知恵伐採6
そろそろ終わりが近いと感じる魔女。
船の客席の窓から、外を眺める。ゆったりと暗い色の海が揺れていた。それにどこか『黒い人』の面影を感じ、なんとなく安心する。
昔見た海は、なぜか怖かったのを思い出した。
なぜだろうと思う間もなく、魔女は思考を切り替える。伴侶のことを考えようと思ったからだ。
「(……あの人が、何かよくない事をしようとしてるのは分かってる)」
『偽王国』とやらと一緒になって樹木で天地を繋ぎ、世界をおかしくしてしまったのは事実だ。だが、それよりも気になることがあった。
『帰ってくる?』と聞いて、彼は答えなかったのだ。
つまり、帰ってくるつもりはなかったということだ。どこか魔女の知らないところで、命を使い切るつもりらしい。
「(……そんなこと、絶対に許さないんだから)」
勝手にわたしの心配して、わたしから離れて。
彼が変わってしまった原因はなんだっただろう、と考えて別居した5年間を思い出した。あの間に、何かあったのだろうか。
「(これ以上、ねこちゃんの好きにはさせてやらないんだから)」
また昔の様に一緒に、屋敷で暮らすのだ。長く、長く。
「(わたし、きみのこと。絶対お家に帰すんだからね)」
新たに決意を固める魔女。
「どうしました」
ぼんやりとしていた様子が気になったのか、隊商長が声をかけてきた。
「伴侶は、一体なにをするつもりなんだろうって考えてた」
「そうですか。まあ、とんでもないことはやらかしましたよね。まだ途中でしょうが」
頷き、隊商長は魔女の近くに寄る。
「うん。だから、それは最後まで見届けたいなって気持ちはある。でも、途中で『ダメ』だって思ったら、それを邪魔しなきゃいけないんだよ。……ねこちゃん、怒るかな」
「さぁ、どうでしょうね。でも、いつまでもやられっぱなしなのは嫌ですよね」
「うん」
「向こうやあなたが何をしようとも、正直言って私には関係はない話なんですが」
隊商長は言い、魔女をまっすぐ見つめる。
「私は、あなたを応援してますよ。だってあの人基本的に性格悪いし運が悪いじゃないですか。だから、きっとあなたの選ぶ方がいい結果に繋がると思うんですよね」
「そうかな?」
「そうですよ。……それに、あなたは天地の神に近いとされている森の主に育てられた『魔女』なんですから。悪意が強いだけの呪猫の次席より、あなたの方が良い運命を掴み取る。私はそちらに賭けますね」
どうやら、魔女のことを応援してくれているらしい。そう、魔女は察した。




