540話 射程距離
どうしてミオお姉ちゃんは魔法が上手なんでしょうか?
前に魔法は始めて1年と言っていましたが、1年目の冒険者さんで、こんな上手に水魔法を扱っている方は見たことがありません。
まるで生き物みたいに、いえ、もうそれは土のネコちゃんですね!
今は魔法の射程距離の検査中で、ミオお姉ちゃんが出したネコちゃんが、ずっと先の方を走っています。
目で見えるままだったら大体100m先を走っていますが、本当はそうじゃないみたいです。
空間を圧縮、という?
そういう魔導具があるみたいで、本当の長さはその100倍はあるそうです。
つまりですよ、10倍して10倍だから、1kmで、10kmですかね?
ミオお姉ちゃんが作った土のネコちゃんは、10km先まで走り続けています。
それも、たったの3分で。
「あら、元気にやってるわね」
「えっ、えぇっ!メディア様!?それにアルルさんも、えっとえっと、こんにちは」
「ご機嫌ようアリスちゃん」
「アリスさん、お久しぶりです」
えー!
どうしてメディア様とアルルさんがいらっしゃるんですか!
すっごい緊張で、変な汗が出そうです……!
「ミオちゃんもご機嫌よう、あの子はどこまで行くのかしらね?」
「……」
「ミオちゃん?集中してるのかしら?」
ミオお姉ちゃん、無視したらダメですよっ……
って、そうでした、ミオお姉ちゃんの耳は聞こえていないんでした。
それに魔法が届く距離の検査中で、こっちを見る素振りもしません。
「そのですね、ミオお姉ちゃんは耳が聞こえなくなってしまっていて」
「あら、そうだったのね……」
「あっ、あのですね、そこまで大きなあれじゃないんですよ!ずっとではないので!」
冒険して戦って、耳が聞こえなくなっちゃったみたいな、そういう大きな……
いえ、大きなあれではありましたが!
それでも、カミラお姉ちゃんの魔法のおかげで、普段はしっかりと会話出来ていますから。
「確かに耳が聞こえなくなっちゃったみたいですが、カミラお姉ちゃんの魔法で!いつもは聞こえてるので、心配しないでください」
「そう、そう…… いえ、貴方達がそれで納得しているなら、私からかける言葉は必要ないわね」
「はいっ」
きっと、メディア様はいい人なんです。
あの目はお母さんの目と一緒で、国の人みんな、別大陸から来たミオお姉ちゃんやレイお姉ちゃんも、大事に思っているのが分かります。
だからミオお姉ちゃんの耳が聞こえなくなったのが、すごくショックに感じているのかもしれません。
「あらでも、今日はその魔法をカミラ様からかけて頂いていないのね?」
「そうみたいですね。どうしてかは私には分かりませんが……」
「そう、あの方の気まぐれかしらね」
結局、そこは分かっていませんが、気まぐれで間違いはないのかもしれません。
「話を変えるけれど、今のところ順調かしら?」
「検査ですか?何かに時間がかかるということもないですから、順調だと思います」
「それなら、冒険者ギルドが問題なく用意していたということね」
そういえば、メディア様は何をしに来たのでしょう?
冒険者ギルドの働きぶりを見に来たのでしょうかね?
「それにしても驚いたわね。通達の到着予定が今日の朝、ユスティアを出たのがその50分後、王都に着いたのがその3分後。朝の支度より都市間移動が早いのだから、てっきり記録台が故障を起こしたのかと思ったわ」
「あっ、あぁ、それはカミラお姉ちゃんが転移魔法で来たからですね」
「やっぱりそうなのね。相変わらず素晴らしい実力の持ち主なのね。貴方達の噂は聞き耳立てずとも、何かと耳に入ってくるのだから」
「ありがとうございます!」
私がすごいわけではないですが、ミオお姉ちゃんの代わりに、褒められたら素直に受け取っておきましょう。
「まぁ、その位の実力者でありながら全くランクが上がらないから、今日の適性検査を受けてもらっているのだけれどもね?」
「あっ、すみません…… 報告し忘れていた魔物は確かにありました。ただわざとではなくてですね!タイミングがたまたま悪かったと言いますか!何と言いますか!」
「いいのよいいの、責めるつもりはないわ。徹底管理などそもそも不可能、そういった齟齬がある前提でのシステムだもの」
魔石で倒した魔物の数を管理したりする、そのシステムの事でしょうか?
だからこそ、こういった検査を作っているというのは納得出来ますね。
「アリスちゃんはどうなのかしら?推定ランクは出てるの?」
「はい、まだ魔法関連の検査しかしていませんが、今のところはCランクですね」
「あら、すごいじゃないアリスちゃん。まだ10歳なのでしょう?10歳で傭兵になれるなんて、聞いた事ないわ。いい学び場に身を置けている証拠よ」
「それは本当にそう思います!ただ、まだ体も小さいですし、魔法よりも剣はまだまだですから、ランクはこれから下がっていくと」
「そうなの?なら、これが終わったら剣術も頑張らないとね!」
「はい、ありがとうございます!」
メディア様に御言葉をもらって、いったい全体、どういう事なのでしょうか……
夢のような話ですが、これが現実なのですから、人生というのは分からないものです。
ミオお姉ちゃんに会ってからというもの、分からない事が起き続けています。
「それにしても、あの猫はずっと走っているけれど、この検査はいつ終わるのかしら?アルルって、これ受けた事あるの?」
「はい、ございますよ。記憶違いでなければ、魔法の射程距離が無限大と想定される場合、距離の測定は5分で終了されます。恐らくもう少しかと」
「無限大、ふふっ、嘘みたいな言葉ね」
「いえ、現実ですよ。彼女がいるのですから」
アルルさんの視線はミオお姉ちゃんの方を見ています。
本当に嘘みたいな世界を平然とする、ミオお姉ちゃんは変な獣人族さんです。




