知恵伐採11
『月の島国』は、太陽の加減か、少し暗い国だった。話によると(黒髪の若者の理解では白夜や極夜のようなもの)太陽の位置が遠いため、らしい。
船を降りるなり、長女は「じゃ。あとがんばって」とだけ言い、とりに乗ってどこかへと飛んで行ってしまった。とても自由だな、と魔女はその様子を見送る。
気候は薄暗く、街並みは黒くてツヤツヤした質感の建物が多い。どうやら、日光の光で発電する代物らしい。(隊商長が教えてくれた)
総合組合の建物も景観に混ざっており、少し無機質な感じだった。
「すごい、サイバーな感じだ」
そう、黒髪の若者が呟く。
「さいばー……?」
「確かに、電脳的ではありますが」
魔術使いの若者と聖職者の若者が、顔を見合わせる。
「見て、空に何か飛んでる」
魔女が空を見上げると、黒いものが飛んでいた。
「ああ、魔鳥ですね。あれは調教されているやつですから、安全ですよ」
それに、隊商長が答えてくれる。通鳥でも、魔鳥を育てているのを魔女は思い出した。
「魔鳥? あんな大きい鳥……」
人を2人くらいは余裕で攫っていけそうな大きさの魔鳥だった。よく見ると、そこかしこに魔鳥らしき黒い鳥が居る。
「魔鳥が居るところは変わんなかったっぽいですね。まあ、らしいっちゃらしいですけど」
隊商長は小さく零した。どうやら、魔鳥が居る事以外は変わってしまったらしい、と魔女は察する。
若者達が手続きを済ませて総合組合から出ると、どこか歓迎されていない様な空気を感じた。
人々が集まって、若者達を(あまりよりくない表情で)見ている。
なぜだろう、と思う間に誰かが
「樹木を破壊しにきたのか、お前達」
と叫んだ。
それに言い返すまもなく、「この国の巨大樹木を破壊しに来るなんて、なんという恥知らず」と、周囲の声が大きくなる。
「でも、樹木の中には人が囚われているんだよ」
そう、黒髪の若者が困惑した様子で言うと
「うちの国民はほとんど全て帰ってきている!」
そんな言葉が返される。
「この国の樹木の中の人にも、他国で帰りを待ってる人がいるんだよ」
そういうと、半分ほどが言葉を詰まらせた。
「それに、他の国の巨大樹木の破壊を見逃しておいて、この国の樹木だけ守るとか都合が良すぎるんだよ」
吐き捨てるように、白髪の若者が言う。
「自分達は全ての樹木を破壊するつもりだから、この国の例外じゃないよ」
黒髪の若者は周囲の人々へ、言い聞かせるように告げた。
どうやらこの国の人々は、巨大樹木が伐採されることを拒んでいるようだ。
争いたいわけではないので少し困る若者達。
ともかく若者達は巨大樹木へとたどり着くために、人集りから抜け出すことにした。




