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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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539話 レイvsカミラ


「100m走だって〜、勝負ね〜?」

「ふむ、そうだな…… 方法は何であろうと良いのか?」

「はい、どのような移動方法でも問題ありません。静止状態から100m到達するまでの時間を測るのが目的ですから」


 妾は誇り高き吸血鬼であり、この獣人族如きに負ける訳がないが……

 だが侮ってよい相手でもない。

 レイは出鱈目(でたらめ)な程に肉体を強化し、人間の最高速度を優に超える初速で走り出すという、脳味噌が筋肉のような手段で結果を出す。


 瘴気の霧での転移は手段としてはなしではないが、転移までに若干の遅延がある。

 この100mという絶妙な距離がこの妾を悩ませる。

 転移が完遂する前に、レイが到達する可能性がある故に。

 10kmにでもしてくれれば、事は簡単に済むのだが。


 しかしだ、妾にはレイのような馬鹿げた馬力の脚はない。

 羽を使おうが初速の遅さは誤魔化せなければ、地面を蹴るのと空気を仰ぐのでは加速力は雲泥の差だ。


 そも、この測定は緊急時の離脱能力も加味しているはずだ、最速を出さなければ意味がない。


 では、答えは。


「わっ、カミラちゃん、これ戦うのじゃないよ〜?」

「構う必要はない。これが妾の全力が故な」


 血の代償を払う。

 手首を切ろうが首を切ろうが、痛みはない、心配されるような事はない。


 吸血鬼の力の源は血の浪費。

 血は魔力そのものであり、吸血鬼であれば血を最も高濃度の魔力に変換出来る。

 加え、体外に出た血は辿れるのであれば腕であり手であり指である。


 そして吸血鬼の肉体は血そのものからなる。


「今や妾には水魔法の加護がある、血の女王であると知れ」

「おぉ〜!負けないよ〜!」


 レイは随分と呑気な物だ、さっさと強化魔法をかけるのが先決であろうに。


 手首から血が流れる。

 鞭のようにうねらせ、手の平の一点に集中させる血の球を作る。

 今よりやる術は単純明快、球に血の線で妾と繋げる。

 空砲が聞こえ次第、ミオが水の球を飛ばすように、兎に角出来る限りの速度で血の球を飛ばす。


「位置について!」

「パン!!!」


 血の球が空気の抵抗により、周囲に血飛沫が飛ぶ。

 しかし、暴風を起こしながらスタートダッシュを決めた獣人族よりも速く、球はゴールへと向かっている。


 後は。

 一気に己の肉体を潰す。




――――――


 体が浮く。

 上手く力が入らないが、何とか立ってみせる。


 気が付けば、妾の前方に獣人族はいなかった。

 また、妾はゴールに到達していた。


「嘘でしょ〜!?今のどうやったの〜!?」


 レイは風よりも疾い肉体を2本の脚で無理矢理止めれば、驚愕の声を妾に聞かせる。

 痛快だが、此奴は負けた癖に悔しがらない点は面白くない。


「簡単に言えば、血の球に妾の肉体を移したのだ」


 血の操作は自由自在、それは血から成る肉体も例外ではない。

 肉体を血に還し、血の線を辿らせ、肉体を成す為の血の必要量を送る。

 後は血の球を肉体に変える。


 単純明快だが、水魔法の加護がない妾では、到底あの速度で血を操る事は出来ない。

 加えて、脳が潰れるが為に意識が一瞬と途切れるのが難点だ。

 緊急の移動手段としては優秀だが、周りの状況が不鮮明になるのは痛手と言えよう。


「あ〜、あれかな〜?雷属性の人が配線とか電気の線を移動するみたいなあれ〜?」

「お主の言っている事は分からないが、恐らくそうなのであろう」


 獣人族の大陸にはある、機械という代物。

 電気とやらで動くらしいが、妾は見たことがない故な。

 「電気みたいなあれ〜?」と言われても理解出来る訳がない。


「そういえばタイムは〜?」

「はい、こちらへどうぞ」


 よくもまぁ、通常の人間ではあり得ない記録を、こうも冷静に測定出来る物だ。


「は〜い。私は何秒だった〜?」

「レイさんは1.4秒です」

「すご〜!すご〜い!」


 それは凄いだろうな、100mで1.4秒、時速で260kmだ。

 馬で時速50kmから80km程度、人がやって良い速度ではない。


「カミラちゃんは〜?」

「カミラさんは0.8秒です」

「カミラちゃんもすごいね〜!」

「そうだな」


 100mで0.8秒、時速で450kmか。

 妾も大概だな。

 そも、血の球の速度が450kmとなるのか、移動手段に限らずとも、攻撃手段としても優秀と言えよう。


「次は何だ?」

「高跳びになります」

「私は魔法で飛べるよ〜」

「そも妾は吸血鬼、蝙蝠(こうもり)の羽がある故な。測定は不要だ」

「飛べる場合は、持久力は分かりますか?」

「え〜、どのくらい飛べるんだろ〜」

「妾は三日三晩と飛べるぞ」


 血が枯れるまでな。


「1日使って飛行魔法で来るとかはしたから〜、それぐらい〜?」

「なるほど…… 分かりました。次の種目に向かいましょう」


 多いな。

 冒険者とは窮地に立たされて初めて、実力が発揮される物だ。

 この状況で測定して、果たして意味があるのか疑問だな。

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