514話 心配される日
「どぅわ〜!」
「レーイ!」
「うぉ〜、スーナてゃ〜!」
ユスティアの我が家、リビングにレイの声が響き渡る。
位置の関係で角度的に見えないはずなのに、レイが踊るように部屋に入っていったのが想像出来る。
そしてスーナを抱きしめてるのも。
「ただいまです!」
「アイス!」
「アリスですよー」
アリスもスーナのお出迎えを受けている。
そして同じように、私、マリン、カミラも。
「おかえりなさい、ルールエはどうでしたか?」
「うーん、なんだろうね」
私がスッと感想を出さなかったから、スージーが不思議そうに私のことを見てくる。
「もしかして、余り良い場所ではありませんでしたか?」
「何ですかね?タイミングが悪かったんですかね?」
「タイミングがどうだと言った話ではなかろうに」
アリスも不満を漏らす。
そしてカミラが続き、それを見てさらにスージーは疑問の表情を浮かべる。
「何かありましたか?」
「『精霊の森に行ったらアイホートと戦うことになった』みたいに、『ルールエでも変なのに巻き込まれちゃった』って感じ?」
「だね〜」
「スーナ!スーナ!」
レイがスーナの脇下から掴み上げ、ソファに移動する。
マリンはコップを一杯ついで、すぐに地下のアトリエに行くためリビングを出て行ってしまう。
マリンは帰ってきてから資料作成とかやる事いっぱいあるもんね。
「それは大変でしたね……」
「大変でしたねー」
アリスの視線は私に向いていた。
アリスの目には、1番の被害者は私に見えているのかもしれない。
それに気づいてかな、スージーも慈愛の目をこちらに向けてくる。
私個人としては、アリスとかマリンを巻き込みたくなかったから、そっちの方が可哀想って思っちゃうけど。
世間一般では違うのかな?
精神汚染で心に傷を負って、魔力切れも起こして、薬の副作用で体が動かなくなって。
私は自己犠牲の精神で、そもそも被害者じゃないと思ってるのと、仮に被害者だとしても被害者っぽく振る舞うのは好きじゃないから、そんなに心配されても「心配されて嬉しい」としか思えない。
「ミオ、血を寄越せ」
「えぇ、今ー?」
帰って数分で吸血?
忙しいねぇ、吸血鬼って長生きなのに。
「ミオちゃんファイト〜!」
「レイと変わってもいいんじゃない?」
「やだ〜、こわいも〜ん!」
「だそうだ。下手に暴れられても妾としては面倒が故な」
「はいはい」
お風呂にでも入ってゆっくりしたかった。
まぁ、すぐに飲ませてあげればいっか。
そう思いながら自室に向かうカミラの後をついて行って、部屋に入る。
部屋のカーテンは閉まっていて薄暗い。
キャンドルに魔法で火をつけると、それに合わせるように鳥籠の中にいる吸血バッドが目を開いてこっちを見てくる。
「見たら殺すが故」
すごく単刀直入な言葉に、吸血バッドは静かに目を閉じる。
可哀想に。
「屈め」
「はいはい」
吸血鬼様は横暴で。
首元に牙を立てられる。
痛みがピリピリと、血が止まらなく出始める。
気を紛らわす為にカミラの背中を撫で、とにかく終わるのを待つ。
今日はいつもよりも長かった。
「詫びよう。僻地からルールエまでの移動で、大量の血を消費してな」
「遠かったんだ、お疲れ様」
「うむ」
カミラは視線を逸らす。
後ろめたさを感じてる?
カミラに限ってそんな事は……
「お主、また無礼な考えを働かせているな?」
「いやいや、違うよ?」
もう心読んできてるでしょこれ。
「カミラにとって、血が魔力みたいな物なんだよね?」
「魔力は生命活動の産物だ。生命の機能が損なわれている妾は、他の要素を魔力に変換する必要がある。それだけの話だ」
その理屈だと血じゃなくても、ご飯でよくない?
無駄に痛い思いしてる?
「加えて、血は生命活動の賜物が故な。特に効率が良いのだ」
よかった、無駄じゃなかった。
「さてお主、本題だが」
「あっ、なに?」
血を吸うのオマケだったんだ。
「心の方はどうだ?問題ないか?」
えっ、精神科医?
カウンセラーの人?
小学校で月1ぐらいでそういう人来るけど、こんな感じなのかな?
カウンセラーにしては部屋が禍々しいかも?
「うん、全然大丈夫だよ。むしろ心に傷があるとか言われたのがよく分かってないぐらい」
現実世界だったら躁鬱とか鬱とか、脅迫性とか?
色々と精神病があると思うけど、少なくともそのどれにも当てはまらない自信がある。
だって精神汚染で無理やり恐怖を与えられてるだけじゃん?
それって病気って言わないと思うんだよね?
プラス、あり得ないぐらい元気。
「上辺、だけではなさそうだな」
私の顔をよく覗いてくる。
すごい、すごい心読んでくる。
そんな、カミラにしては心配しすぎじゃない?
「やはりお主……」
「いや、何も考えてないよ?」
カミラがジッと見てくる。
危ない危ない、心読まれるところだった。
「まぁ良い、妾とて暇でない」
いつものカミラが帰って来た。
その冷たい手で私の頬を撫で、自身の机に向かう。
本当にカミラの手は冷たい。
「下に戻ってもいい?」
「その前にマリンのアトリエに向かうと良い。症状をよく診させ、適切な薬を処方させよ」
「はーい」
せっかく心配してくれてるの、無下には出来ないからね。
とっくに塞がっている噛み跡を確かめるように撫でながら、カミラの部屋を出て、今度はマリンのアトリエに向かう。




