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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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愛の日。


「……むん……」


 口をへの字にした薬術の魔女は、ぱたり、とベッドの上に寝転がった。


「…………まさか、」


 断られるとは思いもしなかった。


 魔術師の男に


「勉強を見てもらいたいんだけど、きみのお家に遊びに行ってもいいかな?」


と聞いた途端に


『…………駄目、です』


と、返された。

 なんだか疲れているような声をしていたので、宮廷魔術師の仕事で疲れたのだろうか、と首を傾げるものの、『年越の儀』直後の魔術師の男はそういった様子は見せていなかった。

 だから、理由がとても気になる。だが、聞いたところで答えてくれないであろう事は分かりきっていた。


「………………」


 なぜだか、すごくしょんぼりする。友人達から『駄目』だと言われた時以上に、衝撃を受けた。


「……んー……」


潤んだ視界をくしくしと、(こす)る。


「そーだよね。あの人にだって、予定はある……もんね……?」


×


「……元気がないわね?」


 次の日の薬草学の授業中に、友人Aは机に突っ伏す薬術の魔女の頬をつつきながら問いかける。


「……んー」


 うめきながら、薬術の魔女は昨日の出来事を語った。


「ふぅん?」


 友人Aは薬術の魔女の頬をつつくまま、興味深そうに目を細める。


「なんで、こんなにしょんぼりしちゃうんだろ」


気付かず、突っ伏したまま薬術の魔女は口を尖らせる。


「……あなた、婚約者の人の事好きなんじゃない?」


「…………ふぇ?」


 友人Aの言葉に、薬術の魔女は顔を上げた。それを見ながら、友人Aは確認するように言う。


「だって、断られてすっごく悲しいんでしょ?」


「……そうなのかな」


 薬術の魔女は友人Aの言葉の衝撃に、しばらくの間その悲しみを忘れた。


×


 色々な事があったものの、テストはいつも通りに一位を取った。

 今回は友人A、友人Bと共に勉強会を行い、


「教えるの、上手くなったね?」


と、勉強会の最中に友人Bに言われたのだ。


「まあ、全くの他人にはまだ理解されない説明だけどさ」


 そう言われて、薬術の魔女はほんの少しだけむっとした。


「(……あの人のおかげなのかな)」


教えるのが上手い人と共にいたおかげで、その説明の仕方が移ったのかもしれないと訳もなく思う。


 テスト終了後、友人Aと友人Bと共に『愛の日』の菓子を手作りする事になった。

 友人A曰く、


「折角だから、気晴らしついでに作ってみない? 毒か薬でも入れて仕返ししちゃえばいいのよ」


という事で。


「……作ってみる」


 薬術の魔女は頷く。

 そして、薬術の魔女は原材料の木の実を友人Aと友人Bに見せたところ


「「普通はそこから作らないから!」」


と、怒られた。


「(……作ってもさー、受けとってもらえなかったらどうしようもなくない?)」


 と、呟きながら、()()A()()()()B()()()()()()()()()()()()()()()()、炒った木の実をすり潰す。


「…………」


やや頬を膨らませ、口を尖らせながら、無心で硬い木の実をすり鉢ですり潰す。

 そして甘味と油脂を入れ、滑らかになるまで無心でかき混ぜ、温度を調整しながら形成し。


「……できた!」


 しかめっ面で、ラッピングされた箱を掲げる。


×


「薬作りで余ったからあげる」


 と、『愛の日』当日に魔術師の男の家まで()()()やって来た薬術の魔女は、ラッピングされた袋を差し出す。


「……然様ですか」


 戸惑いつつ、魔術師の男は玄関先でそれを受け取った。

 早朝、仕事へ行こうとした魔術師の男の家の前に、しかめっ面の薬術の魔女が現れたのだ。

 鼻先を赤くし、やや鼻をすすっていた。


「帰る!」


魔術師の男が何かを言う前に、(きびす)を返し、薬術の魔女は帰ろうとする。


「……待ちなさい」「ぐえっ」


 刹那、薬術の魔女の身体に常盤色の紐のようなものが巻き付き、彼女の動きを阻んだ。


「なにさ」


「…………寒かったでしょう。……温まって行きなさい」


 目を逸らしながら、魔術師の男は提案をした。


「……午前休の連絡を入れておきます。その間に貴女は食堂で(しば)しお待ちを」


 それから程なくして、待たされた食堂に彼は現れた。


「休みを取りました。……何故、態々(わざわざ)此方(こちら)(まで)いらしたのか伺っても?」


「……なんとなく」


 ずび、と鼻をすすり、薬術の魔女は答える。


「…………」


 それならば仕方が無いか、と思いかけたそれを魔術師の男は思い止まる。


「……大分、(ほだ)されましたか……」


「なにかいった?」


「いいえ。何も」


 魔術師の男は溜息を吐いた。


「それで。食べないの?」


 魔術師の男が差し出した温かい紅茶をちびちびと飲みながら、薬術の魔女は首を傾げる。


「……では、折角なので頂きましょうか」


 丁寧に包装を開けた。


「…………()れは、」


外の店頭では見た事のない包装に同じく見た事のない入れ物、そして丸い形状の、菓子だった。


「(そう言えば、『薬作りで余った』と……)」


 確かに『愛の日』の菓子に使われる木の実は、身体を温める薬や気付薬などにも使用される。


「……(……しかし、)」


 口の中でほろりと崩れるその食感は本当に薬作りで使うのだろうか。


「(まあ、世の中は意外と広いですからね)」


思いながら、魔術師の男は口の中で甘く溶けたそれを嚥下(えんげ)した。


「……」


 何やら難しい顔をしている魔術師の男の様子を見て、薬術の魔女は口を尖らせる。


「硬い木の実とかが絡まったら美味しいんだよ」


「まあ、そうでしょうが」


「美味しい?」


「えぇ。大変美味です。特に、口溶けと甘さが」


「えへへー。そっか!」


 そこでようやく、薬術の魔女は笑顔になった。


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