95話 ケモ耳達の前に佇む関門
出かける準備を済ませて、私達は玄関に集まる。
「忘れ物はない?」
「ないと思うよ〜」
「え、な、何か必要な物があるんですか?」
「アリス何かあったっけ?」
「え!?なんでしょう、個人カードとかお金とか、あと何か他にありますか?」
まあ、それだけあれば後は現地でどうにかなるかな。
「あ、あの、私、お金持ってないんですけど…」
「私とレイで出すからいいよ」
「え、いや、でも…」
「じゃあ〜、王都観光の分は貸すから、今度錬金魔法見せてよ〜」
「は、はい、すみません、ありがとうございます」
マリン、無一文だったんだ。
まあ、マリンが増えたところで私達の家計がダメになることはない。
「よし、それじゃあ行くよ」
「行こ〜!」
私達は家を出て北門に向かう。
時間としては朝、多くの人が道を行き交っている。
相変わらず見られるけど、こればっかりはもう仕方ない。
王都に行けばさらに見られるだろうし、もう諦めよう。
「何日間、王都にいるんですか?」
「特に決めてないけど、虹明花が見つかるまでかな」
「虹明花って何個も見つかるものなんですか?」
「い、いえ、虹明花はあまりあるものではありません」
「本では魔力が豊富な土地で生えやすいって〜」
やっぱりあのお花畑は魔力が豊富だったんだ。
あの植物の自生の仕方はおかしいからね。
「あ、あの、どうして王都に行くのに合わせて虹明花を探すんですか?」
「そもそも虹明花って見つかる物じゃないでしょ」
「そ、そうですね」
「じゃあその虹明花を見つけるためにどうするかって言ったら、虹明花の特徴を利用しようって思って」
「特徴って何ですか?」
そもそも虹明花はあること自体珍しく、闇雲に探すには骨が折れるどころの騒ぎではない。
「虹明花があると、魔物が大量発生するよね」
「お父さんが言うにはそうでしたね」
「すると冒険者ギルドに大量発生の話が入るから〜、発生した場所に向かおうってことでしょ〜」
「レイの言う通りで、王都なら他のどの街よりも沢山の情報が入ってきてそうだから、王都観光と虹明花は並行してやるんだ」
レイが珍しく鋭い。
「な、なるほど、だから合わせて探すんですね」
「まあ探すと言うよりかは、待つって感じになるけどね」
「都合良く生えてくれるかは運次第だね〜」
「そうだね」
出来るものなら本当にさっさと見つかって欲しい。
「ミオお姉ちゃん、今日見つけたらすぐ帰るんですか?」
アリスが恐る恐る聞いてくる。
今回のメイン目的は観光だよ。
「流石に何日か観光するつもりだけど、アリスはすぐ帰りたい?」
「いえ、いっぱい王都を見たいです!」
「なら早めに見つけても、何日か観光しようね」
別に心配しないでも、楽しむことが1番だからね。
北門に近づくにつれて牧場や畑などが見えてくる。
あまりこの辺りには来たことないけど、農業を主にやってる地区なのかな?
比較的人も少ない。
北門に到着すると、王都行きの馬車が近くで待機している。
「どうする?馬車で行く?」
「せっかく覚えたんだから飛んでいこ〜」
「そうだね。ただ早馬で1日かかるみたいだから、もしかしたら日を跨ぐかな?」
「出来れば夕方には着きたいですね」
「ただ夕方に着いても宿が取れないだろうから、一旦帰ることになるね」
王都に行くのに1日かかるの不便だね。
さっさと王都のどこかにステルス発信器を置いて転移出来るようにしよう。
「あ、あの、ミオさんの転移魔法は使えないんですか?」
「ごめんね、1回行ったところじゃないと使えないんだ」
「そ、そうなんですね、すみません」
「気にしないで」
うーん、ここの融通が利かないのが転移スキルの悪いところだね。
ただ冒険することなく好きなところに転移出来たら、それはそれで面白みが減るだろうから、融通が利かなくて良かったのかもしれない。
私達は北門を抜けようと門番に話しかける。
「王都に行きたいから通っていい?」
私は個人カードを見せる。
門番は私達の姿を見て驚く。
獣人族がいることに驚いているのと、小さい子供4人が外に出ようとしているのに驚いているのかな?
「それはいいがお嬢ちゃん達、馬車ならこっちだぞ」
そう言って馬車を指差す。
「あぁ、それは気にしないで」
「どういうことだ?王都に行くんだろう?」
「まあまあ、みんなも個人カードを見せてね」
「は〜い」
「あっはい、分かりました」
レイとマリンは個人カードを見せる。
「ミオお姉ちゃん、ちゃんと説明した方が」
「そうは言っても、説明のしようがないんだよね」
こればっかりは私も困っている。
出来るものなら説明したい。
アリスも仕方なさそうに個人カードを見せる。
「あぁ、出るのは分かったが、王都までは歩いて行ける距離ではないぞ」
「そうだね」
うーん、すんなり通してくれないな。
いつもならささっと出入り出来るのに。
周りに人がいないか確認する。
目の前の門番以外はこっちを見てないかな?
「仕方ないね。ちょっと目を閉じてもらっていい?」
「何故だ?」
「いいからいいから」
言われるがまま門番は目を閉じる。
私はマリンに視線を送る。
するとマリンは頷く。
「…なんだ?目を開けるぞ?」
そう言って門番が目を開ける。
「あれ?どこにいった!?」
門番は外の様子を見にいき、首を捻りながら戻ってくる。
私はマリンに向けて親指を立てる。
マリンはお辞儀で答える。
あぁ、アリス、そんな目をしないでおくれ。
私も上手くやりたかったよ。
レイはボーッとしてるね。
ほら、行くよ。
私達はユスティアを出て、北門の前で箒に跨り全員で空を飛んでいった。
門番は困った。
少女4人が街を出たことを記録するかいなか。




