512話 マリンの未来視
すみません、月曜のおやすみします!
わぁ。
端的に、何もやる気が出ない。
レイに遊ばれるだけの、人型の何かになった気分。
「わぁ」
馬乗りになって、レイが私の胸に耳を当ててくる。
心音を聞いてるのかな。
レイのケモ耳が私の目の前でふらふら、ピコピコと動いている。
「ミオお姉ちゃん、帰ってから全然動かないですね」
「ミオちゃんに薬飲ませたら、いつもはできないことで遊べるね〜」
「こ、怖いですよ、レイさん……」
怖いねぇ。
薬飲ませて、何も出来ないようにさせて弄ぶとか、言ってる事が犯罪者だよ。
私は何をしているかというと、何もしてないんだけど、要は精神安定剤の副作用で、ものすごい無気力感に苛まれている。
面白い話、頭はすごく回るのに、1回ベッドに横になっただけで寝返りを打つのすら大変なまでに、身体が言うことを聞いてくれない。
言葉を発するのも大変。
「ミオお姉ちゃん、お腹空いてませんか?」
アリスが顔を近づけてくる。
顔がいい。
弄んでくるレイに対して、アリスは人のことを慮ってくれる優しい子で、胸が暖かくなるよ。
レイの頭がくっついてるからあったかくなってるだけかも。
とりあえず6時間経ちそうだと思ったから、適当にありあわせの食事を取ったから、お腹は空いてない。
それを伝えようと思って首を縦に振ろうとしても振れず、言葉を発そうとしても発せず、やらせない気持ちになってくる。
「ミオちゃん返事できないよ〜?」
「そうなんですね」
アリスはちょっとだけ私のことをジッと見てくると、ほっぺたを突っついてくる。
「えへっ」
アリスが嬉しそうに頬を緩ませる。
かわいいね。
私の空腹度はどうでもよくなっちゃったのかな?
「未来視は可能か?」
「あっ、はい」
ギリギリ視界の端、マリンとカミラのやり取りが見える。
マリンの目が赤く灯り、カミラの方を見ているようで、そこで焦点があってないように見える。
どういう風に見えてるんだろう?
「どのような未来が見える?」
「カ、カミラさんが、お、お墓の近く、で…?」
「ふむ…… あり得る未来だ」
誰かのお墓参りかな?
でも場所に囚われていないのが分かるね、だってここ宿だもん。
真面目に分析をするなら、その人に関連した未来を見る事が出来る。
「時間を指定して見ることは出来るか?」
「ど、どうでしょう…… け、研究してみないと……」
錬金魔法の研究はいいのかな?
「お主は既に研究の専門を持っているであろう?平行して進めるのか?」
「そ、そう、なりますかね……」
「マリンちゃん大変だね〜」
「い、いえ、そ、そのようなことは、大したあれでは、ないですし……」
大したあれだと思うよ?
錬金と未来視だよ?
世界によっては大賢者扱いされても文句ないよ?
「今の所は時間指定は無理か。余り使い用がないな」
「す、すみません……」
「何、謝る必要はなかろう」
カミラにしては優しい反応。
本当に謝る必要はないけどね、マリンはちょっと否定されると負い目を感じがちだから。
ただ直感で危険な未来をパッとみれるみたいな、そういう未来視よりかは少しだけ不便っていうのは、ちょっとだけ事実だね。
「しかし、有用な魔法であることは間違いないが故、出来ることならば使いこなせるようにしたいな」
「それは、そう、思います……」
でも「イメージで時間指定してください」って難しくない?
そもそも時間についての物理学的知識がないのと、どのイメージか的確にその時間指定を出来るかを私は全く想像出来ない。
こう思っちゃった以上、私は時間指定出来ないんだろうね。
「ずっとマリンお姉ちゃんのほう見てますね」
アリスが声をかけてくる。
別に嫉妬とかではない、だってマリンは未来視という不思議なことをしてるからね。
アリスだってマリンに気を取られていたはず、そのふとした瞬間に私の顔が視界に入ったのかも。
「な、何も、面白いものは、ありませんよ……?」
いいや、見るよ?
だって面白いもん。
「目の色が変わる、否、これは比喩表現ではないぞ?真に目の色が変わる理由は何故だ?」
「えっ、えっと、その、目の色が変わらない、というのが、よく分かっていなくて……」
マリンは目を擦りながら、アイテムボックスから手鏡を取り出す。
「その、未来を見てる時、目の前が、見えないんですよね……」
マリンの赤い目は手鏡を捉えているように見える。
それでも視界が未来の世界に塗りつぶされてるなら、たしかに見えてないね。
そう思うとちょっと不便そう。
「ふむ、似通った魔法があるが……」
カミラはそう呟き、天井の方を見ている。




