534話 薬の提案
また空いて申し訳ありまそん!
夏休み中ぇただ友達と遊んでるだけで、やめるとかはないです!
何事もコツコツと続けていきましょう!
「……!……ぁ…!」
……マリン?
マリンの声が聞こえる。
もう朝?
「うぅーん…… なに、どうしたの?」
脳みそを無理やり起こす。
休日の朝から起こしにくるってことは、大事な用事なのは間違いない。
「あ、あの、薬、出来ました……!」
「? よかったね」
薬出来たって褒めてもらいに来たのかな?
そんなレイみたいな。
「そ、そうではなくて、ですね……」
何やらもじもじと、言いづらそうなご様子。
一旦、体を起き上がらせて目を擦り、周りの様子を確かめる。
うん、別に何1つ変わらない私の部屋で、マリンが錠剤の詰まった瓶と紙束を持っているだけ。
「えっと、分かった、人体実験ね?」
こんな朝早くから人の体で臨床試験とは、魔導士も魔導士で大変で面倒くさい義務があるのかもしれない。
仕方ないね、付き合ってあげよう。
「い、いえ、その、初めて作った薬なので、ある意味ではそうなのですが……」
「私のため?」
「あっ、はい。その、ユニコーンの角を、頂いたので、耳の治療薬を……」
「耳の治療薬って、そっか。私って耳聞こえないから作ってくれたんだ」
ようやく理解出来た。
まず、私って耳が聞こえないんだった。
それでスタラっていう竜人族の医者を探してて。
でも、スタラに耳を治してもらう絶対的な理由はない。
その医者が唯一治せるかもってだけであって、マリンの薬で治せるなら治しちゃう方がいい。
「ま、まだ、完成したかは分かってないので…… 失敗しているかも、しれませんが……」
「いいよいいよ、やるだけやってみよう」
お互いの為にね。
まさか治療薬を失敗したら致死毒になるとか、そんな酷いことはないだろうし。
むしろ耳が聞こえる可能性が数パーセントあるってだけで試す価値がある。
「1日何回?何錠?」
「え、えっと、1度に3錠、4時間の間隔を開けて、ですかね」
マリンが紙束を見ながら答える。
思ったより飲まなきゃいけないというか、用法用量が鎮痛剤とか風邪薬に近く感じる。
聞こえなくなった耳を治すための薬、というのがそもそも訳が分からないとは言え、そんな何度も繰り返して治していくものなのかな?
「本当にあってる?」
「み、見ますか?」
「じゃあ、ちょっと借りるね」
マリンから紙束を受け取る。
どれどれ。
名前は「難聴に作用する万能薬の提案」と。
うーん……?
「これってもしかして、マリンの技術で成功どうこうじゃなくて、そもそもこの薬が有効かすら分からないってこと?」
「まぁ、はい、そうですね」
既存の薬を作れたかの実験と、新規の薬の効果が完成したかの実験では百も違わない?
「大丈夫なんだよね?それに『提案』の段階なのに、どうして用法用量決まってるの?」
「えっと、大丈夫かどうかは、大丈夫だとは、思います……」
不安になるね?
「それで、『提案』の段階で、という所なのですが、ある程度の効果が確定していたり、理論上に問題がないものではないと、この一覧に載ることが認可されない、ので……」
錬金魔法に理論が……?
いや、きっとあるんだろうね。
私が知らないだけで、星辰魔術とか魔法陣は理論の積み重ねみたいだし、錬金魔法だってきっとあるはず。
それにその紙束だって、検閲して正しくて有益な情報しか載せないようにする機関が刷ってるはずだから、変に身構える必要ないのかもね。
「分かった。とりあえず試してみよっか」
「す、すみません、ありがとうございます」
「いいからいいから」
マリンがペコペコと頭を下げるのをやめさせて、薬を水と一緒に流し込む。
ほのかに感じられる漢方っぽい臭い。
「効きそう!」って思ってれば、プラシーボ効果で治るかもしれないからね。
「よし。これってどれくらいで効果出始めるの?」
「え、えっと、すぐ、ですかね」
「すぐ?すぐなの?」
「は、はい」
「難聴に作用する万能薬の提案」にしっかり目を通して確認する。
本当にすぐ?
すぐそう?
すぐ……そう。
本当にすぐって書いてあるね。
魔法の影響ですぐ効いてるんだと思うけど、すぐ効く薬って薬なの?
すぐ効くっていいことかもしれなくても、毒って量で決まるから、少量ですぐに効く薬って怖いんだけど。
内心ちょっとだけドキドキしてるけど、平然を装ってマリンと話を続ける。
「あとは治ってるかの確認だね」
「そう、ですね。カ、カミラさんに、お願いしないと……」
難聴の私が音を聞けてるのも、カミラの魔法のおかげだからね。
という訳で、カミラの部屋の前に。
「あ、あのぉー……」
申し訳なさと恥ずかしさが合わさったような声でカミラを呼ぶ。
それが聞こえるような呼びかけじゃないから、私が加えて扉をノックする。
するとしばらくしてから、パジャマ姿のなんとも眠そうな吸血鬼が部屋から出てくる。
「お主ら、早朝から吸血鬼を起こして、何用だ?」
カミラが不機嫌そうに、扉のフレームに寄りかかる。




