530話 敵とは誰か
復活!!!
ではありませんが、何とか余裕を探して書けました。
まだまだ期末が終わってないので、安定するまでしばしお待ちを!
「ごめん、ちょっと離れるね」
「えっあっ、はい」
「どこか行くんですか?」
「ちょっとレイを探しに」
これは嘘。
山を登っていったレイを探すなんて、無茶も無茶。
「お、お気をつけて」
「すぐもどって来てくださいねー」
「うん、なるべくね」
もし1人、また1人と山の中へ消えて帰ってこなかったら、2人は何を思うんだろう?
すごく心配するんだろうし、それでカミラに助けを求めるから、私とレイは見つけられはするかな?
でも私が帰ることが出来ないってことは、即ち死ってことだからね。
絶対に生きて帰るよ、いつも通りにね。
私はアリスとマリンから離れ、シフトベアの元に戻る。
膝下ぐらいしかないこの魔物は、私を導くように斜面の上へと向かっていく。
この魔物は何が目的で、何のためにこの山を守っているのか。
どう見たってぬいぐるみで、自然発生した魔物には見えない。
この世界ではぬいぐるみの魔物がいるのは普通なのかもしれないけどね?
もしこれで解体したら、中身は肉が詰まってますとかだったら、この魔物を生み出した神様の存在を疑いたくなる。
「その強い敵っていうのは、どんな感じなの?」
何で人形に話しかけるんだろうね?
このシフトベアは人の言葉を理解出来ても、発声器官がないから身振り手振りでしか意思疎通をすることは出来ない。
「そうだなぁ、どのくらい強い?」
シフトベアはその短い腕を振り回して、一生懸命に表現しようとしている。
うん、かなり強いのは分かったよ。
シフトベアは迷う様子もなく、私の2歩先を歩いている。
足が短いシフトベアは小走りなのに、ゆっくりめで歩いても追いつけるぐらい遅い。
いつ着くことになるのか分からない。
のんびり歩くのはもったいないから、先に探知魔法で探りを……
いつの間にか、他のシフトベアも私達の周りを見えない所で並走している。
向かっている先は斜面の上。
連携が取れる魔物なんだろうね、シフトベア同士で意思疎通は取れてるように思う。
そんな事を考えながら、探知魔法を進行方向の先へ先へと伸ばしていく。
うーん……
そのシフトベアが言う敵っていうのはどこにいるのやら、全く見つからない。
相当この山登らないといけないのかな?
もし全速力で山の頂上へと駆け抜けていったレイを敵と見てるなら、最悪の場合は頂上までいかないといけないよ?
いや、レイを敵と見てる……?
ふと、嫌な考えが頭に浮かぶ。
まさかレイが負けるとは思っていない。
そうじゃなくて、獣人族を敵と見なしているなら?
そう考えちゃってから、周囲で並走しているシフトベアの事が気になり始める。
こっちの方を見てるような気がしてならない。
ここはカマかけてみる?
そもそも魔物を信用してる事がおかしな話で、ちゃんと敵が味方か見定めないと。
何の前触れもなく立ち止まって見る。
私の2歩先を歩いているシフトベアはそれに気が付いていなくて、でも並走してる何匹かは足を止めている。
やっぱり私の事を確認しながら走ってたのは間違いない。
そして単に足音がなくて気が付いたのか、テレパシーでも感じ取ったのか、走り続けていた全てのシフトベアが足を止めた。
今、私の周りにいるのは、えーっと……
17匹、数が多い。
2歩先ベアが、私の方へと近づいてくる。
私はそれに合わせて後ろに距離を取る。
下り斜面を後ろ歩きするのは少し怖いね、ただ今はそれよりもこの連携取る小さなテディベアの方が怖い。
後ろに1歩下がるのに合わせて、周囲のシフトベアも下がっている。
加えて、囲うようにしてシフトベアが陣形を組み始めている。
うん、分かった。
これは敵だね!
二歩先ベアだけでは分からないけど、探知魔法のおかげで全てのシフトベアの考えている事が分かったよ。
いつも通り、ナイフをアイテムボックスから取り出して、左手に魔力を込める。
さて、相手は17匹的は小さい。
周囲は森、自然環境を守るために出来れば全体魔法は使いたくないけど、1体1体捌いていたらいつかは限界が来る。
どこかで距離を取って、シフトベア達が一直線に向かってくるようにしたい。
さぁ、そっちの奇襲を皮切りに、勝負は始まるんだから、来るなら早く来てよ!
左手を前に出し右手でナイフを構え、2歩先ベアから距離を取り続ける。
流石に2歩先ベアは何もしてこない。
ただ探知魔法で左後ろにいる1体のシフトベアの短い腕の先から、細く鋭い爪のような物を生やしたのが見える。
それに合わせるように私の後ろにいるシフトベア達は臨戦態勢に入ったのか、どんどんと爪を生やしていく。
やがて全てのシフトベアが爪を出し終えた頃、2歩先ベアは立ち止まり、体の中央から裂け目が現れる。
その内側は吐き気を催す程に肉肉しく、獲物を捕食するための牙が何本も生えていた。
そして何かの合図を送るかのように。
「ギュウアアアア!!!」
森の中に怪物のようなテディベアの魔物の咆哮が響き渡った。




