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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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517話 揺れる尻尾


 また遅れました!

 すみません!


「スーナ!」

「わっ」


 リビングに戻るなり、スーナが飛びついてくる。

 大した力ではないけど、この骨がないぐらいに柔らかい体、反射的に傷つけずに受け止めようとするのは難しい。

 壁を支えにして優しく受け止める。


「どうしたの?」

「ミ、オ?」


 スーナが首を傾げながら聞いてくる。


「合ってるよ、ミオ」

「ミオ!ミオ!」


 カーペットの上で寝っ転がってるレイ、すぐ近くのソファに座っているアリスの元まで、スーナが手を引っ張ってくる。

 2人ともだらだらしていて、何となくお母さんの気持ちが分かる。


「さっきまでルールエに居て潮風に当たってたんだから、お風呂入ってきたら?」

「え〜?まだお昼だよ〜?」

「ゴワゴワしてないですよ、ほら」


 アリスがニコニコしながら、綺麗な金髪を手ぐしでならす。

 通りはいいし、そうなのかもしれないけど……

 そうじゃなくて身体についてる潮風の汚れで、部屋が汚れるのがね?


「うーん…… でもそうだね、座るぐらいないっか」


 甘いなぁ。


「う〜ん?なにか言いたいことでもあるのかにゃ〜?」


 レイが寝っ転がったまま、煽るように尻尾を揺らしてくる。

 なにその語尾。


「オォー!」


 スーナが歓声を上げる。

 まるで猫のように尻尾を追いかけ、レイが笑いながら、おちょくりながら遊んであげている。

 本当に私の尻尾と違って器用だよね。


「あんまりカーペット汚さないでね?」

「わかってるって〜」


 本当に分かってるか分からない返事が返ってくる。


「わぁー!」


 全く私達の話も気にも止めず、レイの上を行き来しながら尻尾を捕まえようとしている。

 運動神経いいね、いい冒険者になれそう。


「そうですミオさん、今日からお休み期間ですか?」

「うん、そうなるね。また1週間ぐらいかな?」

「おぉ〜、どこか行く予定ある〜?」

「休みだよ、休み」

「休みだから遊びに行くんでしょ〜?」


 んまぁー、確かにね?


「王都とかですかね?エールさんのカフェとか行きませんか?」

「おぉ〜、いいねぇ〜!」


 王都にあるエルフの店主の隠れ家的カフェ。

 今思えば懐かしい、行くのはありかもね。


「でもそうだ。マリンの素材集めに行くけど、行く?」

「うぃ〜ね〜」

「森に行くんですか?あれでも、フェンリルの森には入れないですよね?」


 ルールエから帰ってくる途中、チラッとだけフェンリルの森の様子を見たけど、まだ色の断片が残っていて、森の入り口には立ち入り禁止の甲板が立ち並んでいた。


「フェンリルの森は入れないね。だから行くとしたら、マリンが住んでたドロンドイ鉱山側の森じゃない?」


 マリンが勝手に住んでた小屋があった森。

 ステルス発信器が残ってるから、転移は出来る。


「そこはマリンお姉ちゃんが決めるんですか?」

「そうだね。もしかしたら妖精の森かもしれないし」

「おぁ〜、妖精の森もいいな〜!」

「いいじゃん、王都も妖精の森も行ったら?」

「妖精の森はミオちゃんいないと入れないよ〜」


 あれ、転移魔法使えないんだっけ?


「まぁ、言ってくれたら連れて行ってあげるよ」

「あれはやらないんですか?魔法授業とか」

「そうだね、やろっか」

「剣もやる〜?」

「剣もやりましょう!強化魔法も使えるようになりましたから、短剣をもっと振れるようになってるかもしれません」

「なってたらいいね〜」


 レイはだらだらしたまま、尻尾は休めずにいる。

 それに、言葉の裏には何かあるようでないような言い草。

 アリスはそれを純粋に受け止めてそうで、まっすぐに遊ばれてはスーナを見ていた。


 強い力が使えるっていうのは剣術の近道ではあっても、力が強くなっただけでは実力にはならない。

 剣術は技術の世界、その辺りはレイがよく教えてくれるはず。


「スージーは何か困ったこととかない?」

「特にこれといってありませんよ」


 スージーは本を読んでいて、視線を上げてニッコリと笑いかけてくる。


「ねぇねぇ〜、なによんでるの〜?」

「ユスティアの歴史についてですよ」

「へぇ〜」


 一気にレイの声から興味の色が消える。

 本当に分かりやすいよね、勉強が嫌いで。


「そうだレイ、また余裕見て獣人族の大陸に戻るよ」

「げっ」


 「げっ」じゃない。

 現実世界も大切でしょ、勉強を疎かにさせる訳にはいかないからね。


「獣人族の大陸のお医者さんでも、ミオお姉ちゃんの耳は治せないんですか?」

「うーん、ちょっと難しそう」


 現実世界の医療って、もしかしたら鼓膜が破れた耳でも治してくれるのかな?

 でも、実際に獣人族の大陸で治る訳じゃないし、現実での私は鼓膜破れてないから関係ない話だもんね。


「私を飢餓状態から治して頂きましたが、回復魔法は使えるのですよね?」


 スージーも話に入ってくる。


「使えるけど、耳治せるかはちょっとね」


 レントゲンとかでどう傷ついてるか見えてる状態ならね、やれるかもしれないけど。

 変に治っちゃったら嫌だから、自分からはできない。


「私も使えるよ〜」

「それだったらレイさんが治したら良いのではないですか?」

「いや〜、いやいや〜、いやいやいや〜」

「何それ、どういう感情?」

「私の魔力でミオちゃんの体ができるってなんかいいな〜、でも失敗したときこわいな〜って気持ち」


 ちょっと前半怖かったね?


「回復魔法を覚えたら、そういうことできるんですよ」

「え、私の体つぎはぎにしようとしてる?」

「そんなことないよ〜?」

「ないですよね?レイお姉ちゃん」

「うん、ないない〜」


 えっ、目が怖い。

 2人の目が怖い。

 冗談って分かってるのに怖いよ。


「にー!」


 その目でまだスーナと遊び続けられるレイが怖いよ。


「それじゃあ、今度指とかなくなったらアリスに治してもらおっ」

「えっ、こわいです!」

「そうかな?」


 左手を前に伸ばして眺める。

 2回目同じことになっても、私はやる勇気がある。


「まだ使えないので、この話はまた今度にしましょ!ドロンドイ鉱山の方の森に行くんですよね!」


 ちょっと怖い方向に言ったのが嫌だったのか、アリスがすぐに話を変える。

 そんな日常的な普通の時間を過ごして、今日1日を終えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鼓膜は小さい穴や破れなら自然に治って、大きく破れていたり菌が入って中耳炎を起こしたりすると手術や服薬が必要らしいですね。
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