531話 シフトベア戦と合流
今度こそ復活!
全ての最終課題を終え、自由を手にしました!
と言っても、明日はお友達と遊ぶので投稿はお休みしますが、これにて投稿再開します!
お待ちいただいた方はおまたせしました!
これからもよろしくお願いします!
テディベアを縦に裂くように伸びた異形の口が、私に向かって跳びかかる。
その恐怖は耐え難いもので、仮に対抗手段を持っていても冷静さを欠いてしまいそうになる。
踵を上げて臨戦態勢に、異形の口に向かって左手を伸ばして、魔力を込める。
イメージをすれば左手から、視界が歪む程の突風が巻き起こる。
ショットガンよりも威力を持ったそれがシフトベアに当たると、カエルが潰れるような音が聞こえた。
裂け目に沿うようにしてその人形のような肉体が翻り、血飛沫を上げ、簡単に2つに裂けて遠くへと吹き飛ばされる。
ここまで脆い魔物だとは思わなかった、ちょっとグロテスクで手の力が抜けそう。
ただそう弱ってる場合じゃない。
「ギュウアアアア!!!」
「うわっ!」
咄嗟に体を90度回して、ナイフを音の方向へと振り下ろし、跳びかかって来たシフトベアを斬り伏せる。
ナイフの通りは凄くいい、ただの生肉を斬ってるのと同じ感覚。
それがむしろ違和感に繋がって、生物なのに骨がないというのが、一層に不気味さを引き立たせる。
すぐに斬り伏せたそれに魔法で火をつければ、それはのたうち回り、すぐに活動が止まる。
複数での奇襲が強いのであって、単体性能は高くないタイプだね。
相手もこっちの技量が測れたのか、無闇やたらに襲ってくることはなく、睨み合いが始まる。
周囲で私を囲んでいるシフトベアの誰もが、私の前へと出てこない。
このまま引いてくれたらありがたいんだけど……
そんな訳もなく、このまま空を飛んで離脱した方がいいんじゃないかなって思い始める。
レイは余裕だとしても、アリスとマリンが襲われてたらと思うと気が気じゃない。
このまま睨み合いなら私は離脱させてもらうね。
次の行動を決めて、靴擦れを直すようにつま先で地面を叩き、自分に飛行魔法をかける。
瞬間、何かが地面から飛び出す。
前触れなく現れたそれは、肉肉しい内側とそこから生えた牙を立て、私の右足に強く噛みついた。
「グギュルル!グギュルル!」
「ぐうぁああい!!あああぁぁぁ!!!」
痛い痛い痛い!
骨が割り、神経を貫き、筋肉まで到達した牙が、唸り声に合わせて震える。
その震えに合わせて激痛が走り、勝手に涙が出てくる。
振り払おうとしようにも、右足を振り回す為の力を入れることが出来ない。
右足が使えなくなって、そのまま地面に両手をついて倒れ込む。
それに合わせるようにあらゆる場所からシフトベアが飛び出してくる。
それらは牙であったり爪であったり腕であったり、様々な異常発達をしており、何かしらの殺傷方法を持ち合わせている。
このままだと本当に殺される。
被虐体質はいつもの事、痛みも回復魔法で一瞬の話。
覚悟を決めて、胸の中心に魔力を溜め込む。
跳びかかってくるシフトベアの鉤爪が、私の体を触れようとした瞬間に、一気に魔力を爆発させる。
そして肌を撫でたのは鋭い爪ではなく、私の魔術による冷気だった。
あらゆるシフトベアは、爆発によって拡散された魔力を浴び、接触と同時に氷結が起こる。
氷柱が後方へと伸び、木に突き刺さり、ありとあらゆるシフトベアが空中で凍結する。
右足に噛み付いていたシフトベアも活動が一瞬にして止まる。
「くぁっ、ぐっ、はぁ……」
勝手に喘鳴が漏れる。
探知魔法で見る限り、私以外の生きている何かは見当たらない。
一旦は安全、だけど……
流石に地下から奇襲は予想出来なかった……
右足に視線を移す。
大量の血が、牙に噛まれたところから流れ滴っている。
どうしてこんな痛い思いしなきゃいけないの……
異世界転移も楽じゃないというか、私のやり方が悪いだけ……?
「はぁ、どうしよう……」
噛み付いているシフトベアは完璧に凍結してるけど、外すのが難しい。
叩いて砕こうにもその振動で刺激されて、痛みに耐えられない。
引っ張って抜くにも、血の気が引いて上手く手の力が入らない。
指を切り落とすのと訳が違って、行動して持続する強い痛みを耐えないといけないっていうのが、本当に辛い。
そこまで強い精神力はない。
「助けて、レイ」
意味もなく名前を呼んでみる。
……呼び声虚しく。
「ミオちゃ〜〜〜!」
という訳でもなく、遠くから愉快な声が聞こえてくる。
聞こえたのかな?
いやまさか。
とにかく、レイが近くにいてくれて助かった。
「レイー、こっちー!」
「ミオちゃ〜〜ん!!」
さっきよりも一段と嬉しそうな声がこっちにやって来て、それが私の目の前で着地する。
「よっ、と!って、ミオちゃん怪我してるじゃん!いたいよね〜、ぜったいいたいよね〜?」
「痛い、本当に痛くてね……」
レイが心配そうに右足を見てくる。
もう心配の通り、痛すぎて仕方がない。
シフトベアの何本もの牙が、右足の深くまで突き刺さってる。
「え〜っと、え〜〜〜っと、どうしよ〜?」
レイが分かりやすく頭を抱えながら、周りをキョロキョロ見始める。
それはそうだよね、医者って訳じゃないからね。
正しい牙の抜き方なんて誰も分からない。
「とりあえず、支えるから、牙を斬って欲しいかな」
土魔法を使って、牙を支える。
とりあえずバラバラに抜けるようにしないと、抜くのが大変だからね。
「レイの剣、信じてるから」
「おぉあ〜、わかった!」
私はレイが完璧な覚悟で全ての牙を斬れると信じている。
レイの剣は、力で無理やり斬るんじゃなくて、技で斬っている。
斬れやすい角度と力の加え方と速さを理解してるから、牙に強い力が加わらない、つまり足に痛みが伝達しづらい、はず……!
レイはとにかく私に言われて、アロンダイトを手に持ち、右足に向かって剣を構える。
「それじゃあ、私が目をつ」
そう言いながら瞬きをした一瞬で、レイは剣を帯刀していた。
斬ったのは全く見えなかった。
残像すらも残さず、それはその一瞬で行われた。
「はいっ、どうっ?」
全く右足は痛くない。
いや、刺さってる分は凄く痛いんだけど、牙が揺れて痛いとかは全くない。
私に噛み付いていたシフトベアは、滑るようにして右足から離れた。
「すごくいい感じ、ありがと」
「えへへ〜、どういたしまして〜。抜くのはだいじょうぶ〜?」
「大丈夫だよ。私でやるから」
自分の手には上手く力を入れられない。
なら、自分以外の手にやらせればいい。
「聡明なる腕よ」
レイナさんが使っていたゴーレム魔術を唱えれば、地面のあらゆる場所が浮き上がり、そこから土の腕が姿を表す。
「おわおわっ!」
レイが邪魔にならないように下る。
土の腕達は私の右足に刺さっている牙をそれぞれ掴む。
痛みに耐える為、適当なタオルを取り出して強く噛む。
「ふうぅ、うぐうぅぅぅ!!!」
目が開く。
痛みに気が遠くなる。
土の腕が鳴る音に合わせて、激痛が右足を走り回る。
3秒も経てば全ての牙を抜き終える。
それでもその3秒が無限に感じられる地獄で、痛覚が脳を侵し、私の正気を奪っていく。
大量の血も流れ落ち、足が痺れ、熱がどんどんとなくなっていく。
やがて無限は終わりを告げ、土の腕の音がなくなる。
私は作業が終わったことを理解して、右足に出来る限りの回復魔法をかける。
もう自分の右足に目を向けられない。
「どうなってる……?」
「ちょっとずつ治ってるかな〜?手伝おっか〜?」
「出来たらお願い」
「りょ〜かい!」
一旦、右足の治療に専念する。




