表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
お試し期間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/600

距離感。


「(……本当に、婚約したんだ)」


 右腕に着けた腕輪を眺めて薬術の魔女は、ほぅ、と溜息を吐く。

 宮廷で婚約腕輪を付けてから、何かが変わった、と感じることはない。だが、婚姻の約束を結んだのだから、その縛りがきっと生まれたはず。そう彼女は考えた。

 そして、どこかでその縛りを自覚することになるのだろう。

 やがてそれが結婚腕輪になった時には、さらに儀式を重ねるので、より縛りが強くなるはずだ。


「(……あ、()()()()())」


 眺めていると、腕輪の装飾品の石が彼の目の色をしていた。近い色ではなく、()()()()()()()()()()だ。

 それに気付いて、なんだか嬉しくなる。彼の存在を何となくで感じられるような気がしたから。


「腕輪等眺めて何をしていらっしゃるのです」


 ぼんやりしていると、薬術の魔女の()()()に、魔術師の男が現れた。


「……いや、近くない?」


 振り返ると、すぐそこに彼が居る。魔術師の男が身に付けていたらしい、香の薄い匂いが感じられる程の距離だ。


奇怪(おか)しいですか」


 微笑み、彼はゆったりと首を傾げた。さら、と溢れた髪から使っている石鹸や彼の魔力の匂いがして、鼓動が速くなる。


「近い近い、急過ぎじゃない?」


 頬を染めつつも身体を捻り、薬術の魔女は魔術師の男の肩を押して距離を開けさせる。その際に一瞬、彼の表情が変わったものの、何の感情だったのか分からなかった。


「嗚呼、失礼。今迄に親しい者が居らず、距離感が掴めぬもので」


「わたしも、きみの距離感が分かんないよ」


 不思議そうな様子の彼に、彼女は困って眉尻を下げる。今まで通りの距離感で良いのに、と薬術の魔女は思った。


「貴女と御友人方との距離感を参考にしてみましたが」


「んー、そっか。たしかに、ともだちとの距離感はそんな感じかも?」


 薬術の魔女は戸惑いながらも頷く。だがそれは同性の友達だからだ。


「で、でも……ちょっと急じゃない?」


こんなに、しかも異性から距離を詰められるなどそう体験したことが無いので、心の準備ができていなかった。


「共寝もした仲ですのに」


 口元に手を遣り、魔術師の男は軽く目を伏せた。少し悲しそう、というか寂しそうな様子に見えて少しだけ心がちくりと痛んだ。


「そ、それは例外……」


痛んだが、なんだかわざとらしいなぁ、と少し思う。思いつつも、薬術の魔女は軽く目を逸らした。

 それに、一緒に寝たのは遭難から帰った時と、呪猫に居た時だけで、あの時は1人が怖かったので仕方なかった、はずだ。


「然様で。然しながら、相性を確かめる為にも多少の触れ合いや対話等必要だと思いますが」


 す、と顔を元の澄ました表情に戻して、魔術師の男は問いかける。それを見て、やはりさっきの表情はわざとだったのだと確信した。


「……そうだね。今、対話の必要性を感じてるとこだよ」


 戸惑いながら薬術の魔女は答える。なんとなく、彼の様子が今までと違う気がしていた。それは婚姻したからなのか、彼女自身がようやく自覚したからかはまだ分からない。


「もしかして、今まで色々我慢してた感じ?」


「……如何(どう)でしょうねぇ」


 急な距離の詰め方とか、何やらわざとらしい様子とか。聞いてみるも、ゆっくり目を細めて魔術師の男は薄く微笑むだけだ。


「と、取りあえず。距離感はゆっくり詰めよ?」


そう提案してみるものの、何となくその提案は通らないような気がした。


「前向きに検討は致します」


「んー」


 薄く笑う彼に、薬術の魔女は眉を寄せる。

 不便というかとてつもなく嫌な予感がしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ