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ケモ耳少女はファンタジーの夢を見る(仮)  作者: 空駆けるケモ耳
第5章 アンクイン
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515話 診断


「マリン、入っていい?」

「……ぃ、どうぞ……」


 地下室の扉の向こう側から、マリンの声が聞こえてくる。

 「どうぞ」って言ったよね?

 いいよね?


 ゆっくりと扉を開けて、部屋の中を覗く。

 少し草っぽい匂いが鼻に付く。

 部屋の隅にある大量の植木から、壁が見えなくなるぐらいに茂っている植物からだというのを理解する。


 えっ、何この植物群は、いつの間に……

 ルールエに向かう前に置いておいたのかな?

 ちゃんとマリンが世話出来るのかな、すごい育ちようだけど……


 マリンは長机に向かって座っていて、その机の端の方に乱雑に資料や錬金用の素材達が追いやられ、ちょうどマリンの目の前だけ物書き出来るスペースが用意されている。

 何か汚さに拍車がかかっていて、典型的な整理整頓が出来ない人の机、って感じだね。


「ど、どうか、しましたか……?」


 マリンの髪がかき上げられ、前髪に隠れていない青い片目が私の方を見てくる。


「カミラに『マリンから精神病の薬を貰え』って」

「え、えぇ、い、医者じゃないのですが……」


 マリンは困り顔に当然の感想。

 少しペンを止めて席を立ち、積み本の上に置かれていた青いアイテムボックスに手をのはず。


「いやいや、無理ならいいよ?気にしないで?だってほら、何ともないし」

「い、いえ、その、一応、精神系の薬に合わせて、精神病用のテンプレートがあって……」


 そう言いながらマリンの手はガサガサとアイテムボックスの中をかき混ぜる。


 へぇー、精神病用のテンプレートがあるんだ。

 チェック診断みたいな?


 精神病ってそんな簡単に診断出来る物なの?

 まだ医療発展してない世界で、その辺はまだそういう簡易的な問診で済ませちゃってるのかな?


 しばらくマリンを待ってると、1枚の紙と辞書ほどの本が出てくる。


「……」

「しょ、少々、お、お待ちください……」


 マリンが本に手を伸ばす。


 え、今から?

 今から読むの?


「そんなにしなくても大丈夫だよ?ほら、私って元気でしょ?」


 マリンの手を煩わせたい訳じゃない。

 むしろ、2、3分くらいの問診からの「お薬出しておきますねー」の方が一般的じゃないの?


「い、いえ、大したことでは、ないので。と、とりあえず、座って下さい」


 大したことではあると思うよぉ?


「ま、まず、ど、どういった、症状ですか……?」


 私が座りながら脳内でツッコミを入れてる間、マリンが見比べるように紙と本に視線を行き来させながら質問を投げかけてくる。

 無下にはしたくない精神、せっかくやる気になって貰ったんだしサクッとやってもらおっか。


「精神汚染が強い所とか、過度な恐怖を感じる所とか?そういう所に近づけなくて、みたいな?」

「は、はい、はいはい……」


 マリンが本をペラペラとめくる。

 そんなにあるの?


「今さ、すごい普通のこと言ったよ?ほぼ全人類に共通して当たり前のこと言ったよね?」

「た、確かに、そ、そうかもしれませんが…… と、そ、そうです、獣人族の精神構造も、考えないとですね……」


 「うーん」とマリンが声を漏らす。

 何、獣人族の精神構造って?

 人間族と一緒じゃないの?


 だって、ねぇ、一緒でしょ?


「ミ、ミオさんとレイさんの共通した、性格…… な、何でしょう、自信家、とか……?」

「えっ、いやうん、そうかな?」

「あっ、あの、わ、悪い意味では、ありませんよ?」


 マリンが急いで訂正を入れてくる。


 私そんなに自信家かな?

 引いて引いての立ち回りが好きだし、ネガティブな所はネガティブだし、むしろ魔法とかの力があるおかげでそう振る舞えてるだけじゃない?

 あとはリーダーだから、しっかり決めないとって意識?


「あ、あと、ひ、人に、気を配りすぎ、とか……」


 配ってすぎってことはないと思うよ?

 当たり前の範疇でやってる要素だし、レイに限ってはすごく自由奔放じゃない?

 いやでも確かに、レイは案外気配りさんだよね。


 元気じゃない人を見つけたら、すぐに犬みたいにかまって慰めにはいる。

 1人ぼっちの子に手を差し伸べるタイプで、自由奔放に見えて気配りっていうのは確かに頷ける。


「えっ、と、き、気にしいな種族、ですかね……?」

「いやぁ、普通だと思うよ?アリスだってマリンだって人助けでわざわざ危険なあの場所で頑張ってくれて、カミラもなんだかんだ心配してくれてるじゃん?」


 気にしいかはさておき、誰かを想って動く事を、そこまで特筆すべきだとは思えない。

 医療知識ない私が言えることではないのかもしれないけどね。


「で、でも、ウ、ウサギとか……」

「マリンには私とレイが動物に見えてたの?」

「ち、違くて、決して、そのようなことは……!」


 これはイジワルだったね。


「ウソウソ、気にしてないよ。続けて」

「あっ、す、すみません。それで、ミオさんの症状を聞いて、すぐ、思いつくのは、てんかん、なのですよね……」

「てんかん?」

「な、何か、前に診断を受けたりとかは……?」

「ないよ。てんかんってあれ?てんかん発作とかの?」


 VRゲームで遊ぶ時、注意事項として毎回その文字を見るね。


「そ、そうですね。た、ただ、幼い頃になく、急になったのと、邪神を見て、ですから、てんかんより、心的トラウマと見て、ストレス障害と判断する方が、適切…… ですかね?」

「ごめんね。あんまり詳しくなくて」

「あっ、い、いえ……」


 何故かマリンが申し訳なさそうにしてる。

 それにしても、医療知識あるね?

 私にはストレス障害が何か分からないよ、聞いたことがあるぐらい。


「た、ただ、まだ発症してすぐ…… け、経過観察もなしに、急性かも分からないですし、緊張病、脅迫性障害、とかの可能性も……」


 マリンがブツブツと呟きながら本をめくる。

 ……あれ、問診終わっちゃった?

 はやいね。


「え、えっと、も、妄想とかって、します……?」


 と思ったら質問来た。

 そして質問来たと思ったら、変な質問だった。


「それってどっち?悪い方?それともエッチな方?」

「あ、わ、悪い方ですぅ……」


 悪い方だよね、びっくりした。


「うーん、どこからが妄想なの?」

「た、例えば、考えすぎで起こる、何かし忘れてないかの心配、とか……」

「いやぁ、考えたらありそうだけど、そんなパッとは思いつかないかな?」

「な、なるほど……」


 あっ、何かちゃんと問診っぽい。


「え、えっと、次は、幻覚とか……」

「幻覚はねぇ、な、い、かな?」


 ない?

 あれ、本当に?


「いやっ、あったかも」

「ほ、本当ですか……?」

「うわっ、その辺ザ・カラーに聞いておけばよかった」

「えっ、ザ・カラーさん、ですか……?」


 実はルールエに到着してから味方に加わるまで、ザ・カラーから精神攻撃受けてたんだった。

 悪夢を見せて来たり、あの極彩色が暗闇の中で見えたり。

 今思えば、あれで結構追い詰められてた節はあるかも。


 その事をしっかりマリンに伝える。


「な、なるほど…… そ、それは、かなり関係していそう、ですね……」


 うわぁ、そんな精神が弱るとか、私に限ってないでしょって思ってたけど、あの追い詰められ方したら、なっても不思議じゃない。

 それに私が無知なだけで、マリンの目線では色々と病名が上がる時点で、何かしらの病気はあり得るのかもしれない。


 病気とまでは行かなくても、いわゆるトラウマを抱えている状態ではありそう。

 何か、自分にガッカリするというか、そういう点では自信家っていうのはあってるかもね。


 ……いやでも、仮にそうだとしても、だからどうしたの?

 だから私はどうしたいの?

 どうしたいとかないよね?


 私は私で、いつも通りに行くよ?

 そういう恐怖や精神汚染に対してパニックになって足が動かなくなった時、無理やりにでも足にナイフを刺して、正気を保つぐらいの行動をする覚悟はある。

 指落とせる覚悟がある私を、私自身が信じなかったら誰が信じるっていうの?


「つ、次は―――」


 マリンの質問は続く。


 それでも私の中で、この症状に対しての向き合い方が固まった。

 後はマリンから貰う薬とかで、しっかり治していくだけ。


 漠然とした不安が、何となくあった罪悪感が、心から消えた気がした。

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