525話 冠士は見てる
7月16日(金)はお休みさせて頂きます。
期末課題に苦しんでいます、頑張ります……
「ウソ、出来ちゃうんだ」
「どういうことですか?飛行魔法なら、もうずっとできてますよ?」
私だってこんな仮説はさっさと蹴っ飛ばして、堅実に強化魔法を教えてあげた方がいいと思ったよ?
ただこっちの方が出来ちゃうってなると、流石にゲーマーとして放ってはおけない。
アリスとちょっと噛み合ってないけど、私は興奮が止まらないよ!
「あの、ミオさん、いったい何を……」
「今アリスの魔力を固定して、消費できないようにしてるんだけど」
私は今、飛行魔法で飛んでいるアリスの手を握っている。
「そんなことできるんですか?」
「魔力が体の中で流れてないの、分かるでしょ?」
「ほわぁ、言われてみれば!」
珍しい感嘆詞が飛び出した所で、私が何をしたのかを解説を。
私がアリスにかけた魔法、魔法か怪しい所だけど、気付かれないように私の魔力を細く伝わらせてアリスの魔力を感知。
そしてツタのように絡み付かせて、アリスの魔力を止める。
この辺は魔力を感じることが出来る人にしか出来ない荒技だけど、感じさえすればイメージも簡単に出来る。
結果としてアリスの中の魔力を巡らせず、魔法を使いづらい状態に。
そこから私の魔力で血管のようにコーティングして、完璧にアリスの魔力が外に出ないように拘束した、って表現がイメージに近しいかな?
これをアリスにかけたってことは、アリスは魔力を消費出来ない。
それなのに今、アリスは空を飛んでいる。
私は飛行魔法かけてないよ?
外から魔力がアリスに来ているのも感じないから、こればっかりはアリスが飛行魔法をかけてるに他ならない。
アリスは魔力を消費出来ないのに、飛行魔法を使えている。
これは偉業だよ!?
2000年以上実現出来てない魔法、10歳の普通の女の子が簡単にやってのけてる!
才能が羨ましいのはさておき、色々な立場として本当に嬉しい事が分かったね!
「でも、それがどうかしたんですか?」
「どうも何も、アリスは本当に魔法の才能があるって証明されたんだよ!」
「へぇ、なにかすごいんですね!」
あえて説明足らずのまま、喜びを分かち合う。
私が嬉しそうにするから、アリスが嬉しそうに笑う、それを見て私は嬉しい。
素晴らしい永久機関、学会に発表したいぐらい。
「え、つ、つまり、ほ、本当に……?」
「本当も本当!やっぱり『魔法をかければ効果は永続』と『魔法が継続中の時は魔力が勝手に消費される』ってイメージをする人は、後ろのイメージを消せばずっと魔法を使い続けられるんだよ!」
「え、いえ、え、え……?だ、だって、2000年ですよ……?そ、それに、試されていても、おかしくなさそうな方法で……」
マリンは頭を抱えてしまう。
研究職だとやっぱり私達とは考え方が違うみたい。
2000年の研究が一般人の何でもないひらめきで解決した時、脳がパンクしちゃうのかもしれない。
何となく気持ちは分かるね。
「ちょいと失礼!話は聞かせてもらった!」
「誰っ!?」
「ちょままま、僕だって僕!ルシフェルお兄さんだ!」
咄嗟に出た左手に魔力を込めたぐらいで、話しかけて来た男がルシフェルであることを認識する。
危ない、グレートセブンに向かって氷魔法を飛ばす所だった。
アリスはふわふわゆっくりと地面に降り、マリンはすかさずに頭を下げている。
「そう畏まられちゃあ気恥ずかしいものだよマリン君、頭を上げて、ほらほら」
「す、すみません……」
アリスは目を逸らしながら、顔を上げる。
「それでどうしたの、まさかストーカー?」
「そうだねぇ、人によってはそう言うのかな?」
言われちゃダメなんだよ?
通報されちゃうよ?
「いやほらさ、魔法を教えるなんて面白い所を見つけたらぁさ、見たくなっちゃう気持ちが抑えられなくて。てへ」
厳しいって、大の大人が「てへ」は。
「遠くから見てたんですよね?どうして飛び出して来たんですか?」
「そりゃもう、面白そうだったからだよ!」
「なるほど、そうだったんですね」
いやいや、「なるほど」じゃないよ?
イマイチ納得出来なくない?
「それでミオ君が言っていたその仮定、もちろん考えられた事がある仮定だとも!」
「そうなんだ。それじゃあ何か間違ってる?」
「いやぁ、僕としても間違ってると言いたかった所なんだけれど、こればっかりはどうも非の打ち所がない」
ルシフェルが薄いガラスのような物を取り出して、それ越しにアリスを見る。
「ミオ君の魔法によって周囲の魔法の流れが消えている。自然の魔法すらもね。その中でアリス君から魔力が減ってる様子がない。不思議だ……」
何で飛び出して来たんだろう?
「話は聞かせてもらった!」って、解決出来る人が言う台詞だよ?
「ただ結論から言わせてみれば、世界再定義とは違うねぇ。こればっかりはまた別の魔法と見える。んじゃ!」
そう言った瞬間、ルシフェルが消える。
「え?ルシフェルさん?ルシフェルさん!?」
「嘘でしょ、言うことそれだけ!?」
「……あ、あれ……?
何しに来たのあのグレートセブン。
私達は困惑したまま、ただただ時間が進むだけだった。




