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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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521話 能天気な獣人族


「うぉ〜、やっぱり高いところは綺麗でいいね〜」


 ピンク色の獣人族は山頂から望める景色を見て、感嘆していた。

 登頂までに所用した時間は2分21秒だった。


「う〜ん、余裕あるね〜」


 降りるまでに31秒しか残されていないが、あと数回繰り返せば3分で往復出来ると直感したのだ。


 1度仰向けになり、山頂を楽しむことに決めた獣人族。


 涼しい風がケモ耳をくすぐる。

 猛禽類がけたたましく鳴く声が、その耳に届く。


「鳥さんも元気だね〜」


 獣人族はとてものんびりした性格だった。

 いや、正しくはのんびり出来る性格だった。


 彼女自身は忙しない日常が好きだが、それとは別にのんびりした日にも趣を感じれるのだ。


「ねむ〜」


 ここは鉱山の山脈の一角、それほど標高は高くない。

 少し涼しいぐらいで、丸まって横になってしまえば、その心地よさに眠りについてしまうだろう。

 そして獣人族は用意周到だった。


「タオルタオル〜」


 そう呟きながら未知の空間から自身よりも大きなタオルケットを取り出し、それを自分に被せてしまう。


「うぅ〜、ぬくぬく〜」


 そう。

 この獣人族、この暖かい日差しと涼しい風、タオルケットに包まれ、自然を感じられる豊かな音達の中で、昼寝をしようとしている。

 課題のことは忘れていなかったが、彼女にとっては無理難題ではなかったがために、このような判断を下したのだ。


「お昼になったら起きよ〜」


 彼女は起きることに関しては器用ではない。

 起きたい時間に自然に起きれる特殊能力も魔法も持ってはいない。


 このまま寝れば、心配で探しにきたもう1人の獣人族に叩き起こされるのがオチ。

 だが今回はそうではなかった。


「ピュー!!!」

「う〜……」


 またどこからか猛禽類の鳴き声が聞こえる。

 ここは山脈で、色々な場所に音が反射しているため、性格な位置を捉えるのは獣人族の彼女ですら難しかった。

 そして、それよりも単純に寝るために探そうとしなかった。


 まさかこんなピンク色の物体に襲いかかってくる鳥がいようか。

 それに山の頂上、下への滑空だって難しい。

 いくら猛禽類とはいえ、ここからダイブしてくるはすが。


「んみゃっ!!!こら〜〜〜!!!」


 恐ろしく早い手付きで、獣人族のタオルケットが何者かによって盗まれてしまった。

 それは翼をはためかせ、上空へとすぐに逃げ去ろうとしている。


「んも〜!」


 剣を異空間から取り出され、それが輝きを放つ。

 異世界に存在する狙撃銃と、歌劇に登場する7つの魔弾が現れる。

 5発は弾倉に込められ、残り2発は地面に落下して軽快な金属音を鳴らす。


 銃身を持ち上げ、スコープ越しから空飛ぶ獲物に狙いを定める。


「魔物かな〜?ミオちゃ」


 獣人族は周りをキョロキョロと見回す。

 誰に話しかけているのか、周辺には誰にもいないのに。


「う〜んと、え〜っと、回復弾出来るかな〜?」


 この獣人族の中では、冒険者は魔物は倒していいが動物は倒してはいけない。

 そしてその目では分からなかったが、事実として、タオルケットを奪った犯人は野生のトンビであり、ごく一般的な動物だ。


 これは余談だが、冒険者は動物も狩る。

 弱肉強食を最前線でやる職業なのだから、命は平等に扱わなければならない。

 それが食うか食われるかの世界の、礼節なのだ。


「あんまり動かないでね〜」


 獣人族は飛んでいるトンビに対して無茶な注文をつけながら、銃弾に魔力を込める。

 必中の魔弾は緑色の粒子を帯び、準備を終えた山頂に一瞬だけ静寂が訪れる。


「ダン!」


 瞬間、強烈な破裂音が鳴り響く。

 銃口から閃光と煙が漏れ、獣人族はスコープ越しにトンビを見続ける。


 トンビはバランスを崩してよろめく。


 弾丸は命中し、接触の瞬間に緑色の粒子に弾ける。

 しかし血は出ていない、損傷はない。

 トンビが驚きタオルケットを落とし、そのまま飛び去ってしまう。


 タオルケットはゆっくりとまではいかないが、空気抵抗を受けながら森へ森へと落ちていく。


「いくぞ〜!」


 獣人族は2発の弾丸を拾い上げ、それと同時に狙撃銃と魔弾は光を帯び、元の剣に戻る。

 それは異空間に消え去る。


「はぁ〜……」


 獣人族は息を吐きながら、ゆっくりと体を前に倒す。

 しかしつま先は地面から離さず、体を縮こまらせていく。


「すぅ〜〜〜……」


 大きく息を吸い込む。

 両手を地面につき、落下するタオルケットに狙いを定める。


 バァン!


 まるで飛びつく猫のような動きで、獣人族は空中に飛び出す。

 蹴った地面がその力に耐えきれず陥没し、地面の土が高くに舞い上がる。

 決して人間がなせる所業ではない。


 衝突するように、落下するタオルケットを抱き抱える。

 獣人族は余り深く考える性格ではなかったから、これからどうなるかは全く考えていなかったが、少なくともこのスピードであれば山脈は抜けることになる。


 原則、西から東へとドロンドイ山脈を抜ける時、気をつけなければいけないことがある。


 まず、未踏の地が多いこと。

 もちろん街はあるが、未踏とされる場所に生息する魔物が西側よりも強く、Cランクパーティ以上でなければ踏み入ってはならないとされている。

 負傷しても冒険者は全くおらず、助けも中々来ない。


 次に、禁足地が近いこと。

 宇宙から飛来した邪神達が降り立った、象牙の塔が建っている地域で、簡単に踏み入ってはならない。

 帰らずの者も少なくない。


 最後に、ある幻獣がいること。

 幻獣は多くの恩寵派を守るための存在だが、無礼を働く者には容赦をしない。

 守護している領域に礼儀のない侵入の仕方をすれば、守護者として襲う可能性がある。


 獣人族はバランスを正し、全身に強化魔法をかけて、2000メートル降下をパラシュートなしで着地……


「ぐぇっ、うぇっ、ぶっ、べ!」


 獣人族は何回かバウンドしながら、樹林の中に侵入する。

 綺麗な着地とは全く言えず、決して無事ではない衝撃がその小さな体に打ち付けられる。

 最終的には滑るように転がるようにして、何とか止まることに成功する。


「いたた〜」


 しかしこの獣人族、全くの無事である。

 かすり傷も1つなく、ドレスも一切汚れていない。

 恐るべきかな強化魔法、恐ろしきかな獣人族。


「あれ〜、ここどこだろ〜?」


 さて、この獣人族に何が待ち受けているのか。

 それは3つ目の黒い神のみぞ知る……

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