日も通う。
只、あの子の笑顔が見たいだけだというキザな感じな理由で。
いや、キザはキザでも残念ながら内容はカッコイイ物じゃないんだが。




