『奈落』9
次に向かう『花の島国』に行くための準備ができたと言われ呼ばれた場所は、港だった。そこに居た友人Bの姿に、魔女は目を丸くする。
「私も居るわ」
「院長さん!」
そこには友人Aもいた。魔女が口を開く前に、黒髪の若者が叫ぶ。
「あら。あなた、すごく元気そうね。何かあった?」
ブルネットの髪を潮風に靡かせながら、友人Aが黒髪の若者に声をかけた。黒髪の若者は友人Aが運営している孤児院に居たので、母親のような存在なのだろう。
「はい! 良いことありました!」
そして黒髪の若者は、幼馴染が生きていたとの報告とその幼馴染である白髪の若者の紹介をしていた。
「良かったわね。友達も、できたみたいで」
友人Aは黒髪の若者の周囲に視線を配り、魔術使いの若者と聖職者の若者を見る。
「ふぅん、結構な美人ね。生兎でモテそう」
「え、うん。そうかも……でっ、でも! 誰も渡さないよ!」
「あら。みんなが大事なのね。……本当、幼馴染の子に会えて良かったわね」
「うん。……すっかり、死んじゃったって思ってたから……っ!」
黒髪の若者の声は涙ぐんでいた。
「どうしたの? こんなところにいるなんて」
友人Aは取り込み中のようなので、魔女は友人Bの方に問いかけた。すると魔女の横にいた隊商長が口を開く。
「言ったでしょう、次に行く『花の島国』へは船で行くと」
「そうだっけ」
腕を組み、隊商長はやや呆れた表情をしていた。
「うちの船に乗せて行くんだってね」
友人Bが隊商長(と魔女)の方に近付く。
「安全に届けてあげるから、安心しな」
正しく大船に乗ったつもりでね、と友人Bは自信たっぷりに笑った。
それから話が終わったようで、友人Aと若者達が友人Bの方へ集まってくる。
「魚のお姉さん!」
「よー、すっかり大きくなったねぇ」
友人Bと黒髪の若者は、軽く挨拶を交わした。
「そんで、海路についてだけど。結構大変だから、それだけは言っておく」
友人Bは船舶している船へ、顔ごと視線を向ける。
「君達を運ぶ船は大型船。荷物と一緒におまけで人間を運ぶようなやつだから、途中で海賊に襲われてかもしれない。それだけは覚悟しといて」
「海賊?」と目を丸くする魔女に、「船の荷物や人間を横取りしにくるやつらです」と隊商長が簡潔に説明した。
「できれば、もし海賊に襲われた時、一緒になって倒してくれると助かるんだけど」
「もちろん、やるよ!」
友人Bのお願いに、黒髪の若者は元気に答える。他の若者達の不満の声が上げなかったので、同意のようだ。
「そう言ってもらえると助かるよ」
「せっかくの戦力だからね」と友人Bは頷いた。




