523話 世界再定義
「持ち上げるのは出来るんですよ。でも待ち続けるのが辛いです!」
「うーん、やっぱりダメなのかなぁ?」
土魔法で作られた大きな石を、アリスが頑張って持ち上げる。
そこまでは余裕ありそうなんだけど、身体強化を維持し続けるのが大変みたいで、どんどんと顔が辛そうに……
そして勢いよく石を叩きつける。
「んっ、はぁー…… 無理です!」
アリスが胸の前で手で大袈裟にバツを作る。
悲しんでる感じじゃないから、教えてる身からすればそこまで罪悪感を感じない。
それでもやっぱり、アリスには強くなって欲しい。
やっぱり無理に意識して強化しようとするから、時間が経過すればする程イメージが鈍っていくんだと思う。
無意識がやってくれる最低限のイメージで、私やレイのレベルの強化魔法は出来なくても、やっぱり無意識で出来るようになって欲しい。
「とりあえず、筋肉に強化魔法をかけるタイプの身体強化のやり方はわかった?」
「多分!大丈夫です!」
「あっ、わ、私は、また後で……」
アリスは自信あるみたい、マリンはまだまだ筋肉について勉強中。
「それじゃあ、無意識での魔法の使い方について教えていくね」
教えられる自信はないけどね。
「無意識に魔力を使い続けられない理由として、もうずっと同じことでごめんねって気持ちだけど、思い込みというイメージで鍵をかけちゃってるからなんだと思うんだ」
「そうですね、ミオお姉ちゃんよく言ってます」
それが純粋な肯定ってつもりなのは分かるけど、それしか知見がないって指摘でもあるからちょっと心が痛い。
チクチク言葉だね。
「アリスが魔力を無意識に使い続けられないって先入観があって、強化魔法が無意識に使えないと思うんだ。それでも飛行魔法を無意識的に使えるって事は…… ん、あれ待って?」
自分で言ってて、新たな仮定が生まれる。
この仮定が本当なら、魔法の革命が起きるかもしれない。
絶対に机上の空論だけど、エネルギー革命が起きるよ。
もし、アリスの飛行魔法のイメージの仕組みが「1回魔力を使えば魔力切れまで空を飛べる」+「空を飛んでいる間に魔力は勝手に消費される」って分離されてたなら?
「空を飛んでいる間に魔力は勝手に消費される」のイメージ部分を取り除けば、永遠に空を飛べることにならない?
実はこの世界の魔力、エネルギー保存則を無視出来る力の概念だったら?
等価交換として魔力をし払って魔法を行使してたけど、魔法は世界の法則を書き換えれるものであり、「1回飛行魔法を使えば、それは飛行している物体だ」って世界のルールを書き換えを本当に出来たなら?
「ミオお姉ちゃん、どうかしましたか?」
「……あ、あの……?」
「ごめんね、ちょっと待ってね」
そもそも「魔法を使うにはイメージが必須」って大前提があるのに、「魔法は無意識では使われない」ってイメージを持ったアリスが「無意識で魔法を使える」理由が分からない。
この仮定の方で考えた方が理屈が通る。
ゲームの世界とは全然違う、ゲームバランスの壊れっぷり!
「アリスって、飛行魔法は1回かければ空を飛び続けられると思ったんだよね?」
「はいっ、さっきまでは。そうでしたよね?」
「えっ、わっ、あっ、あってるかと……」
アリスは元気よく肯定した後に流れるようにマリンにパスしたから、マリンがしどろもどろに答える。
だよね、アリスにはその前提があった。
そして無意識というよりも潜在意識、思考の根底に「空を飛んでいる間に魔力は勝手に消費される」があったせいで、魔力を消費していたのかもしれない。
これが本当に本当なら、魔法を教えるものとしてこの才能を摘んじゃいけない。
後半の潜在意識だけ取り除かないと。
「ごめんね、さっきまで嘘ついてた」
「えっ!?なんですかそれ!」
アリスが目を丸くして聞いてくる、当然の反応。
加えてマリンが心配そうに目を向けてくる。
やめてやめて、私も心配なんだから。
「強化魔法の話とか無意識がどうって話は嘘じゃないよ?そうじゃなくてね、アリスが無意識に飛行魔法を使ってたってところ」
「なるほど?」
「そ、それは、つまり……?」
「もしね、もしだよ?アリスの飛行魔法は、ずっと飛べるようになる魔法だったら?」
私が真剣に言うものだから、アリスとマリンはその言葉について深く考え始める。
そして、よりこの世界の魔法について詳しいマリンが口を開く。
「い、いえ、そ、それはありえないはずです…!」
「どうして?」
「す、既にそういった研究は、数多くあります。え、えっと、『世界再定義』という議題で、星辰魔術が残っていた頃からの、古い文献もあるぐらいです… こ、これです」
青いアイテムボックスから1枚の本が取り出し、マリンが私に差し出してくる。
タイトルはその通り、世界再定義。
あらすじとかサラッと見た感じ、私がアリスにやらせたい事と一緒の内容。
魔法を使って、物理法則とか性質を永久的に変える技術。
「で、でも、実際に形になったのは、星辰魔術を介した場合だけです。大災害以降、えっと、その手段は失われています……」
何となく分かるね、星辰魔術をルシフェルが封印したのは世界再定義って分類なんだと思う。
ただそれが叶ったのは、膨大な魔力を宇宙の星々から借りることが出来た星辰魔術だけで、他の手段は見つかってない。
ましてやアリスのような見習い魔法使いが、出来るような所業ではないと、マリンは言いたいんだろうね。
「でもさマリン。とりあえずやってみないと分からないじゃん?」
「で、ですが……」
そんなのは無駄で、2000年以上の歴史がそれを物語っている。
マリンはわざわざ口には出さないでいてくれた。
もしかしたら出来るかもしれない、という気持ちを持ってくれた。
そしてアリスはずっとキョトンとしている。
「よしアリス、ちょっと授業内容を変更しよっか」
「いいんですか?課題はなしですか?」
「課題は後でやるよ?それとは別に、今からすごく大事なことを教えるから」
アリスはやる気満々の私と、固唾を飲んで見守るマリンを見て、少しことがおかしくなっていることに気付いたように、私とマリンに視線を行き来させる。
そして文句は言わず、黙って私の話に耳を傾けてくれる。




